▼刃の下の

神威空間で対峙するオレに、お前には迷いがあるとオビトは言った。殺そうと思えば殺れたハズだと。
その言葉通りだった。だが、今のオビトにとどめをさすのは自分だと、今ははっきりそう感じるよ。
お前を止めるのがオレの役目だって。


「カカシ……オレにとって、リンを守れなかったお前は偽物だ。リンはオレの中で死ぬべき人ではない…よって死んだリンは 偽物でしかない。リンは生きていてこそリンなのだ。こんな状況ばかり作ってきた忍のシステム 里 そしてその忍達。オレが本当に絶望したのはこの世界そのもの この偽物の世界だ!」

ナルトが言ったハズだ。心に本物の仲間が居ないのが、一番痛いんだって。
オレはあの子を教え子に受け持った日に、かつてのお前の言葉を伝えたんだ。


「見てみろ!!オレの心には何もありゃしない!!痛みさえ感じやしない!!この風穴はこの地獄の世界に空けられたものだ!!」


声が聞こえないのか、オビト。
さっきから声が聞こえるんだ。地上で誰かれなく囁かれる言葉がオレには聞こえてる。

(立つんだ)

(動かなくなった仲間たちを抱いてでも、)

(この戦争を終わらせて帰ろう。故郷の里に!)

オビト、お前には聞こえないのか。ぽっかりと空いた風穴を埋めるものこそが、この声なのに。


「オレのここには痛みしかなかった。それに何の意味がある?お前だってずっと苦しんでるだろう リンやオレの墓の前で。カカシ、もういいんだ。お前はもう苦しまなくてもいい……リンはここに居る」


「好きだよカカシ」


「お前にとって理想のオレも一緒にな……」


「オレは火影になるぞ!!」


「さっき死んだ小娘はどうだ?オレの作る世界では生きているぞ。炎の亡霊ではなく、触れられる存在でな」

「カカシ先生」


後ろから手を回され、シズクがオレに抱きついてくる。生身の体でオレの名を呼ぶ。


「カカシ先生、もういいんだよ。目を閉じて、一緒にいこうよ」


本当のシズクなら、オレにそれを望まない。立って、もう一度戦ってみんなを守ってと そう言うんだ必ず。


「好きなものを望め。この幻術の世界では全て手に入る。お前の心の穴も すぐに埋められ……」

「違う」

「!」

「リンはもういないんだ。そしてお前はまだ生きているだろ。こんなので……こんなもので本気で、心の穴が埋まるとでも思ってるのか?」

こいつらは偽物だ。だってどんな姿になろうと本当のあいつらはオレのそばにいる。

「生きていたリンの想いまで消すなよ!リンは命をかけて里を守り残そうとしたんだ!独りで妄想ばかり穴に詰め込んでも……心の穴が埋まる訳がないんだ」

オビト、オレには聞こえるよ。

「オレは忍のクズだが、それでも学んだこともある。心の穴は他の皆が埋めてくれるものなんだよ。自分の都合通りにいかないからと仲間の想いまで捨てて、この世界を諦めてる奴に仲間なんか集まりはしないよ。それじゃ心の穴も埋まりゃしない」

「キレイ事をグダグダと……現実を…この世界の仲間との想いを捨てきってこそ本当の幸せがある!」

「忍の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされるどな…仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。そして…仲間の想いを大切にしない奴はさらに、それ以上のクズだ」

かつてのお前の想いは捨てないよ。
それを否定するのが今のお前でも。

「諦めなきゃ必ず救いがある」


*


神威空間での死闘の末に、オビトが戦場に舞い戻った。

オビトの組んでる印は輪廻転生じゃない。追い詰められたオビトがとる手段は…


『ナルト!まだ間に合う!!オビトを止めよう!』

「シズク 急にどうしたんだってばよ!?」

『まだナルトの声は届くよ!同じように火影になりたいって言ってた人だから!!』


私が大ガマから十尾の背に飛びうつったまさにその瞬間、オビトの鼻先で何かが光ったように見えた。錯覚ではない。木ノ葉の黄色い閃光、その人。現れると同時にズバッと肉体を裂く音がした。
血飛沫が舞う夜、四代目様は数十年越しに合間見えることになる。この戦争の首謀者で、16年前の事件を引き起こした、彼の弟子に。
その目で確かめた四代目様は、いったいどんな気持ちでオビトの前に立っているんだろう。

「飛雷神のマーキングは決して消えない。それは教えてなかったね…オビト」


カカシ先生と激しく交戦したのか、オビトの腹部は既に急所に風穴があいている。
加えてこの致命傷。

「生きていたなら…火影になってほしかった。なぜ……」

四代目様はやりきれなさに染まった瞳を伏せ、オビトを見下ろしている。もはや勝敗の行方がはっきりしたと忍連合の誰もが確信した そのときだった。

『!?』

油断した私たちの足元が突如安定をなくし、四代目様とサスケの体が宙に投げ出された。急降下していく二人の体をナルトが受け止め、大ガマの背に不時着させる。
もといた四赤陽陣の結界にも、鳥居の封印にも十尾の姿は存在しない。

「十尾が……消えた!?」

「どうなってる!?やっつけたのか!?」

分身してた十尾の破片たちが一か所に集まり、オビトが徐々に十尾にめり込んでいく光景を目にする。

スッと立ち上がったオビトの右顔は鱗の表層によく似ていた。
左目には波紋を描く輪廻眼。十本の尾を示す角が突き出る背、紋様が浮き出てる皮膚。

「アレが十尾の人柱力だと?」

「あいつは初めっから人柱力になる術をしてたんだよ!」

直ちに封印しなければと、初代様が明神門の封印術をオビトの頭上に降らせる。しかしすべて粉塵と化してゆく。
火を携えた槍、手の形状で伸びたそれで、人柱力となったオビトは歴代の火影様たちが築いた結界をいとも簡単に壊してしまった。

「皆の者気を抜くな!!十尾の力を我がものとした輩が結界を壊しおった!何をするか分からぬぞ!!」


「やめろ……オビト もうやめるんだ」

「…オ…ビ…ト…?」

『わからないの?…オビト…!!』

仮面をつけて“マダラ”を暗躍してきた過去でさえも、それまでの自分を完全に捨てていなかったのに。
忘れてしまうの?オビト、あなた自身がいちばん手放しちゃいけないものだったのに。

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