▼私の家族
マダラとオビトをねらい、忍連合がナルトからチャクラを得て再び奇襲を始めた。
目の前に舞い降りた御霊を否定せずにはいられない。炎に浮かぶ幻影、それは戦乱の世を長く生き抜き、万を辞して復活したマダラでさえも初めて見る忍術だった。
その亡霊は十尾を見つめた。未だにそこで磔になり、冷たくなってきているであろう自分の姿に霊体の月浦シズクが何を思っているかは、マダラには知る由もない。
「自ら命を投げ出すとはな」
『アナタには私の気持ちは一生わかんないよ。今度こそ本物のマダラさん』
その顔、髪、肩、瞳。全てがまるでコピーのようで虫酸が走る。
『私のこの目が気に食わない?』
「オレが気に食わないのはお前の術 お前の存在そのものだ」
雨月一族に伝わる秘伝忍術・“螢火”。死した魂を、炎を器に蘇らせる陽遁を用いた口寄せ。死体が現存しようともチャクラは“螢火”となった魂に従属する。
故に彼女は、
『じゃあその気に食わない忍術をイヤというほど見せてあげる』
生前と同じく忍術を扱えるのだ。
『陽遁・螢火』
唱えられたのは死者を呼ぶ術。
シズクが手を広げた先、マダラと彼女の間に小さな火が灯り、すぐに人の大きさ程までに炎が燃え広がる。火の粉から足や腕が現れ、やがて人の形を成した。
見開かれたマダラの瞳に炎の揺めきが映し出される。
『マダラ』
術者と瓜二つの瞳、顔立ち、姿。しかし新しく蘇った女の笑顔は、マダラにとっては馴染み深い、かつて里を同じくした人物のものである。
「……シズクか」
『まさに、ここで会ったが百年目ってやつだな。マダラ』
“螢火”によって孫のシズクに口寄せされた雨月シズクは、戦場でのマダラとの再会に飄々と冗談をこぼす。死して尚昼行灯な性格も全く変わっていないのだとマダラは察した。
「何だってばよあれ?違う服来たシズクが……ふたりィ??」
オビトと交戦していたナルトが一瞬だけこちらをみやって首を傾げたが、立ち止まる暇もなく再度戦闘に戻っていく。
『私の分身じゃないよ。この人は私の家族』
孫にあたる月浦シズクが言い放った“家族”という言葉に、雨月シズクは満足げに大きく微笑んだのち、マダラと対峙した。
「死んだお前が今更何の用だ」
『その言葉、そっくりお前に返すよ マダラ!忍の子孫たち相手にお前が戦争起こしてるなんてひどい話さ』
シズクは両手を腰に当ててハアと盛大な溜め息をついた。
『こんなことはもう止めよう。お前も死んだなら大人しく幕を引けよ、マダラ』
「相変わらずだな。まさにこれからだという時に」
『未来あるこの子らの命を奪って楽しい?戦いたいなら、あの世に行って柱間に手合わせでもおねがいしな!』
「オレには理解しかねる。里への失意の内に死んでいったお前なら理解できると思ったが?」
木ノ葉の興りに立ち会ったほどに偉大な二人の忍の会話に、月浦シズクはじっと耳を済ましている。
「柱間の手で木ノ葉を追放され、不名誉なレッテルを貼られたお前ならばわかるだろう オレの無念が」
マダラの物言いに雨月シズクは目を細め、物思いに耽るように数秒口を閉ざした。
うちはマダラが創設間もない木ノ葉隠れの里を去った後、雨月シズクは抜け忍として同じく里を去った。これはマダラの侵攻を危惧した千手柱間の一時的な計らいであったが、シズクが再びその地を踏むことはなかった。
それが、マダラの見解である。
『そうか……お前の中ではそうなってるのか。マダラ、それは違うんだ』
「違うだと?」
『ああ。わたしが木ノ葉を出て、ほどなく柱間とマダラの戦いが起きた。柱間は勝利した後、ちゃんとわたしを探して迎えに来てくれた。でも戻らなかったんだ』
マダラはしかめ面のまま、無言である。対してシズクは目を伏せ、眉間に苦悩の皺を刻む。
『わたしは……マダラ、お前がいない木ノ葉の里に帰るのなんてイヤだった。だから里に戻らなかったんだ。ずっと、ずーっと……お前が好きだったから』
生前は伝えることが叶わなかった、数十年の月日を経てようやく紡ぎだされた告白。
『ええええええっーー!?』
混線した戦場の中で唯一その会を耳にしていた孫のシズクが、予想だにしなかった内容にひとり絶句した。
『おばあちゃん、好きって あのマダラを!?』
『まあね』
シズクは目を丸くして祖母を問い詰める。祖母のシズクは恥ずかしげもなく、開けっ広げに頷いた。
『そう、そんな頃があったんだ』
雨月シズクが語り始めた過去。それはまだ、千手柱間とうちはマダラが出会う少し前の幼い日の出来事であった。
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