▼プロポーズ

「俺と結婚してくれ」

「ふわああああっ?!」

思わず変なリアクションをとってしまった。
いまのはプロポーズだ。告白を飛び越えていきなりプロポーズ。しかもここは、関所前の大広間なわけで。会話が筒抜けだったらしく、道行く人たちも口をポカーンとあけてみんな驚きで声もでないようだ。ただ一人我愛羅だけが真剣な顔でわたしを見ている。


「オレの妻となって、一緒に砂隠れの里に来てくれないか」

「がっ我愛羅!?なに冗談いって…」
「冗談ではない。俺の妻になって欲しいと、そう、」

「ストップぅううっ!」

シズク先輩が砂漠の我愛羅さんにプロポーズされてるうっ、なんて近くにいる下忍の女の子たちが黄色い悲鳴をあげはじめたので、とりあえず我愛羅の口を塞ぐ。やばい、見られてるよ、ばっちり聞かれちゃったよ。

「ば、場所かえよう!?」

そう言って我愛羅の手を掴み、ひとまず強引に瞬身した。消える瞬間周りから歓声があがっていたのがきこえたような気がしたが…考えないことにして。
どこかの人のいない屋上にふたりで着地したあと、すぐに我愛羅の手を離してすこし背を向ける。


「怒っているのか」

「当然でしょっ!だってあんなところでいきなり言うんだもん、こ、困る…というか、」

「すまない」

「えっいや、謝ることじゃないんだけど」

「オレが嫌いか」

「嫌いなわけじゃないけど、」

「では結婚してくれ」

「だからっ…!我愛羅のことは好きだけど、友達としてで、…わたし、好きな人がいるんだ。ごめん…」

「…そうか」


我愛羅は怒るか、無言になるかと思った。しかし実際は、彼はなんと、僅かに微笑みを浮かべたのだった。

「お前を困らせることになると思ったが、どうしても本心を伝えたかった。お前がオレの目を覚ましてくれたようなものだ」


人を好きになり、愛を告白するなど、中忍試験の際に出会った我愛羅ならば予想だにしないことだ。それが現に起きて、彼は変わって、いつしか人を想うようになった。

「ごめん…ありがとうね、嬉しいよ。我愛羅」


これからもよろしく、と、わたしは彼に握手を求めた。以前殺戮しか知らなかった我愛羅の手は、そのとき暖かく、ぎこちなくわたしの手を握り返してきた。恋仲になることはないけれど、私たちは末永く友の契りを交わしたのだった。

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