▼夢十夜

舞台はうちはマダラの足元に移る。
拘束され、窮地に追い立てられている状況下で、うちはマダラは勝利を確信した。
宵闇には怪しい笑みがふたつ。

「交代だ」


「強がるな、もう戦争は終わりだ!」

千手柱間はマダラに食ってかかった。
敵の要は落ちた。神樹の花ももうすぐ枯れる。狂言に脅されはしない。だが、未だ肌を這うこの不吉な予感は?
マダラは未だ笑っている。

「ナルト お前には感謝している。オビトから尾獣共まで抜いてくれた……奴を弱らせる手間が省けた」

封印術が迫る刹那。

「悪イナオビト オレハコノ為ニイタヨウナモノナンダヨ」

「黒ゼツ…!」


輪廻天生の術!!!

ドクンドクン。押さえられた左手には確かな鼓動が、皮膚の下には赤い血が刻まれてる。御覧在れ此処からはいびつに歪んだ喜劇。

「やはりこの体でなければ。血湧き肉踊ってこその戦いだ!!」

亡霊は脱した。

「……そこか」

虎を墨に還すと、獣が標的の匂いを嗅ぎ分けるが如くマダラがその術者に向き直った。あの者が探し物を持っている。今なら軽く地を蹴るだけでどこまでも素早く移動できる。

「その巻物だな。差し出すがいい」

サイの懐の目前まで跳ぶとマダラは腰のホルダーに収納されていた巻物に手を伸ばした。

「!」

其れが自身の所有物であると疑いもせずに。サイは体を捻り少しでもマダラと距離を取ろうとしたが時既に遅し。封印の巻物を力ずくで奪われサイの体も反動で地に伏した。

「サイ 大丈夫か!」

「くっ……あの巻物には…!」

しゅるり広げられた巻物の中心。墨黒の文字でできた円を片手が覆った。

「待たせたな」

僅かな煙に巻かれて現れたのは、力無く横たわる人影。長い髪が波打ち地面に広がり、露になった横顔に、ナルトは目を見開いた。

「シズクっ!」

固く瞼の閉ざされている亡骸を見下ろし、マダラが手を伸ばす。彼の口角は怪しく釣り上がっていた。神はそなたの前に。そう言いたげな表情である。
マダラは右手をシズクの首の下に、左手を膝の裏に差し入れ持ち上げた。

「てめェ何するつもりだ!シズクを放せってばよ!!」

「完全体になってしまえば、忍の一人や二人 生き返らせることなど容易い」

マダラにおいて人の価値は力或いは資質。必要とするは強い血である。完全となれば老い無く死無く、幻の世界を築いて永遠を歩むことになる。未来図は一割を除いて完璧であった。
計画はただひとつ、雨月一族の末裔が命を落としたことだけ狂っていた。千手とうちはと同じ直線上に並ぶ運命にあるというのに失われた、資質ある血族。否、その血。
うちは一族の“須佐能乎”を唯一、真の完全体に昇華できる力。

この娘の祖母にあたるくのいちはマダラのかつての友であったが、力を使わず逃げた忍に興味はなかった。マダラが望むのは惜しみ無く能力を発揮する者である。
救世主の復活を見届けるに相応しい血をマダラは選んだ。

「お前も立ち会うのだ 雨月の小娘よ。此処は救世主の復活の場。この救世主に永久に仕え、その力を捧げよ」

退屈に息絶えることなく、我に跪きその力を使え。永遠に躍り続けろ。マダラは呟くと、冷たくなっているシズクの体を抱き上げた。


「しまった……!」

うちはオビトが十尾の人柱力となる寸前、サイは秘密裏にシズクの遺体を奪還していた。
この二日間、どの戦線においても同様に、仲間たちは殉職者の亡骸を回収してきた。忍の遺体は情報の宝庫であり、可能な範囲での回収は、故郷で帰りを待つ家族にとっても欠くことのできない作業だった。

閉じられた瞳で以て、マダラはシズクをつぶさに観察する。無限月読にかかった後の世界で、救世主としてただの一人では味気無い。この娘が蘇り、本来の再生能力を行使すれば、自分と永遠に戦うに相応しい相手となる。

「成る程、特異な封印術でチャクラを散らしたか。ならば穢土転生は効かんか……だがどのみち“眼”が戻りさえすれば、分散したチャクラをハエ共から奪い返すのは簡単なこと」

それまでの間、死体は引き連れ回すには邪魔で戦闘に集中できまい。そう考えたマダラはシズクを再び地に下ろした。彼女の周囲に青い炎が揺らめき、やがてそれは鎧兜の戦士を形成する。

「須佐能乎か」

「くっそーっ!アイツってばまたシズクを!」

サスケが応戦する中、ナルトやサイはシズクを幽閉した須佐能乎に近付こうと駆ける。しかしマダラは印を組まずに体内で既にチャクラを練っていた。

火遁・灰塵隠れの術

「うわっ!熱っ!」

熱風吹き荒れり。復活し凄まじい威力で周囲の全てを吹き飛ばすと、マダラは倒れた忍を足蹴にした。踏みにじりチャクラを吸引すると、今度は瓦礫の向こうの尾獣たちに対峙した。

「さぁ 次はお前らをいただくぞ。畜生共」


*

皮膚の下を流れる、掌を抉ると傷口から滴る新たな血。

「ハハハハハハハ…………」

九喇嘛をしておぞましいと言わしめる血。それは仮初めの転生では得られぬもの。

「左目はもう少しかかりそうだな」

「みたいですね。こっちも少し時間がかかりそうだけど」

「ペットを連れ戻すのに何年もかかったガキと一緒にするな」

「血だらけですけど…」

マダラの存在理由、それは戦い。傷の痛みでさえも生きている実感となる。その邪悪な血で、マダラはオビトに残留する外道魔像を召還した。計画は直ぐに果たされる。

「柱間の治癒の力があると分かっている分 戦い方に優雅さが欠けてしまう。もう少し丁寧にいく。輪廻眼本来の力を使えば高尚な戦いに見えよう。数秒だ。よく見ておけ」


輪墓・辺獄

「!?」

「急に尾獣達がふっとんだぞ!!」

「少しはおとなしくなったな。これでやっと首輪をかけられる」

輪廻眼の片方を取り戻し、あと一歩で完璧になる筈。それなのに何かが足りていないかのように、どこからか隙間風が吹いているように。
僅かに視線を反らした先、須佐能乎に守られ永遠の眠りにつくがいる女がいる。彼女を見、マダラは譫言のように呟いていた。

現世を旅立ち、辺獄に出でて。
この夜を何十年と待ちわびた。

「後少し…後少しだぞ……シャシよ」



ふいに、誰かに呼ばれた。

私はそんな名前じゃない。
それでも確かに誰かが私を呼んでた そんな気がしたと、シズクは背後を振り返る。
そこにはやはり誰もいない。

体の向きを元に戻すと、さっきまでは感じなかった人影があった。奇妙なことに、何もなかったはずの視界には、やや目線より高い位置に老人が浮いていた。

「お主の勘は間違ってはいないぞ」

夢でも現でも辺獄でもなく、一言で語れぬ場所。
どこかと答えるなら、ここは誰かの中である。
なぜそんな辺境に人が現れたかをシズクは不審に思ったが、素直に問うことにした。瞳の輪廻眼を除いては、老人の世俗離れした容貌に思い当たる節がなかったからである。  

「あなたは誰です?」

「ワシは安寧秩序を成す者 名を大筒木ハゴロモという」

「大きつつき?」

「大つつきじゃ。お主の世では六道仙人として名が残っておる」

「六道仙人様……」

シズクは目を丸くし、しばらくだんまりを決め込んだ。六道仙人はその反応がやや不服であるのか、二三咳払いをしてみる。

「突然ワシが現れたというに主は驚かんな」

「いえ、驚いてはいるんですけど…私の方も死んだり生き返ったり、なんだか目まぐるしくてイマイチ実感が」

「成る程」

シズクの率直な返答に、仙人は微笑みを返した。

「六道仙人様、私はチャクラをみんなに配分して死にました。ここは穢土ではないのでしょう?」

「左様」

狼狽ひとつすることなく、自らの死を受け入れた声。ひどく落ち着いたシズクの様子に仙人は内心安堵していた。

「お主は他の二人よりも物分かりが良くて助かりそうじゃ。ここはうずまきナルトの中である」

「ナルトの中?」

「本人の承諾を得てワシがお主の深度まで踏み込んだ」

うずまきナルトの中、という表現は非常に抽象的であったが、おそらくは、ナルトの身体に封印されたシズクのチャクラに、六道仙人が意志疎通を図っているということで違いはないようだ。


「なぜあなたが私の前に現れたんですか?」

六道仙人・大筒木ハゴロモは、憂いの深い眼差しをシズクに向け、口を開いた。

「お主にも関係する人物について語る必要があると思うて来た。ワシの末娘、シャシについて」

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