▼何者でもない
延髄を噛みつかれ 毒に倒れたそいつは、オレの憎むべき木ノ葉隠れの忍だ。
里のために イタチは独り、重すぎる荷を背負わされ、うちは一族は幕を閉じた。イタチが犠牲になった里で、仲間だ火の意志だとぬかしてのうのうと生きている奴等が許せない。
イタチが―――兄さんが目の前にいる。里に翻弄されなければ穢土転生ではない未来があったと考えれば 胸中の憎悪は膨らむばかりだ。
オレは許すことはできない。
助ける義理はない。
「サスケ…」
シズクのか細い声がオレの名を呼ぶ。この意志は変わらない。手など貸すものか。どうせいつかお前はオレの手で殺される。死期が早まっただけのこと。
「クク……キミの能力をもっとボクに取り込んだら、さらなる力を得られるだろうね」
カブトはシズクの頭を鷲掴みにし、自分の目線まで引き摺りあげていた。
「過去や因縁に惑わされるなサスケ!!思い出せ、彼女はお前の何だ!!」
イタチがオレに向かって叫んでいる。
シズクがオレにとって何者か、と。
何者でもない。
「馴れ合いなんかじゃない!仲間だよ!わたしは大切だから…ナルトもサクラもカカシ先生もみんな、みんな大事なんだよ…サスケのことだって、」
「私の意思はあのときと変わらないよ。サスケ。もう一度言う。復讐なんてやめて、木ノ葉に帰ろう」
「サスケにその気がなくても、私たちは帰って来て欲しいの」
何者でも、ない。
*
青い火花が飛び散り、湿った空気を焦がした。
左手に宿された千鳥は、カブトが動く前に私の首に巻き付く白蛇を貫いた。衝撃で蛇は口を開き、長い牙が離れる。
サスケはそのまま私の襟元を掴むと、カブトから間合いを取った。その隙にカブトは再び闇に紛れ、姿を眩ませていた。
地面に手をつき、サスケを仰ぎ見る。
まさか…今のサスケに、助けてもらえるなんて。
「勘違いするな。カブトの強化を避けただけだ」
「そ、そうだよね……」
「気をつけろ。チャクラがあちこちにある。どれが本物か分からん」
鬼灯一族の肉体を用い、流動的に肉体変化する能力を得たと、カブトはまるで己の研究を知らしめるかのように次々と手の内を明かしていく。
「そして圧倒的回復能力。これは、キミと香燐から貰ったよ」
大蛇丸のアジトで殴られたときの、あの血を採られてたのか。この人、スパイとして里を渡り歩いてるだけあって本当に抜け目ない。
「この忍世界で才能の無い者は存在すら否定されるけど…才能が無いなら無いである所から奪い己に付け足していけばいい」
龍地洞という言葉がカブトの口から放たれると、イタチが目を見開く。
「龍地洞だと!?まさか」
「そう、見つけたのさ!妙木山、湿骨林と並び伝えられる伝承のその場所を!大蛇丸様だけじゃないんだよ。このボクも行きつき 白蛇仙人の元で修行し身に付けた!ついに大蛇丸様を越えたんだよ、このボクが!」
サスケの放った須佐能乎の矢をもろともせず、カブトは私たちの前に姿を現す。
頭に生える幾多の角、腹部から繋がる長い尾。その姿、自分のアイデンティティが希薄になるまで、それを繰り返したのか。今のカブトは余りにも多くのエレメントを投入しすぎてる。
「ボクはもう蛇ではない。完全な仙人の力は蛇を脱し 龍へと昇華したんだよォ!!」
目を開ければ、失明に陥る強い光。
骨にも届く振動で伝わる音。須佐能乎を維持できなくなったサスケにカブトの手が迫るが、イタチの須佐能乎が、サスケを守った。
すごい。この状況で イタチは冷静に敵を分析してる。
「イタチ……君がうちは一族で他と違うのは、本当の意味での瞳力だ。人の心を見透かし心を読む、そしてそれを戦いに利用する。だからこそ人を騙すのが上手い。そもそも君は嘘をつき通して死んだ根っからの嘘つき忍者だしね」
「…!!」
嘘つき忍者。蔑称が琴線に触れたのか、サスケは千を再び放ってた。しかし人間離れした身体のカブトには届かない。
「チィ!」
「いくら二人だろうと付け焼き刃のコンビじゃボクの感知能力を出し抜けやしないよ。しかも嘘つきな兄キのせいでずっと仲違いしてた兄弟なんかじゃね」
「一体どうすれば……」
毒を中和しきったところで私がようやく立ち上がると、イタチが小声で耳打ちしてきた。
「例の作戦をやる。いつでも発動できるよう備えておけ」
ここに来るまでに話していた、イタチのイザナミという術と、私の螢火を組み合わせる作戦だ。
頷き、私は螢火のためにチャクラを練りはじめる。
「サスケ 昔の猪の任務でオレに付いて来た時の事を覚えているか?」
「ああ…アレか…畑を荒し回ってた…思い出した」
「行くぞ。急所は外せ」
「分かってる」
イタチは、兄弟の時間を慈しむように微笑んでいた。
紫と赤の須佐能乎が燃え盛る。
まずイタチが動いた。火遁で隙の生まれたカブトにサスケの須佐能乎が矢を放ち、尾を捕らえた。それでもカブトの動きは止まることなく、その手は地上に残されていた草薙の剣に向かって伸ばされていた。
「オレの刀を奪って尾の蛇を切って逃げる気だ!」
「イタチ!」
カブトは手にした刀でイタチの胴を真っ直ぐに貫いた。血が滴ることはなくとも、サスケの目が見開かれる。
「だから焦るなって言ったのに…」
不敵に笑むカブトだったか、その刹那、二人は幻影のように目映い光に包まれる。
「!?」
「シズク 今だ!」
「はい!!」
バサバサと舞い散る無数の黒い翼。カブトは突然の目眩ましに受け身を取り、直ぐに間合いをとるも、頭部にある右上の角を削ぎ落とされてた。
「かかったな」
カブトが、ふいに動きを止め 金縛りにあったように動きを止めた。イタチの左の瞳が禁術を発動していたのだった。
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