▼幼なじみ

「ちえっ不戦勝かよォ。つまんねってば!」

「シズク、かなりの強運よね」

やや離れた観覧席にいる第十班たちのところまで届く、ナルトやサクラの会話。
ああやって能天気でいられんのはいいよなあと シカマルはひとりごちた。
文句言いてェの、こっちのほうだっての、と。 

というのも、シズクが仲間たちに向けている笑顔は、シカマルには完全に作り笑いにしか見えなかったからだ。死の森の一件以来、どうもシズクの威勢が悪いような気がしてならない。

「こんなもの」

死の森で、音忍たちが去っていった後。巻物を見て俯いたシズクの 何とも言えないもどかしげな表情を、シカマルの他に一体誰が目撃しただろうか。あれは単なる後悔や落胆だけじゃない、何かを察した顔だった。
三代目火影が第三の試験予選前に触れたように、シズクは忍界の事情を肌で感じ取っているようだった。

幼なじみがこのまま本選に出る。
あいつのせいで何度オレの寿命が縮んだかわかったもんじゃねー。と、シカマルはつくづく思う。

「……クソめんどくせーな」

シズクが不戦勝となった時点で、本選に進む忍はうちはサスケ、油女シノ、砂隠れのカンクロウとテマリ。湯隠れのキリュウ。そしてシズクが追加され、現時点で六人となった。

シカマルは戦いがまだの忍たちを頭の中でリストアップし、ここからの試験の通過者を予想した。
まず、明らかに目付きのヤバそうな砂忍のラストひとり。それに木ノ葉の一期上の日向ネジは、対戦相手が誰になろうと必ず通過する。リーもカタい。実力では音忍が次に続く。さいごに、いのやサクラの結果しかり、順当に考えて木ノ葉の残りのルーキーは予選止まりだろう。無論、シカマル自身もそれに含まれる――と、考えていたその矢先。
シカマルがふと見上げた先の電光板には、自分の名前が刻まれていた。

《奈良シカマル VS キン・ツチ》

「オレね……」

オレも棄権すっか。
シカマルは階段を降りる途中でそうも考えたが、それはそれでかっこ悪いように思えた。

「あーあ めんどくせー」

対戦相手は死の森で戦った音忍の一人。つまりシカマルの影真似は既に敵に知られている。対し、相手の戦法は不明。

「しかも女が相手じゃやりづれーな…」

「ならすぐ終わらせてやるよ」

観覧席からは、いのにチョウジ、アスマの声。

「シカマル負けんじゃないわよー!!」

「ほどほどにガンバれシカマル!」

「まあ面倒臭がらずに実力見せてみろよ」

そしてちょっと離れたところから、シズクが手を振っていた。

「頑張れ!!シカマル!」

女に運がない。
昔から振り回されてばかりだ。
あいつはまた、あんな顔するんだろうか。
次の試験や、この先の任務でも。

(…見たくねーな あんな作り笑い)

止めに入れるか。止められるか。
それなら、少なくとも自分もシズクと同じところに立っている必要がある。
つまりは本選に残っていたほうがいいわけだ。

「それでは 開始ッ!!」

*

シカマルの試合が始まると、サクラはちょっと思案げに、シズクをしきりに見やっていた。

「なあにサクラ さっきからじろじろ見て」

「別に?シズク、シカマルの心配とかしないのかなって」

「問題ないんじゃないかな。相手がくのいちでイヤそーな顔してるけど、敵に合わせた戦略練るの得意だし」

「そういうことじゃなくて」

「じゃあどういうこと?」

「勝てそうでもちょっとは不安になったりするんじゃないかって思ったのよ!好きだったら!」

「またそれかぁ」

その手の質問は アカデミー時代から今に至るまで、シズクは飽きるほど詰問されてきた。そして皆決まりきって、シズクの朴念仁な返答に不満そうな顔をするのだ。

「その質問よく聞かれるけどさ、みんななんでそんなこと聞くの?そりゃシカマルは好きだよ。幼馴染みだもん」

「うーん…」

サクラは腕を組んでちょっと首を捻った。

「例えばさぁ、私やいのはサスケ君に恋してるでしょ?大切って気持ちだけじゃなくて、恋愛感情があるかないかってことが気になるの」

「恋愛感情って、たとえばどんな?」

「そりゃ……その人のそばにいるとドキドキするとか、もっと近づきたいなーとか、触れたいなって思うとか〜……って、キャー!皆まで言わせないでよっ!」

「ぐはっ」

赤くなったサクラから鉄拳をお見舞いされ、シズクは口を尖らせて言う。

「……ドキドキはしないかな」

「しないの!?」

「家族みたいな感じなんだもん。一緒に住んでたこともあるし。兄弟に近いのかなあ」

「……シカマルも苦労してんのねー…」

「へ?」

「ううん こっちの話」

「あ!もー、話してるあいだにシカマルの試合終わっちゃったよサクラ!」

不真面目さ故にアカデミーでは万年ドベ組に判別されていたが、この試合も、案の定 シカマルは特に苦労するわけでもなく、いかにもシカマルらしく勝ってしまった。

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