▼最強の忍術

「カカシ先生!あそこだってばよ!」

上空から指差す先にシズクはいた。先程よりずっと近く、取り返すには充分な距離に。

神威!!
攻撃の隙をついて十尾の頭上へ接近を試みたカカシは、万華鏡写輪眼で八尾を現実世界へと呼び戻した。

「ビーさん!八尾!」

「タコツボ作戦!!卑怯でスミマセン!!」

十尾の巨大な眼に至近距離で尾獣玉を叩き込もうというのに、マダラとオビトは顔色ひとつ変えずに悠長に佇んでいた。黒いチャクラの塊が赤い眼球の上に滑るように写る。

「あ!?」

こっちにもハエが2匹いるぞ
十尾の長い指先から繰り出されたデコピンは、まるでマダラとオビトの意思を表しているかのようだった。瞬く間に尾獣玉を弾き、放った張本人へと跳ね返っていった。
十尾の尾が迫り来るのを察知したナルトは、咄嗟に体が動いていた。傍らにいる生身のカカシを右手で突き飛ばし、尾の軌道からそらしたのだ。

「ナルト!!」

「ぐあっ!!」

弟子に身を呈して守られたカカシは、落下しながら化け物の背に目を凝らす。十尾の表皮へ伏せられたシズクの頭は微動だにしない。
こんなに近くにいるのに。

上空では尾獣玉が炸裂し、カカシの視界は直後に目映い光に包まれた。十尾の尾に凪ぎ払われたナルトは、ポンと音を立てて煙に消えた。

「また影分身か」


*

「イデェ!!」

「クッ」

「あで!!」

ガイ、カカシ、ナルトは九尾の保護を失って不意打ちで地面に落下した。
一般の忍ならともかく、尾獣の九喇嘛と牛鬼ですらチャクラ切れを起こすようでは、到底十尾には太刀打ちできない。

「もうちっとだったのに!」

カカシは神威発動の披露で膝をつき、ガイに至っては満身創痍。なおもナルトは怯まず、敵に向かって両の指を十字に重ねて印を組んだ。

「お得意の影分身か?禁術の高等忍術とて同じ無能が増えたところで…」

「オレは無能じゃねェ!!」

「よせナルト!チャクラを等分割させる影分身はこれ以上意味がない。陽動に使えても決定打にはならない。お前が倒れたらこの戦争は負ける!」

カカシの判断が的を射ていると分かっていても、それでもナルトが立ち止まることはない。

その様子をいかにも滑稽だと嘲笑うようにマダラは呟いた。

「しょせん烏合の衆」

「あ!?ウ…ウゴウノシュウ!?」

「やはり無能だ…」

「増やしてもその中身がまったくなければ無意味だと言ってるんだ」

ナルトの先の未来は自分と同じ絶望を辿るという、達観した物言いでオビトは告げた。

「オレもお前も所詮無力な忍だ。お前も…イヤ誰でもいずれ、オレのようになるのだからな」

「オレはてめーみたいにはならねェ!!何度も言ってんだろ オレがなりてえのは火影だ!!」

「心配するな。全て上手くいく…無限月読に勝る忍の術はない。この術の中でお前は火影にしてやるさ」

十尾の口が開き、八尾や九尾が作り出すものとは比べ物にならない質量の尾獣玉が練られていく。その力の規模は、衝突すれば国ひとつ消し去るどころで済まないもので、寸分の狂いもなくナルトたちに標的が定められた。

「だから…この世界ごと消えろ」


*

正面衝突は免れないかに思えたが、尾獣玉の軌道は四人から50mほど離れた地面を走り、彼らに命中することはなかった。

「ハズした?わざとか…?」


「カカシ!ガイ!待たせたな!」

「!」

真上から名前を呼ぶ声でカカシは空を仰いだ。

「ようやくか…」

「白眼のサポートでドンピシャの心転身をたった2秒でハジくなんて!」

「それでもデカブツの攻撃ポイントはズラせた。上出来だ!」

木ノ葉の中忍ベストを纏う四人の忍が地に降り立つ。オビトの力量にいのは畏怖すら感じていたが、逆を言えばそれほどの相手にいのが術をかけたことを、ヒアシは感心していた。

「ナルトくん大丈夫!?」

「オウ…」

「ヒナタの前だからって強がんなくてもいいぜナルト!」

ヒナタ、キバ、シノに続き、ナルトの傍らには続々と忍連合の忍たちが着地していく。
十尾と忍連合の間には忍たちの目眩ましで深い霧が立ち込めていった。

「よし。これで簡単には感知されねーだろ」

「来たよナルト!」

「ビー様!!思ったより大丈夫そうね!」

「ビー様!!重傷じゃないっスかぁ!!」

シカマル、チョウジ、オモイ、カルイ。


「ガイ先生まさか昼虎を!!?」

「遅くなりましたカカシ隊長」

リー、サイ、シズネ、サクラ。


「第1部隊到着!!」

「第2部隊も到着だ!!」

「第3部隊到着!!」

「第4部隊到着!」

「第5部隊も同じく!!」

「医療部隊も来ました!!」

「感知部隊も到着!!」

この戦いが始まる前まではお互い憎み争い、名前も知らなかった忍同士。今宵はこうしてひとつの地に集い、戦いの終わりに共に朝焼けを見ると約束し合っていた。
風切りの術で霧の道が開けた先には、ナルトを中心に何万という忍が集結した。

「これでもう、ウゴウノシュウってのじゃねェ!!今ここにあるのは忍連合軍の術だ!!超スゲー忍史上最高最強の忍術だってばよ、無限月読に勝る術だ、覚えとけ!!!」

「……お前らがここでオレ達を止めようが無意味なことになぜ気付かない」

ナルトの元に駆け付けた何万にも及ぶ群衆を、オビトは十尾の瞼から見下ろした。

「その術とてこの戦争の後には脆く崩れ、そちら側の誰かがまたオレ達と同じことをするようになる。この世界でもがいても勝ちは無い」

大連隊が“忍”一文字で結ばれていることを、オビトにはどこまでも理解ができない。

「この世界に希望などどこにもないと知れ!」

「どうだろうが、あることにする!!!」

ナルトは歯を食い縛り唇を噛み締め、その場にいる忍たち全員に届くよう大声を出した。

「戦争中にあるないと言い合うのも無意味だ…そろそろ決着をつけるか」

「意見が割れた時は多数決ってのが決まりだろ、だいたい。どうする!?」

「いい案だ。ならば一人残らず消してからにしよう」

距離を置いて対峙するオビトとナルトは同時に叫ぶ。

この世界は―――

「終わらせねェ!!」

「終わらせる……!!」


*

周囲にいる同期の忍たちの顔を見回し、ナルトは告げた。

「シズクがあっちに捕まっちまったんだってばよ。助けようとしたんだけど失敗して……すまね、ェみんな」

いつもは口うるさいキバが黙りこみ、サクラやいのでさえ唇を真一文字に結んで、頷いた。

「……シズクのことはここに着く直前にオヤジの伝達で聞いた。ナルト、お前のせいじゃねーんだ 謝んなよ」

声や態度は平静を装ってはいたが、シカマルの眉間にはいっそう深い皺が刻まれていた。
サクラはシズクが捕縛されているのを目視し、すっと指さした。

「心配ないわよナルト シズクがあそこにいるんなら、助けるまでよ!」

「サクラちゃん」

「そうだぜ!今度は四人だけじゃねえ!なんたってこのオレもいるんだからな!!」

「ワン!!」

キバの軽口にナルトやシカマルはふっと笑い、再び前を向いた。

「よーし!次は皆で行くかんなシズク!!」

「行くぞ皆!!」

「最終決戦だァ!!!」

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