▼似た者同士
「イタチ、私もついていく。今度は仲間として協力したい」
「……いいだろう」
「シズク、気ぃつけろってばよ!」
「わかってる。あとで会おう!ナルト」
生前の長門はカブトの所在を感知していたようで、輪廻眼はその場所を記憶していた。イタチと私は地を蹴り、カブトが潜む地の方向へと駆け出した。
*
問題は、カブトにどうやって穢土転生を解かせるか。
奴の潜伏先に急ぐ道すがらに、イタチはとある作戦を持ち掛けてきた。
「薬師カブトは長年 スパイとして暗躍した。しかし流浪の身であろうと誰しも必ず切り捨てられない人間がいるはずだ」
イタチの推測に、私は戦争の準備をしていたときにある男の人に出会ったことを思い出した。
カブトが育った孤児院の出身の忍、ウルシさんだ。
彼のいうことには、院には“マザー”と呼ばれる忍がいて、こどもたちはマザーから深い愛情を受けていたらしい。
その話を伝えると、イタチはすぐさま策を講じた。
「オレの瞳術には イザナミという特殊な幻術がある」
「イザナミ?」
「カブトを無限の戦いの中に封じ込め、さらに幻術をかけ、穢土転生の印を聞き出す。シズク、お前は“螢火”の術でカブトに縁のあるその人物を呼び出し、改心を促せ」
作戦の大枠は、つまりこうだ。
イザナミという 自らの行動を変えなければ一定の時間を永遠にループするという幻術にカブトをはめ、マザーを召喚させる。
イザナミの術中にイタチが穢土転生の解を聞き出すか、或いは改心したカブトに解かせるかして、穢土転生を解除する。
以前一度だけ、私はその“螢火”という術を発動したことがあった。千羽谷の任務で自ら殺めた敵側の女郎、八重を呼び戻したのだ。彼女の体は穢土転生のようなものではなく、幽霊のように白い炎でできていた。
「でも私、実は肝心の“螢火”って術をどうやって発動するのかわからない。前にできたときは無意識だったし」
「あくまで推測だが……“螢火”はお前の陽遁と異界からの口寄せとが組み合わさった忍術だろう。つまり、通常お前が扱う忍術のプロセスで充分発動が可能ということだ」
「……」
「うちは一族の場合、瞳術は肉体の限界から来る覚醒や精神状態に呼応して強化される。力を求めたときや、仲間の死からくる絶望、恐怖を感じたとき……発動条件に集中すればいい」
「わかった。全力でやってみる」
さっきの戦いでも思ったけど、この人、本当に頭が切れる忍だ。
森を駆け抜けながら、イタチはイザナミという幻術について少し話してくれた。
イザナミは本来、闇に堕ちた一族の仲間を救うための禁術。それは“出口のある幻術”。かけられた者自身が考えを改めれば、幻術から抜け出すことができる特異な幻だと。
術者を殺すことなく、穢土転生解除の印を結ばせるにはたしかに最善の策だ。
「術を解除する隙が生まれるだけじゃなくて、カブト自身が救われる道があるってことね」
「そうだ」
「……あなたに頼ってる私が言うのも何だけど、その術は本当にカブトに使っちゃっていいの?うちは一族を救うための幻術なら……」
「さっきも言ったはずだ。サスケのことはお前たちに任せると」
「でも作戦がうまくいって穢土転生が解かれたら、あなたは消えちゃう。これが最後なんだよ。私だったら、大切な人には、本人から直接真実を聞きたいと思う」
「イタチを……父を 母を 一族をここへ連れて来い!!そしたらそんなもの止めてやる!!!」
鉄の国でサスケはそう激昂していた。
穢土転生でイタチがこの世に戻ったと知ったら、
サスケはイタチを探すに決まってる。父さんに触れた感触がまだ掌に残る私の、これは核心だった。
イタチは返答せず、黙って前方を見据えていた。
やがて進路からあさっての方向に目線を移すと、遥か遠くから近づいてくる気配とその持ち主を感知した。
「言ってるそばから……。イタチ、サスケが近づいてきてるみたいだけど」
まだ距離が開いているものの、方角的にもこの速度で移動していたら十中八九鉢合わせする。回り道をしている余裕はない。
「ちゃんと話して足止めしてよね」
「……うまくいかないものだな」
イタチは僅かながらに困ったような、一方ではサスケとの再会を喜ぶような、複雑な笑みを見せた。
*
秋の季節に見合わず肌寒く、薄暗い洞窟。
不気味な巣穴を思わせるこの場所が、穢土転生の術者の潜伏地。
厳重に施された結界の先にいたのは、記憶とはかけ離れ変わり果てた薬師カブトだった。
「よくここが分かったね」
カブトの口角は怪しく釣り上がっていた。
「話には聞いてたけど、随分と雰囲気が変わったね。カブト」
大蛇丸死後のカブトの豹変ぶりはナルトやヒナタの話で耳にした。当時“取り込まれている”だけで済んだカブトは、角や尾を生やし、現もう人ではない姿になっている。
「すごいだろう?これがボクの研究の結晶さ」
「……」
「キミのそれは輪廻眼のコピーかな?やっぱりボクたちは似た者同士だ。キミも足りない力をよそから補って己を強化してるじゃないか」
キミのこともあれからかなり研究させてもらったよと、カブトは私を見てせせら笑っていた。
「やってることが一緒なのは認める。だけど、使い方までは似てないと祈りたいな。それに……あなたにはこんなとこじゃなくて、別の居場所でちゃんと役目があったのに」
「ボクが今必要としているのはサスケ君だけさ」
「残念だがそれは叶わない野望だ」
カブトの口からサスケという言葉が出た丁度そのとき、背後で低い声が響いた。
「イタチ!なんで…、」
「今は穢土転生を止めるのが先決だ」
イタチが横に並び、カブトと向かい合う。
「お前に操られている間 お前のチャクラがどこから来ているかはハッキリ感じていた。これも術のリスクだ。覚えておく必要はもうないがな」
「勉強になったよ。この術をはね除けるような奴はまずいないから、そういう心配はしていなかったからね」
術者の余裕か、うちはイタチを前にしてもカブトは全く警戒する素振りも見せない。
「ああ 代わりに覚えておいてほしいことがあるんだ。この穢土転生の術はボクを殺しても止まらないよ。けどらこの術を止められるのはボクしかいないんだ」
「こっちはあなたを殺せないってわけね」
「そうさ。ボクが死ねば二度とこの術は止めることができなくなるけど……」
ピクリ、カブトの白蛇が反応する。話の途中にカブトの瞳孔が開かれ、含み笑いは邪悪な笑みに変わる。
「ククク…アハハハ!!運が回ってきたどころじゃないみたいだね、このボクは!」
王手をかけたかのようなカブトの表情の理由。
それは他でもない、待望しているサスケの気配が近づいているからだった。
「足止めしてって言ったのに」
呟くと、隣でイタチはだんまりを決め込んだ。
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