▼星の名前
オビト、覚えるか。昔リンがオレたちに本を貸したことがあったろ。異国の小説。星から星へ旅する王子の話を。
巻物や教本にしか目を通さないあの頃のオレは興味がなかったけど、進めたのがリンだったって理由で、お前は何度も読み返してたろ。大切なものは 目に見えないってあの言葉を、何度も。
聞かせてくれ。あの話に出てきた言葉の続き。
「……リンはオレにとって唯一の光明だった。リンを失った後、オレの見る世界は変わってしまった。この世界に希望はない マダラに成り代わって世界を歩いたが…さらにそれを確信するだけだった。この写輪眼を以てしても結局は何も見えなかった」
オレが神威空間から戦地に帰ってきたとき、オビトは己の最期を受け入れて待っているようだった。
オレもハッキリは分からない。
ただひとつ分かる。ようやくオレたちに、本当の心を見せ合えるときが来た、と。
瞼に宿る赤い眼。本来なら決して向かい合うことのない眼で、オレたちの視線が交わる。幼いとき、オレは心の内を誰にも見せようとはしなかった。そしてお前ともわかり合えると思った頃になって別れが来てしまった。
「確かにお前の歩こうとしたのも一つの道だろう…本当は間違いじゃないのかもしれない。オレだってこの世界が地獄だと思ったさ。オレはお前を失ったと思っていたし、すぐ後にリンを失い、そしてミナト先生まで失ったからね」
オビト、お前はひとりになって何を見た?
その地獄の色はオレにも映っていたか?
お前がいなくなった後も、オレは探してたよ。ハッキリとは分からないが、この眼を凝らしていたんだ。ブレにブレて、誰ひとり救えやしないオレに正解なんて導けないけれど。
「お前がくれた写輪眼と言葉があれば、見える気がしたんだよ」
そして見つけたんだ、目を瞑っても消えない光を。
シズク、ナルト、サクラやサスケ。大切な存在が次々に増えた。
「ナルトの道がなぜ失敗しないと言いきれる!?」
「イヤ……あいつも失敗するかもしれないよ そりゃあね」
「オレと何が違う なぜ奴にそこまで…」
「オビト 今のお前よりは失敗しないと断言できるからだ。あいつが道を躓きそうなら、オレが助ける」
今こうしてる間にもまだあいつは戦ってる。
「あいつは自分の夢も現実も諦めたりはしない。そういう奴だからさ。そしてあいつのそういう歩き方が仲間を引き寄せる。つまずきそうなら助けたくなる。そのサポートが多ければ多いほどゴールに近づける。そこが違うのさ」
オレたちはの忍の力を神の木に返すことはできないけれど、オレたちは許して許されて、生きていっていいはずだ。
「この真っ暗な地獄に……本当にそんなものが…あると…」
「お前だって見ようとすれば見えたハズだ。オレとお前は同じ眼を持ってるんだからな。信じる仲間が集まれば希望も形となって見えてくるかもしれない。オレはそう思うんだよ オビト」
オレが今見ている、空に瞬く光も、同じ眼を持つお前には見えてるだろ。月よりも大きく闇を蹴散らすように眩しく輝く十字の光。
希望。それがあの光の名前だ。
*
一筋の光明が瞳に届くと、オビトは限界に近い体を震わせながら、静かに両手を合わせた。
「オビト 何をしようとしてる!?」
「かつてオレが利用しようとした男が…オレを裏切った手段だ……」
「!まさか、」
「自分も同じことをするとは…思いもよらなかったがな…」
その印を知らぬ者にとっては、オビトの所作はまるで祈りを捧げているかのように見えていただろう。
外道・輪廻天生。
それはかつて、ペイン襲来後の木ノ葉で行使された術。
「その術を使ったら代わりにお前が…!」
「なぜ長門が かつてオレを裏切ったのか、今なら分かる気もする……数珠繋ぎの重なった人の想い…それも強い力になるんだな」
息も絶え絶えのまま、オビトはミナト先生とオレに語りかけた。己で断ち切ろうとしていたはずの絆を結び直すように。
「向こうでリンに…合わせる顔が…ないな…」
「本当にそれでいいのか?生きて償うことだってできるんだぞ」
「イヤ そんなのは……生易しい」
もう友の死は見たくない。だが、これがオビトの決断なら、今度こそ友が望む道を歩ませてやりたい―――
天から救済を得たようにオビトが目を細め、チャクラを練ろうとした そのときだった。
「今度ハオレモ協力シテヤル!」
「!?」
人に在らざるそれは地中から前触れなしに姿を現すと、オビトの身体を鷲掴み、逃がすまいと笑みを浮かべた。
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