▼共闘
「大蛇丸なのか?」
イタチの跡を追って洞窟までやって来たサスケは、変わり果てたカブトの風貌を見、大蛇丸を想起したらしい。
「クク…少し違う」
「その声はカブトか」
「戦争協力の見返りがこのタイミングで自ら僕の目の前に来ちゃうとはね。ラッキーだよ」
カブトの言葉に目を細める。
サスケが戦争協力の見返り?
カブトがマダラ側についた理由はそこにあったのか。あの仮面の男、底が知れない。
蘇ったイタチ。変貌を遂げたカブト。そして憎む対象である木ノ葉の忍の私が居合わせてることに、サスケは目を細める。
「ややこしい状況だよね。ボクが簡単に説明しようか」
「説明してろ そのスキに穢土転生は止めさせてもらう」
カブトとてイタチをひとりで相手取るのは厄介だと踏んだんだろう。
サスケに共闘を持ちかけたものの、それはあえなく却下された。
「まずはこいつをオレの月読に掛けその術を止める方法を聞き出す。そして月読にはめたままこいつを操りオレがこの術を解く」
「流暢にボクの倒し方を喋ってくれちゃって。口ほどうまくいくといいけど、この術には弱点もリスクもないってさっき言ったろ」
「どんな術にも穴がある。この術の弱点とリスクは このオレの存在だ」
イタチの隣にサスケが並び、カブトに対峙する。
誰が予想しただろう。交錯して、生前にわかりあうことが出来なかったふたりが、こうして並び立っている。
サスケは私を一瞥し、無表情のまま僅かに言葉を交わした。
「勘違いするな。オレはイタチに手を貸すだけで、お前ら木ノ葉の忍に気を許したわけじゃない。ナルトを片付けたら次はお前達だ」
「…そんな怖い顔しなくてもわかってるよ」
でも今はそれでいい。
まずはカブトが先だ。
*
カブトはフードを目深に被り、視界を閉ざした。あの蛇達の動き、カブトにかわって私達を感知してるみたい。
「幻術対策か」
「ただの蛇博士じゃこの僕は倒せないよ!ここはボクのフィールド 自然がボクの味方をする」
印を結ぶカブトの血色の無い指先。
すると傍らに揺れる白蛇はみるみるうちに巨大化していった。
鋭利な牙を剥き出しにした白蛇が鍾乳洞を荒々しく削りうねり、次々と襲い掛かかってくる。
轟音と煙が晴れると、其処には赤と紫の―――鉄の国でサスケが繰り出していたチャクラの戦士が出現していて、霊剣が大蛇の首を叩き落としていく。
「須佐能呼だね」
「手荒いぞサスケ!殺すなというのは分かってるな!」
「大蛇丸の力を手に入れてるようだしな そう死にはしねーよ」
イタチの須佐能呼が大蛇の胴を手繰り寄せ、一気にカブトを引き寄せた。
「サスケ!シズク!」
「フードだろ」
「これで挟み撃ち!」
サスケとシズクが詰め寄るも、フードの中身はカブトではなく 三匹の白蛇。
カブトはしゅるしゅると地を這い、感知の届かない闇へと逃れていく。サスケの放った草薙の太刀は白蛇の尾を裂いただけだった。
「インテリも度が過ぎてるな。顔の次は姿まで隠して引きこもるか。脱皮して逃げてるだけか?大蛇丸の残りモノを移植しただけの劣化版だな」
「サスケくん、キミ、ボクのことナメてるよね。まぁ、確かにボクのビンゴブックの手配凶度は君以下だったし、大蛇丸様に比べたら大したことないしね」
サスケは万華鏡写輪眼を強化し、チャクラの痕跡を辿った。
そっか。
サスケを見ながら、自分でも新たな瞳でカブトを引きずりだす手段があるのに気付いた。
「姿が見えないんなら引きずり出す!」
波紋の眼だけで視界を捉え、両手をまっすぐ前につきだして術を頭の中でイメージする。
「万象天引!」
新たな持ち主に対し、輪廻眼は忠誠を示した。
六道の一人・天道が使っていた引力と斥力の忍術。
身を隠したカブトを標的に、ペインの能力を思い出して見様見真似で発動した。
まだまだペインの術の規模にかなわないけど、充分な威力だ。カブトの身体が暗がりから引き寄せられてくる。
「お次は輪廻眼かな?」
蛇を鍾乳洞に絡ませ対抗する気か カブトが白蛇だけを身から切り離すと、未だ生きたままのそれが私目掛けて飛んでくる。腰のチャクラ刀を引き抜き一振りすると、切り口鮮やかに大蛇は分断され、地面に叩きつけられた。
「その瞳術も加わったじゃさらに厄介だね。キミは」
だんだんわかってきた。
この眼、本物の輪廻眼と視界を共有してるんだ。
本物の眼がどこで何をしてるかわかる。
誰と戦ってるかも。
「見える…綱手様や我愛羅やナルトが、今どんな風に戦ってるか」
戦場にある二人の輪廻眼の使い手との 視野共有。
マダラは既に死んでいた。カブトの穢土転生でうちはマダラが蘇り、五影は死闘を余儀なくされているのがその証拠。
まんまと騙された。あの仮面の男はうちはマダラじゃなかったんだ。その仮面の男は輪廻眼で人柱力を操り、ナルトとビーさんと対峙している。
やつの正体は不明だが、穢土転生が解ければ状況は好転することだけは確かだ。
「みんな命懸けで敵の目の前に立ってる!死者を手駒にしてないで、正々堂々私たちと戦え!!カブト!!」
再び万象天引を用いると、今度はカブトは抵抗せず、真っ直ぐに私の方へと引きづられてきた。今度こそ。チャクラ刀を構え、標的を捉えて振りかぶる。ドシュ。肉の裂ける音と共に、カブトは3つの肉塊となって崩れ落ちた―――かに思えたけれど、首だけになって尚 その毒牙は私を狙っていた。
首だけの蛇に、延髄を深く噛まれる。
「ぐっ…!」
白蛇を引き離そうとしても、なぜか神羅天征で吹き飛ばすことができない。それどころか、全身から力が抜け、冷たい地面に受け身も取れずに体が崩れ落ちる。
力が…入らない。
「シズク!」
「正々堂々ね。インテリのボクはそういうタイプじゃあないんだよね。その証拠がソレだよ。以前アジトで採取しておいたキミの血を分析し、導き出した…白蛇の牙から溢れる毒はキミ専用に用意したものさ。どうだい?苦しいだろう?」
常軌を逸した再生能力で己を復元し、カブトは地に伏した私を嘲笑った。
大量の汗が噴き出す。流れ込む毒に身を捩る。
イタチはカブトが操る大蛇に阻まれ、どんどん距離を離されてるようだった。
「サスケ!シズクを助けろ!」
洞窟にイタチの声が響く。
「サスケ!」
「コイツは…木ノ葉の忍だ…」
サスケは私を見下ろし、拳を強く、握り締めていた。
「……サ…スケ…」
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