▼忍び耐える者

オビトの背から外界に放たれた十尾は、神樹に変貌を遂げた。
大蛇のように蠢く大木が空を覆い、私たちの行く手を阻む。地面を裂く枝は意思を持ち合わせているかのようで、触れるもののチャクラを吸い付くしてしまう。枝を掠めた忍の頬が痩け、体も陥没したと見紛う程に萎縮し まるでミイラだ。

忍たちが次々に倒れていく。

「これが神樹だ!十尾の最終形態だ!!!これじゃナルトが皆に渡したチャクラも意味がねェ!!」

生きた人間では飽きたらず、火影様たちや私のチャクラも狙っている。間髪入れずに襲ってくる大木を後退しながら交わしていると、急に背後に衝撃を感じた。

『ぁぐっ!!』

「忍が背中を見せるものではないぞ」

首にきつく回された片腕、持ち主はうちはマダラだ。マダラは確か、初代様と戦っていたはずなのに。私を羽交い締めにして自由を奪いながら、ほくそ笑む邪悪な横顔がちらりと視界に入った。

『離せっ!』

「お前の輪廻眼は穢土転生によって作られた偽物だが…オレが復活するための保険位にはなろう。オビトは少々危うい部分があるからな」

『くっ、』

輪廻眼の斥力で吹き飛ばそうにも、マダラは同じく輪廻眼の術者。相反する引力を使われ、しかもマダラの方が一枚上手 拘束を解こうともびくともしない。

「よさないかマダラ!」

初代様が神樹を掻い潜って、私とマダラに向かい合うように着地した。

「何者にも止められはしない。見ろ、あれを」

植物とも獣とも分けがたい化け物が、月を目指すように天高く伸びていく。不気味なまでに恐ろしく、悲痛さを併せ持つ歪なシルエットが月夜に浮かんでいる。

「本来チャクラとはこの神樹のものだ!ここにある全てのチャクラ…柱間、シズク、お前たちの膨大なチャクラもそうだ」

「何?」

「かつて神樹からチャクラを奪ったのは人の方だ。コレはそれを取り返そうとしているだけだ」

マダラは語り始める。
千年に一度実る禁断の果実を食らって神の力を得た女、大筒木カグヤのことを。
彼女がその実を口にした瞬間、夢の力を得た代償に、私たちの全ての忍はその力で永遠に戦いを続ける呪いを背負ったことを。
神樹もまた、奪われた力を求め、こうして忍たちからチャクラを吸いとっているのも、本来の自分のものを取り返しているだけなのだと告げた。

「オレはそれを知って絶望した。この世界に本当の夢は無いのだよ 柱間!その実に人が手を付けた時より人は呪われ、より憎しみ合う事を決定付けられたのだ。忍そのものがその愚かさを象徴する存在だとは思わないか!?それならばいっそ…」

「この神樹に頼った力が…大幻術が…お前の言っていたさらに先の夢だってのか!?」

「ああ。だがほんの少し違う。この神樹のつぼみが開花した時、花の中の眼が天上の月に写り無限月読は完全となる。そしてそれを為すのはこのオレだ」

『マダラ!!私の孫に触れるな!!!』

マダラが執念深い笑みを露にしたその時、彼の背後から矢が放たれた。

『行きなさいシズクっ!!』

『おばあちゃん!』

『奴に証明するんだ!忍の運命は憎しみだけじゃないって!!』

マダラが雨月シズクの攻撃をかわす一瞬の隙をついて、私はマダラの懐から逃げ出した。祖母に背を押されて。彼の元から飛ぶ刹那、群れをなして襲かかってくる大樹に、祖母の半身が吸いとられたのが見えた。

『おばあちゃんっ!!』

樹の触手がすぐ頭上を通過し、僅かに触れたであろうチャクラの羽の両翼が無惨にも根刮ぎもぎ取られた。

『あぁっ!!!』

バランスを失い容赦なく地面に叩き付けられる。

『っ…!』

朧気な視界が段々鮮明になっていくと、すぐ近くで絶命した忍の亡骸が転がっているのが確認できた。チャクラが減りすぎて自由の効かない体をやっとのことで起こすと、広がるは見渡す限りの地獄。喉をからした木々が枯渇した土地を埋め尽くしていく。焼け野原に散らばる人、人、人。

サクラが倒れ、呻いているのが見える。みんなも。


そこには力なく倒れているシカマルの姿もあった。


『シカマル!!』


蛞蝓様の分裂体たちも吸収されてしてしまうこの場 では、チャクラの遠隔治療ができない。

マダラ、あなたはこれが私たちの呪いだと 言うのか。
今まで私たちがやってきたことは何だったの。ナルトが命がけでみんなを守ろうとした想いは何だったの。今まで何度も信じて、立ち上がってきたのに。


「もうじっとしていろ。お前らは充分耐え忍んだ」


“耐え忍ぶ”
それは、私たち忍が忍であるための合言葉だ。
走馬灯のように、豪快に笑うあの人の顔が頭を過り、いつかの記憶を目覚めさせる。共に雨隠れの任務に向かう前 連れていってくださいと頭を下げた私に、彼は教えたのだ。

『忍者は…忍び耐える者………持ってる術の数なんかじゃない 大切なのは…!諦めない、ド根性!!』

掠れた声で、自来也様から受け取った言葉を呟く。
彼が遺した魔法の言葉。
歯を食い縛って掌に力を込めた。大地を踏みしめて、一歩。もう一歩。


*

月に大きな蕾を向けた神樹に寄り添うように、オビトの波紋の目が光っていた。
ふわり。倒れた忍たちの体が、うっすらと白いチャクラを纏う。
神樹の吸引に寄ってその光は安定なく揺らぐが、あたたかな流れは決して消えず、ベールをかけたように肌を包みこんでゆく。

オビトはこの異変に気づいた。このチャクラの持ち主は、自分の術で片腕をもがれたはずだった。しかし眼下に佇むシズクは、桃色の髪の医療忍者の片手を借り、二人でひとつの印を結んでいた。

『これが私の最後の術だ』

「チャクラの治療は無意味だとまだわからないか?」

『無意味じゃない。私は知ってる。ぜったい諦めない忍がいる!私が先に消えるかあなたが先に倒されるか、勝負といこうじゃない!!』

“輪廻眼は、世が乱れた時に天から遣わされる創造神とも、全てをゼロに戻す破壊神とも言われる”

あなたが全てをゼロに戻す神ならば私は真逆の道をゆこう。

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