▼迎えに来たよ

これが最後の戦い。戦意を奮い立たせ、シカクの指示に従い大連隊は作戦を開始する。

≪まずは目眩ましで動きを鈍らせ視界を潰す!≫

雷遁に特化した雲隠れが先陣を切り、十尾目掛けて雷遁を集中投下する。マダラは容易く攻撃を防いでみせたが、その足元の十尾はあまりの眩しさに条件反射で瞳を閉ざしていた。

「なるほど……オレ達を狙いつつ、本当の狙いは十尾の目眩ましか」

≪そして霧と蟲の二つの術、さらに嵐遁でできた土煙を気流に乗せて操り、視界を完璧に潰しつつこちらの姿と気配を捉えられなくする≫

風遁・気流乱舞!!
砂隠れの精鋭が生み出す複雑な気流は、油女一族の邪民具の蟲を全体に拡散させていく。オビトの写輪眼に写るはその数多の蟲のチャクラで、忍連合のものではなかった。

「感知も無理だな。これじゃ」

「十尾の攻撃で薙ぎ払えばいい」

土遁・大地動核!!
その刹那、十尾の足元は急激に降下し、今や地上からは僅かに背中の頂きや尾が覗くだけ。

≪感覚を奪った次は体の自由を奪う!≫

「くっ…!」

十尾の体は激しく震動し、オビトとマダラも体勢を整えようと足に力を入れた。

熔遁・石灰凝の術により大量の石灰が広大な穴に注がれ、続いて投入されるは水、火。石灰は水と混ざり合い、追って吹き荒れる高温の炎で水分が蒸発していく。

≪固めて 止めるんだ≫

十尾の身は石灰の海に沈み、やがて完全に硬化した。

「信じられんな」

十尾の体が身動きを封じられようともマダラは未だ悠長で、腕組みをしながら感心して頭上を眺めていた。

「あの五里の忍共がここまでの連携をやってみせるとはな……」

視界の先には、螺旋手裏剣を構えるナルトの姿。
戦いを重ねるごとに孤独を深めるオビトにとって、戦争の経過で絆を深めていく忍連合の姿は対極にある。

≪十尾は奴らにとって術を発動させるための道具。2人の術者をたたけば無限月読とやらは発動しないハズだ!ナルト、今こそお前の言う……≫

「忍連合の術だってばよ!!!」

目指すは十尾の眼球、オビトとマダラ。合図と同時に大連隊の戦士は地を蹴り、武器を技を手に二人の忍へと向かっていった。

たった一度だけでも、止めれさえすれば良いのだ。


≪今がチャンスだ サイ!≫

十尾の前面に繰り広げられる戦線では数えきれない忍が点となって散らばる。そこから離れ、十尾の後方上空に待機していたサイが、墨鳥の翼をはためかせターゲットに向かって急降下を始めた。

動きを制限された十尾の、頂きにいる仲間。
最高速度での接近に、同行するシズネは必死にしがみついていた。

だんだんとはっきりしてくる中忍ベストの色。泥土や火傷で汚れた横顔。 意識がないと理解していながらも、サイはシズクに呼びかけ、シズネは果敢にも十尾の背に飛び移って 妹弟子の肩に手を伸ばした。

「迎えに来たよ……!」


*

「哀れだな」

それぞれの術を手に一斉攻撃を仕掛けた忍連合に向かって、オビトは冷たい視線を投げた。

「十尾も頃合いのようだ」

光と影の狭間に揺れる、その運命からは逃れられはしない。
絶望を教えてやろう。


「ぎゃああ!!」

刹那、石灰に亀裂が走り、十尾を拘束していた頑強な檻は 次の瞬間に崩壊した。近辺にいる忍たちは活動を再開した十尾の犠牲となり、あちこちで、悲鳴があがる。

「大丈夫か!?」

「なぜだ!?十尾とやらの動きは止めたハズ」

「そううまくはいかねェか……」

爆風に流されつつもシカマルは体勢を整え、付近の地面に着地した。

「チョウジ、いの!大丈夫か!」

「イテテ…!」

「うん!平気!」


十尾はその間に禍々しく変貌を遂げていた。

巨大な眼、耳、口がついた頭部。先程と違い、細長い手足で自立している。左腕は未だ発達中なのか途切れ、十本の尾の先端は手のような形状となった。

―――十尾は足止めされていたのではなく、己の変態に時間を要していただけなのでは?これほどの総力を以てしても止まらない。連合の忍たちの間に、絶望の色が広がった。


「それでもアレを止めなければ……オレ達は皆終わる」

シカマルの耳がカカシの声を拾った。そう。まるで歯が立たずとも、自分たちの未来のため、立ち向かわなくてはいけない。
十尾は凶暴性を増し、その咆哮は地響きとなって足下に伝わってくる。
シカマルたちが震動に身構えると、十尾のいる方角から、黒い鳥が近づいてくるのが見えた。
墨の鳥は急降下し、地面に羽を下ろす。

「…!」

鳥の背には、サイとシズネの二人きり。
そこにシズクの姿はいなかった。

「うまくいかなかったの!?」

サクラが近寄ると、サイは俯いたまま重い口を開いた。

「彼女は生きてる」

「十尾の暴走で邪魔が入っただけなのね。ならもう一回、」

「そうはいかない」

シズネは唇を噛み締め、表情をひた隠し サクラに冷静に告げた。

「十尾本体の力か……或いは何らかの強力な細胞でシズクの体が十尾と癒着してる。チャクラのメスでも断ち切れなかった」

「……取り込まれちまってるってことッスか」

シカマルの問いに答えず、シズネは俯いた。

「無理に引き剥がしても、すぐにリンクが元通りになってしまっていた。こうなっては……もう」

戦場にあっては、思考が停止する暇は与えられていない。たとえ自分の大切な人間がもう助けられないと宣告された時であっても、立ち止まれば次は己の番がくるのみ。

キィーーーーーン

風が止まったのは前触れか否か。
十尾の攻撃は忍連合の戦場を襲わず、ここではない遠くの町や谷や山へと向かっていった。忍連合が守ろうとする人々が 家族が 恋人が 友人が眠る町が、次々に蒸発していく。
ガラスにヒビが入るような音が、シカマルの頭の奥で小さく響いた。


≪皆 聞いてくれ≫

そしてシカマルの耳元には、もうひとり大切な人間の、いつものように低く重厚な声が、最期を告げにやってきていた。


シカクの声は冷静沈着で それが尚のこと深い絶望を感じさせた。
端的な指示。
常に状況を見極める、英明な忍連合の参謀。
しかし最期の瞬間――ほんの僅かな時ではあったが、彼は父親として、息子に語りかけたのだった。

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