▼幾筋もの帰路

イザナミの術中にあって微動だにしないカブトを確かめ、これで転生の死人は全て消えると、イタチは告げた。

「戦争も終わりの時が近づく。オレは木ノ葉隠れのうちはイタチとして もう一度忍里を守ることができる。 この世界に未練はない」

「イタチ あの……本当に、なんてお礼を言っていいか……」

「礼など必要ない。昔の約束を果たしてくれるだけでいい」

「弟と仲良くしてやってくれ」

目の前に立つイタチの笑みは、幼い頃一度だけ話した彼と、記憶の中で重なった。

「うん。ありがとう」

頷き、私は洞窟の出口へと向かった。
イタチとサスケの会話がだんだん遠くなる。別れの時はすぐそこまで迫ってるなら、せめてお別れのときくらい、兄弟水入らずにさせてあげきゃ。


洞窟を出ると、あたりは真っ暗になっていた。
吹きゆく夜風のさき 眼下に広がる濃い群青の山並みに目を凝らすと、民家のないはずの地帯に星の瞬きみたいな光が点在していた。
無数の点は空に向かって伸びていき、光の柱に変わる。父さんの体が光り、塵あくたが天へと舞い上がっていった様子を思い出しながら、空を仰いだ。穢土転生で甦った魂が解放され始めているんだ。
術を解いたのがうちはイタチだってことを、まだ誰も知らないけれど。いつか皆に伝えよう。誇り高きうちは一族として彼が果たしたことを。

魂たちが穢土に帰っていく。戦いの最中だというのに、その光はこの世のものと思えないくらい、ただひたすらに 美しかった。

急ぎ戦地へ戻るべきと承知の上で、死者たちの帰路を見届けることにした。
最後のひとすじがついえたところで、洞窟を振り返り、中に引き換えそうかどうしようかを迷った。
逡巡している、ちょうどその時。遥か遠くの戦地へと視野共有する輪廻眼の右目が 信じがたい光景を盗み見る。

「……マダラがまだ止まってない!!」



サスケはイタチが立っていたあたりを見つめ、思案に耽っていた。
別れ際にお兄さんと心を通わせることができたのかもしれない。放心して立ち尽くすサスケは、先程までの殺気に張りつめた彼じゃなくなっていて。ダンゾウを殺めた直後のあの、残忍なチャクラの感覚もなかった。

「サスケ、大変なの!術の解がうちはマダラにだけ効いてない!」

輪廻眼で見たマダラの様子を慌ててサスケに伝えると、サスケは黙ってこちらを見ていた。
そこではっと我に返る。しまった、サスケの雰囲気が昔のそれと似ていてつい小隊メンバーに話すみたいに接してしまったけど、今のサスケはこちら側ではないのだ。

「あ えと……ごめん」

なんとなく謝ると、「止まらないのか」とサスケが呟くのが聞こえた。

「サスケ、私は戦場に戻る」

当然、無言のまま。
答えてくれるとは思ってなかったけれど、やはりさっきまでと違う。これが鉄の国のときのサスケなら、私は問答無用で切り捨てられてたかも。

「あのさ さっきは助けてくれてありがと」

「何度も言わせるな お前を助けたわけじゃない 」

「うん。ごめん。でもサスケのおかげで、私ももう少し役目を果たせそうだよ」

「……」

「無駄にしないようにするね」

「……待て」

背を向けたところで低い声に呼び止められ、思わず立ち止まる。やっぱりサスケとここで戦わなくちゃならないんだろうか。身構えながら振り返ると、意外にもサスケは戦闘体制を取ってはいなかった。

「お前 トビと接触したことはあるのか」

「トビ?」

「面をした暁の忍だ」

マダラを名乗ってたあいつか。
頷くと、サスケは「お前には写輪眼の記憶操作がかけられてるようだ」と徐に言い出した。 瞳を赤い写輪眼にして サスケが私を捉える。

「解」

「……!?」

「うちはオビト。それがオレの捨てた名だ。仲間が仲間の手で殺められたあの日からそれまでのオレの夢は塵と化した。戦争のない平和な未来を築くため、仲間を守るため火影になりたいという夢がな」

サスケによって写輪眼固有の解をかけられて、頭の中へ記憶が濁流のように流れこんできた。
両手で口を覆い 膝をつく。あの日 鉄の国で遭遇した仮面の男 トビ、否 ―――うちはオビト” との会話の一部始終を思い出すと、体から一気に血の気が引いていくのを感じた。
術が解かれるまで何を忘れていたのかはおろか、自分が術をかけられていたことすらら自覚がなかった。
こんな大事なことを忘れていたなんて。

輪廻眼だけに神経を集中させ、視界をジャックする。穢土転生を逆手にとったマダラに、綱手様たちは為す術もない。
そして件のオビトのところでは、ナルト、ビーさん、カカシ先生とガイ先生が応戦している。未だ仮面の男の正体も知らずに。

「……いかなくちゃ」

立ち上がり、再びサスケを見ると、その瞳は黒目に戻っていた。

「ありがとね サスケ」

「……」

「こんなこと言うとズレてるって思うだろうけど、次会うときは戦場じゃない場所で会いたいな」


*

遠くの峰を仰ぎ、輪廻眼の視野と照らし合わせてナルトたちのいる戦場の位置を掴む。
あそこにいるんだ。
分身体を一番近い戦場に走らせ、情報員に接触するよう指示を出す。

私はチャクラの羽を繰り出し、目的地へと急いだ。
火に覆われたのか 燻って干からびている数々の戦場を通りすぎ、くすんだ風を追い越してゆく。

「あれが外道魔像か」

巨大な魔像は戦地でもかなり目立つ。まだ距離はあるけれど、遠くからでも飛びながらに目視できるようになって、魔像の中心へ渦を巻くように空間の歪みが出来ているのが見えた。
先生の神威だ。
しかしそれも一瞬のこと、術は成功しなかった。

「先生の神威が弾かれた……」

カカシ先生とオビトは対の目を持っている。
対峙したら、いずれ仮面の下に気づくはず。

守ると決めた。
あの人のことも、みんなのことも。

- 282 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -