▼誘惑の術中

※第4次忍界戦争前、ナルトのいたずら


「神様仏様シズク様!助けてくれ!一生のお願いだってばよ!」

掌を合わせる軽快な音と反対の、苦渋の表情。
ナルトの手に握られた「以下の暗号を解け」というペーパーテストの、解答欄にはまっさらな空白が広がるばかり。どうやらナルトが鉛筆を動かせたのは、うずまきナルトの名前の記入だけだったらしい。

「だーめ」

忍術修行ばかりで座学はさっぱりな万年下忍。綱手様からの試練がナルトにとってはどんな強敵よりも手強いようだ。倒せない敵を前に彼は他ならぬ戦友に助けを求めた。私である。

「オレたち親友だろォ!」

「そういうのは自分で解かなきゃイミないの!」

「これからサクラちゃんとデートなんだってばよー!な!な!今日だけっ!」

「それならサクラにヒント教えてもらえば?」

「それができたらここには居ねえよ……」

ナルトはがっくりと肩を落とした。どうやら既にサクラには申し出を断られているらしい。大方デートというのも、ご飯はすべて奢りとかなんだろうな。

「アカデミーレベルの暗号に手を焼くんじゃ火影までの道のりは長いよ。私も用事あるんだから。ホラ帰った帰った」

「〜っ、ちくしょー」

椅子をくるりと回してナルトに背を向け、再び書類に集中する。背後でちっと舌打ちしたナルトが、お得意のイタズラを思い付いたとは気もつかずに。

「そんならこれしかねェ!!逆ハーレムの術!!」

「は?」

万年ドベのくせしてイタズラとなると頭の回転はピカイチで印も早いのだ。振り返ろうとしたときには後の祭り あたりは煙に巻かれていた。
するり、視界に入ってきた肌色の腕が、突然私の手首を書掴んだ。おいろけの術でよく変化して現れる細腕じゃない。腕を辿るようにその先にいる人相を目視し、口から心臓が飛び出るかと思った。

束ねられたしっとりとした黒髪。細い目の上で眉は僅かに眉間にシワをつくっている。
―――――シカマルだ。いつもと違うのは、中忍ベストでも奈良家の家紋の入った普段着でもなく、素っ裸だということ。それも一人ではなく、五人も。全員上半身どころか下半身、し、し、下着すら身に付けていない正真正銘の全裸である。

「ぎゃあああ!!!」

全力で下がってデスクに椅子ごと強打。ライフポイント一気にゼロ。床にへたりこむと、五人のシカマルの全身が、下までまるっと見えてしまう。私は両手で目を覆って叫んだ。

「見たかァ、逆ハーレムの術 シカマルバージョン!」

「何してんのナルト!すぐに解いて!!」

「暗号教えてくれたら消すってばよ!」

ニシシと笑うナルトの声。シカマルの、か、体なんて 上半身を見たことある程度で。一度、最後までそういうことはしたことあるけど、そのときは部屋も暗かったし……

「ちなみにシカマルの体はオレの想像じゃないってばよ!この前みんなで銭湯行ったときにしっかり見、」

「やかましい言わんでいいバカ!!」

「ヘー、そんな口叩いて良いのかってばよ?」

視界がまっくらでも気配でわかる、近付いてくる複数の足取り。耳元で囁く低い声は私が一番よく知ってる声だ。

「おいシズク、聞いてんのかよ」

「っ!」

あんまり近くて吐息すらも耳にかかり、ぞくりと肌が粟立った。

「ナルトいい加減に、!」

両手をこじ開けられてクリアになった視界にシカマルのドアップ。囁かれた唇がそのまま耳朶をぺろりと舐めた。

「ひゃっ!」

思わず声が漏れた。まったくなんてことするんだ 自来也様の影響か!不意を突かれた私は左のシカマルにひょいと抱えられ、デスクの上に横たえられる。

「行けシカマル!擽りの刑だってばよ!」

くすぐり?

「ぎゃはははっ!ひっ、ひいいっ!」

シカマルたち、もといナルトの影分身変化たちが私の体をくすぐり始めた。今現在この部屋は、デスクに寝そべる私、こちょこちょ攻撃を繰り出す全裸のシカマル、それを仁王立ちで俯瞰するナルトという、最悪にシュールな画になっているだろう。こんなものに屈するかと腕を振り上げた矢先、擽りをもう一段階強化しようと、裸の手が服の中に侵入してきた。

「こちょこちょは地肌のがキツイんだってばよ!」

「ちょっとナルト……!」

首、脇、胸、おなか、背中、腰、足に複数の手が這う。時折あやしく肌を伝い、肌を揉んでくる指の腹。いくらナルトとわかってても、シカマルの顔してのしかかってくるのだ。男の子にしては少し細い でもしっかりした肩幅。腹筋も、割れてるかも。そのしたは、頑張って見ないようにした。
いつも仏頂面でフェミニストのシカマルが……ナルトだってわかってるのに、こんな風に強引に迫ってくると平常心を保ってなんていられない。以前シカマルとした行為を自然と思い出してしまう。
シズク、早くしろよ。
我慢すんなよ。
そろそろ限界だろ。
なぁシズク……
一斉に囁かれて、もうダメ、耐えられない。

「ナルト!もうわかったからっ!暗号でも何でもするから、解いてっ!」

「ヨッシャーやりぃ!やっと降参したってばよ!」

自来也様、あなたはナルトに男の性までは伝授できなかったようですが、それ以上に危険な存在を育てたようです。

*

医療班長室を訪れたら全裸の自分五人と遭遇しましたとか、笑えねえ冗談だ。

「ナルト……こんなとこで何やってんだよ」

「げっシカマル!!こ、これはその、」

弁解するナルトを押し退けて部屋に踏み入る。そこにはひでえ光景が待っていた。全裸のオレに囲まれたシズクがデスクに横たわり、目をぐるぐると回していたのだ。

「もう許してぇ……」

意識のないアイツが譫言のように呟く。目は潤んでるわ襟元も心なしか乱れてるわ、これじゃまるでオレ(中身はナルトの影分身だが)に襲われた後じゃねーか。

「……おい どういうことか説明してくれんだろうな?ナルト」

「暗号解いてもらおーと思ってシズクにこちょこちょ攻撃してただけだってばよ!ほら証拠にコレ!!」

影分身たちが煙に消える。差し出された一枚のペーパーテストはアカデミー生でも解ける難易度の暗号で、オレは肩を落とした。

「こんなモンのためになんてことしてんだよ!!」

「シズクってば約束したくせに気絶しちまって困ってんだ!シカマル代わりに解いてくれってばよ!」

「そりゃ脅迫ってんだよ 心底めんどくせーヤツだなお前らは!それ持ってさっさと出てけ!」

「そこをなんとか!」

「いいから帰れ!」

不服そうな顔をしたかと思いきや、ナルトはにやりと笑みを浮かべた。

「そんなら仕方ねえってばよ。食らえ、ハーレムの術 シズクバージョン!!!」

ハーレムの術と聞いて、イルカ先生が授業中に鼻血吹き出して失神してたシーンが、思わず脳裏を過る。案の定 煙に巻かれて絡み付いてくるのは素肌の腕。

「シカマルゥー…」

耳元で囁いた甘い声はシズクの声をしてる。
さっきオレに化けたのと同様に、当然の如く、一糸纏わぬ姿でよってたかって五人ほど現れたそいつらに囲まれ、行く手を阻まれた。両腕に体を巻き付けるように擦りよってきて、たゆんと豊かなものを押しあてられる。

「ねえシカマル〜、お・ね・が・い」

術主はといえば、どうだァ!と懲りずに笑ってやがる。
オレはもうひとつため息をついてナルトに声をかけた。巻き付いてくる腕を強引に振り払い、影分身変化と向かい合う。
これで誘惑だァ?程遠いぜ。

「わかっちゃねーな。あいつはこんな胸でかくねーよ」

「なっ」

「肌の感じも違ェ」

「え」

「んな媚びた声も仕草もしねえ。得意忍術のクセして研究不足だなナルト」

「なっなんだとォーっ!!」

たかだか分身変化に欲情するほどオレも盛ってるわけじゃねェんだよ。ナルトは歯を剥き出しにして怒り、再び印を組もうとし始めたが、今度はオレの方が早かった。

「よくも好き勝手やってくれたな。忍法・影首縛りの術!」

「は!?影首ってちょ、シカマルタンマ!!」

「当然の報いだっての」

ハーレムの術が解かれ、次の瞬間にはナルトは泡吹いて気絶していた。これでも譲歩してんだぜ、ナルト。自分の彼女が襲われてたような光景を見せられたら誰でもキレんだろーが。
影首縛り手加減してんだ むしろ感謝してほしいくらいだぜ。ナルトを足蹴にして部屋から追い出し、鍵もかけてデスクに向かった。

「イタズラも大概にしとけよな」


誰が来るかもわからねェここでこんな格好でいられちゃ困し、しょうがなくシズクの襟元を正してやる。

「……むね…」

「は?」

「悪かったねぇ…そんなに胸……おっきくなくて」

俯きがちに呟いたシズクの、頬は赤く染まっていて。

「聞いてたのかよ」

「そりゃあ、あれはナルトの変化だけど……シカマルは私の裸見ても全然焦らないんだね……」

ったく、何拗ねてんだか。
オレはシズクに顔を寄せて、こいつが余計な二の句を紡ぐ前に唇で唇を塞いだ。

「っ!」

逃げられねェように背中と腰に手を回し、舌を乱暴に割り入れてシズクのそれに絡みつくと、急に大人しくなった。
衣擦れと互いの呼吸だけが大きく聞こえる。
合間に漏れる吐息が、ナルトのハーレムの術でも変動しなかった心拍を上昇させていく。本音言えば、オレはこいつが分身程度にうつつを抜かしてたことに腹が立ってたんのかもしんねェ。

「オレが欲情してねェかって?そんなの、自分で確かめろよ」

そう呟いてまた舌を絡めた。

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