▼ここにいる
「シズクっ!!」
挿し木の術が細かい破片となって荒れ狂う中、サクラは一直線に友のところへ駆けていった。
シズクはシカマルのすぐ背後に佇んでいた。
自ら光を放つ姿は、ナルトの尾獣モードのそれに似ていた。
違いがあるとすれば 彼女が実体を持たないことか。手を伸ばしても、炎にたなびいて逆さ扇に揺れる髪をすり抜けてしまうだろう。サクラの右拳は空を空振りするだけで、シズクの頬に命中することはなかった。
『泣かないでよサクラ。私 ここにいるよ』
シズクは目を弓なりにして微笑んだ。
『サクラ。あの術が完成するまでどのくらい?』
「も、もう少し」
『わかった。それまでは私が代わりにやるね。そのあとのことはサクラに任せる』
二人にしかわからない秘密のやり取り。けれど彼女の言葉が織り成す意味が、この場にずっといられるわけではないことを暗示しているような気がした。
『カカシ先生』
サクラと契りを交わすと、シズクはオレの方を見た。
シズクの笑顔を何百何千と見てきたつもりだったが、今の笑顔が一際晴れやかなのは、シズクが一番大切な人間の傍らに戻ってこれたからなんだろう。
なのに、声も笑顔も全く変わりないというのに、一度風に吹かれると消えてなくなりそうな、この儚さは何だ。
すまない。師匠のオレがふがいないばかりに。お前が一人で背負おうとする必要はなかったのに。
「シズク、」
『ごめん。先生、昔から先生は私に甘いでしょ。だからお願い。今回も見逃して』
「……お前もよく言うよ」
オレとサクラの後ろで忍サンダルが砂に擦れる音がした。
振り返らなくてもチャクラの力の規模でわかる。仲間のために駆け回っているまだ若い英雄。全員にチャクラを渡し終えたナルトが、シズクのところへ駆け付けた。
『ずいぶん器用になったね、ナルト』
『……』
『昔はチャクラコントロールできなくてヘロヘロの分身ばっかりだったのにね』
ナルトの瞳には決意がみなぎっていたが、ふと小さく俯いた顔に影が射す。
「シズク 怖くなかったのかってばよ」
『怖いよ。でもあのまま十尾に取り込まれてるよりも、みんなのそばから離れることのほうが死ぬよりもずっと怖い』
シズクはナルトに向かい合い、握り拳を静かに差し出した。
『おじさまたちも……ネジたちも、見えないだけだよ。ここにいる』
「…おう」
『ぜったい諦めないのがナルトの忍道でしょ?』
「……あったりめーだ!!」
『そうこなくっちゃ』
ナルトの回答にシズクはイタズラっぽく笑むと、両手を空に翳した。
『ナルトだけに任せるのもなんだし、私もおすそわけしないとね』
治癒能力を持つ彼女のチャクラが拡散され、忍連合の負傷者たちに雨のように降り注ぎ、ナルトのチャクラに覆われた忍たちをさらに包み込んだ。
「ナルト今のうちだ!!行け!!」
シカマルの言葉を合図に、ナルトを始めオレたち忍連合は標的・十尾目掛けて遠距離攻撃を開始した。
オレも雷切を発動させ、十尾に狙いを定める。
「ネジの死は無駄にはせん!!」
爆風吹き荒れる最中にヒアシさんがそう唸るのが聞こえた。にも関わらず、オビトは冷酷な物言いをする。
「一度掛けてしまうと死なねば消えぬ呪印……日向の宗家と分家が生んできた忍の呪い。カゴの中で死を待つだけの存在。いい暗示だ。お前らはさっきの犬死にしたガキと同じだ」
うちは一族に生まれその因果に巻き込まれ、リンの最期を目撃したからオビトは、もうオレの知る親友ではない。
「自ら死を選んだのはオレの予想外だったがな。お前は十尾の良い生け贄になっただろうに」
シズクの肩からはチャクラでできた炎の双翼が生え、駆け出したナルトと共にオビトに向かってゆく。
『どんな姿になってもみんなと戦う。それが私の決めた忍道だ!』
ナルトとシズクのチャクラに覆われた忍連合の影はひとつとなり、翼を広げた大鳥を成して敵へと羽ばたく。
リーがガイのアシストを受けてマダラに立ち向かい、ナルトとの二人の攻撃十尾から伸びていたマダラとオビトへのリンクを断ち切った。
「ネジやシズク……みんなの意志はまだ死んじゃいねェ!!お前と違ってオレは繋がってたもんをきりたかねェーし、切られたくもねェんだよ!!」
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