▼いっせいにせーので

見上げた夜空に満月が輝いている。なんてきれいな月 でもオビトにはその美しさも、今は見えてない。

「もう貴様らはオレには勝てん。この剣は六道仙人の ぬのぼこの剣だ。想いの強さが宿る心の剣……仙人はこの剣でこの世界を創造した。そしてオレが、この剣でこの世界を消す!」

いばらのように刺々しい、天に伸びる黒い剣。オビト、あなたは国造りの刀ですべてを片付けてしまおうと言うの。目の前の風穴の、その先の光には瞳を閉ざしたの。

矛先を向けられたナルトは固く唇を結び、心の奥でみんなへ語りかけた。
滲まない太陽。挫けそうなとき、振り向くことを忘れても、呼んでくれる声がいる。

「おい皆……今の」

「ああ」

「テンテン これって!」

「うん!行くわよリー!」

リーくん、テンテンさん。ナルトの呼び掛けにみんなが答え、ひとり、またひとりとナルトの元へ集まっていく。
一緒に行こう。

「あいつが呼んでる」 

一緒にいこう、シカマル。

呼ばれるまま、迷いなくみんなは九喇嘛の尾の中に飛び込んだ。ひとりにひとつずつ作っていた螺旋丸をナルトが託すと、触れたみんなの指先から力が伝わって、おそろいの光の羽織に包まれた。

≪螺旋丸は皆に託す!うまく奴の盾をぶっ壊してくれってばよ!≫

「これね!」

「ボクがうまくできるかな?」

大丈夫 ひとりじゃない、みんながいるよ。
となりの顔を見合わせれば怖いものひとつもない。前に進もう。
もしも、それでもやっぱり不安になったら、私がみんなの盾になって守るから。
向こうで待ってるあの人の孤独に、ひびを入れよう。

≪大丈夫!!≫

さあ、笑った人から舞台の上へ。


*

大切な人の墓の前で、涙を流しながら二人で立っていた。

隣に立つカカシと気持ちを共有していたのは、目をふたりわけ合ったからじゃない。オレたちどちらにとっても、リンが大事な存在だったからだ。
胸にぽっかりと大きな穴が開いている。オレたちはこの悲しみを抱いて大人になろう。これからはこの悲しみを繰り返えさないように、生きていこう。

涙を拭って振り返ってもリンはいないが、待ってる仲間がいる。里に帰ってきた。今は亡き彼女が守ってくれたから、オレはここまで生き延びた。天気のいい日は空を見上げるんだ。澄み渡る青空の下には連なる歴代の長の姿がある。守り続けよう。オレの顔が先生の隣に刻まれて、そのまた隣に新しい影が出来るまで。


……なぜ、オレはこんなイメージを……


「十尾を引き抜け!そうすりゃ奴の力は十尾の脱け殻だけになる!大樹の花も開きはせん!」

ナルトが得ていた尾獣チャクラに呼応して、この身に閉じ込めた十尾のチャクラが外気に曝される。
烏合の衆であるはずの忍たちが尾獣チャクラの元へ一点に降り立つ。
千人、万人の両手に掴まれて、引き寄せられている。

「よっしゃあー!!皆ァ!!一斉にせーのォでいくってばよ!!」

瞬間、体が大きく揺れた。


「せーーーーーーーのォ!!!!」





目の前には奴等が見える。
姿形も装束も異なるが同じ文字で繋がっている。

オレの前に背中はなく、後ろにもない。
手を伸ばしても何も掴めない空白だ。
対岸にいるナルトの顔が、いつの間にか若き日の自分の姿にトレースされ、移り変わった。万人の中にオレがいる。誇らしげな笑みを浮かべて。

このオレが後悔しているというのか。



「お前はオレに“誰でもない…誰でもいたくない”って言ったよな」

ナルトがゆっくりとオレに近づいてくる。

「やめろ オレの中に入ってくるな!」

「でも本当はオレと一緒で、火影になりたかったんだな」

「!」

「もしかしたらオレはアンタの後ろを追っかけてた場合だってあったかもしれねーんだな。オレは火影に憧れてるから」

「捨てきった過去と甘い自分だ!こんなものを」

「なら何でオレに見えんだよ。面して自分隠したってダメだ。アンタはカカシ先生の友達で、父ちゃんの部下で、サスケと同じうちはで、オレと同じ夢持つ先輩で木ノ葉の忍だった」

「何なんだ…一体 お前はオレをどうしたい!?」

「言ったろ!ぜってーその面ひっぺがしてやるってよ!!アンタは…うちはオビトだ!」

「うちはオビトだと……今さらその名に何の意味がある?十尾と融合した今、オレは超越者として悟りに至ったのだ。もう人ではない 次の段階へと人々を導く者、六道仙人と意志 体を同じくする第二の六道仙人だ」

「違う!お前はうちはオビトだ!」

「!」

「さっきチャクラがくっついて、アンタの過去が見えた。アンタとオレは生い立ちも火影目指したのも一緒だ…本当にそっくりだ。両親を知らなかったことも…自分にとって大切な人がいなくなったのも。だから一番怖えェのが孤独だって知ってて、オレを脅したんだろ」

「…」

まるで自分の痛みのように、そんな目でオレを見るな。

「オレと同じなら、アンタも最初は誰かに認めてもらいたくてほめてもらいたかった。それがほしくて火影を目指したハズだ!けど、オレと同じ夢持ってたアンタが火影とは真逆になっちまった…」

火影岩を見上げる、かつてのオレは。

「アンタの今を見てみろよ!忍全てを敵にして世界の為だとか何だとかヘリクツこねて、自分の都合でやってるだけじゃねえか!!その大切な人からも認めてもらえねーんだよ。今の夢は!!」

リン、この景色はどう映る?
今のオレはどう見える。

「同じだったからこそ、オレはこの世界に絶望するお前を見てみたかった。もう一度実感したかったんだ……オレ自身の進むべき道が間違っていないことを。お前はかつてのオレを思い出させた。だから試したくなったのだ」

そっくりだったお前がいつ絶望するのか。
今までの想いを捨てきるのか待っていた。
同時に、それを拒んでもいた。

「オレはそっくりだったからこそむかつくんだ!!アンタは全部捨てて逃げてるだけじゃねーかよ!!」

「オレのやってることは火影と何ら変わらない。イヤ それ以上だ。平和を実現できるのだからな」

「お前……本気で言ってんのか…ソレ…?」

お前はオレの、オレはお前の鏡だ。ならば答えはわかるだろう。

「本当の本当にそう思ってんのか?」



「リンがオレを救ってくれるってことはつまり、それは世界を救うってことと同じなんだよな」

「え?」

「だってホラ、オレは火影になってこの戦争を終わらせる訳だろ!それにはオレがこの世に元気でいないと…意味分かる!?」

「うん!分かりにくいけど」

「それにはやっぱ…何て言うの…オレのことずっと側で見ておいてくれないと…つまり…その…」

「ん?」


笑顔でオレの顔を覗きこんでくる彼女はとっくの昔に消えてなくなってしまった。洗い流されれば実に容易い。
あれから一度も涙は流れない。
そして笑うこともなくなって。

「…そうだ…そう思ってる」

いつ 違えた?

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