▼お帰りなさい

力の集束のなれの果て。元は尾獣たちから成る“それ”が形容しがたい容貌へ姿を変えていくさなか、先陣切って戦っていたナルトにも限界が迫っていた。

「私はナルトを全快させる!ここへ来て今さら私たちがブレてもどうしようもないでしょ!私たちは私たちのやるべきことをするのよ!」

即戦力を欠いてどう立ち向かえばいいのかと狼狽える忍たちを、サクラが嗜める。サクラの決意を見届けたシカマルは、感心したかのように小さく笑うと 振り返っていのに声をかけた。

「いの!繋げてほしい人がいる」

新たに連合の司令塔となったシカマルの策。それは、岩隠れの忍を筆頭に 皆が土遁障壁を次々と作り 固め 盾となること―――ふたたび全ての忍が力を合わせる作戦だった。

「いの、次はオレとこの戦場に居る全ての忍に繋げてくれ……できるか?」

「できるかじゃなくて やるのよ!シカマル!」


それぞれの覚悟から、火の意志は伝心する。
その火は生きている忍にとどまらず、すべての者たちへと。
こちらに向けて放たれた十尾の攻撃が消え、代わりに、光の瞬きのように現れたその人たち。彼らも胸に火の意志を宿す忍たち。真っ先に現れた忍は、ナルトそっくりの明るい金色の髪をしていて、黒く縁取られた穢土転生の瞳が見てとれた。
きっとこの人は、若くして命を落としたナルトのお父さん―――四代目火影だ。彼が己の意思で自由に動いているということは、少なくともカブト側が召喚した転生体じゃないはず……そして、次々に舞い降りる忍たちの中に懐かしいお姿を見つけ、胸がじんわり痛んだ。
歳月を経て、みんなの背丈は三代目様をもう 越している。

「お主 その姿は……」

穢土転生でなくとも私は三代目様たちと同じ側の魂。浮き世を離れた私の姿を見、三代目様は「残念じゃ」と慈愛に満ちた瞳を伏せていた。

「大蛇丸がワシらを呼んだのじゃ。さっさとこの戦争を止めねばな」

『大蛇丸が!?』

「その説明はあとじゃ。今は敵を討たねばいけん」

「待っていたぞォー!!柱間アァーー!!」

「お前は後!!」

初代火影様の復活に過剰反応を示したマダラ。現世の私たちにはわからないやり取りでも、しかしおばあちゃんは、初代様とマダラの邂逅を喜んでいるようでもあった。

『はは、ほんとマダラは柱間大好きだなぁ』

「久しいな、シズク」

『もう一度会えるとは思わなかったよ。柱間』


そしてさらに、もうひとり。
一迅の風が傍らを掠め、赤い扇の家紋を背負った忍が現れた。


「……ずいぶん遅かったじゃねーの、サスケ!」

待ってましたと言わんばかりに、ナルトはニッと歯を剥き出しに、到着したサスケに笑いかけた。

サスケがこの戦場に、いる。
サスケの表情は、鉄の国で見せたものとも、カブトの洞窟で見せたものとも違っていた。次会うときにはナルトを殺すと言っていたあの冷酷さも感じられなかった。

「てめぇ何しに来やがった!!」

「いろいろあったが オレは木ノ葉の里を守ることに決めた」

サスケはイタチを兄さんと呼んだ。自分が歩むべき道の選択に立ったサスケは、なんと、オレが火影になる、とみんなのいる場で豪語したのだ。

「ごぶさた抜け忍がいきなり帰ってきてギャグかましてんじゃねーぞ!!火影の意味分かってんのかゴラァ!!」

「お前に何があったか知らねーが、ありえねーんだよそんなこと。お前……自分が何言ってんのか」

「今までの影達がこの状況を作った。だからオレは火影になり里を変える」

火影になった者が皆から認められるんじゃない。皆から認められた者が、火影になるんだ。

今のサスケはまだ皆に認められる存在じゃない。けれどこれから先、変わらないとはいえない。
火影になると宣言したサスケを横目に、ナルトは腰をあげ、サスケの隣に立つ。口元に、嬉しそうな弧を描いて。
イタチが言っていたことを、いつかナルトはサスケに話すだろう。

里を抜けて数年。ここは木ノ葉隠れじゃないけれど、サスケは今日ようやく、“里“に帰ってきたんだ。
これで全員が揃った。

『よかった』

ちいさく呟くと、サスケがこちらを振り返る。
サスケは複雑な表情を浮かべてしばし私を見つめていたが、無言で 私に背を向けた。


*

己を小さな個体に分散させて攻めてくる十尾に対し、初代様は一斉攻撃で迎え撃つと声高らかに告げた。第八班も第十班もそれぞれ戦闘の陣形を組んでいる。

「回復ありがとサクラちゃん!今度はサクラちゃんが休んでくれ。行くぞサスケ!」

ナルトはそう言うけど。
私はすぐにサクラに駆け寄って、トンと背中を押した。

『行って。サクラ。ふたりともまた勝手に飛び出していっちゃうよ。戦うときはスリーマンセルじゃなきゃ。そうでしょ?』

「……うん!」

サクラの背に触れようとしたとき、その体に蓄積されたチャクラの量を感じた。長年の修行がもうじき達成される。私の役目は、サクラが引き継いでくれる。
サクラがナルトとサスケを追い、三人が一列に揃ったのを後方から見届ける。もし今の私が涙を流せたら きっとボロボロ泣いてしまってるだろう。こんな気持ち 久しぶりだ。
ナルトとサスケとサクラ、また三人が同じ方向を目指して戦うんだ。

「よっしゃ!!第七班ここに復活だってばよ!!」

「行くぜ…!サクラちゃんサスケェ!」

「うん!」

「オウ…」


「しゃーんなろー!!」

凄まじい爆風と地鳴りに混じって、サクラのいつもの掛け声が聞こえた。

「なんか懐かしい画じゃない?シカマル」

「目の前の敵を倒すのに協力するってんなら今はしかたねェ。認めたくはねーが」

「同期が全員揃うのって久しぶりだよね!この感じも中忍試験以来だし!」

「火影になんのはオレだァ!!ちょっ!お前ら聞いてんのかァ!?」

「キバ、今は誰も聞いてない。なぜならいきなり出てきて”火影になる”と宣ったサスケのインパクトの方が強すぎるからだ」

「キ…キバくん、私はちゃんと聞いてるよ…火影は皆が目指すものだもんね」


ああ、私も“そっち”にいたかったなぁ。


ちりり。と火花が空気に消えていく音がして、反射的に自分の指先を見つめた。

『……!』

さっきまで目映い光を放っていた炎の体が、波立って落ち着かない。着実に弱っている。
まるでこの世にいるタイムリミットを告げるかのように、掌の光が淡い鼓動を示していた。チャクラを人に分ければ分けるほど、この身を保つ術の持続時間は減っているんだ。
この世界にいられる時間は、残り僅か。
私はここに、この体になってまで、何のためにここにきた。

「もう私のように苦しむ人がでないように、この戦いの連鎖をあなたが終わらせて」

まだ間に合う。

彼がまだ苦しみのたうち回っているのが見えるでしょう。あの人は“オビト”、かつての彼はわたしたちにとっての“ナルト”だったんだ。

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