▼運命忘れて

教え子たちの試験通過を聞かされた木ノ葉の担当上忍は、安堵の溜め息をついた。
木ノ葉の通過者たちはいずれも若手の班ばかり。砂と音は一班ずつ。それに湯隠れの忍がひとり。これほど新人が多い回もそうないだろう。これから残った23名による、第三の試験予選がはじまる。

しかしその反面、試験会場へ向かう最中に、カカシはひどく厄介な事件についても耳打ちされた。死の森にあの“大蛇丸”が現れた、と。
接触した第七班は命からがら逃れたはしたものの、サスケに呪印が植え付けられた――その情報は、事の重大さを察知した月浦シズクから、試験中にも関わらず三代目火影に送られてきた文によるものだったらしい。

「狙いは うちはの血か」

これが血塗られた一族の末裔が辿る運命ってやつなのか。
大蛇丸の里抜け後それなりの月日が経ったという今頃になって、再び邪悪な気配が里を包もうとしていた。

*

試験場で三代目火影の説明が始まっても、カカシの部下たちの表情は、ナルトを除いて曇りがちだった。特に呪印に抗い続けるサスケの疲労は思った以上に深刻だった。

初戦に際し、カカシは自分の教え子たちにせめてもの忠告をしたのち、物見に昇る。

てっきり、班で一番のおしゃべり忍者が引っ付いて来るかと思っていたが、ナルトはまもなく始まるサスケの試合で頭がいっぱいなのだろう。観覧席から身を乗り出すようにして、真剣な顔で眼下のサスケを見つめている。
皆の注目がリング上のサスケに集まる中、シズクだけはひとり担当上忍に近づき、切迫した様子で呟いた。

「先生、相談したいことがあります」

「わかってる。お前の知らせは火影様に聞いたよ。この試合が終わったら手を打つ」

《それでは始めてください!》

会場では、第三の試験試験官、月光ハヤテが開始の合図を告げる。
シズクは僅かに安心した表情を浮かべたが、すぐに険しい面持ちへと戻った。

「チカゲばあさまの弟子をしてた頃にね、アンコさんが治療を受けに来てたの。そのときはじめて呪印を見た。カカシ先生、あの呪印を取り除くことって、どうしてもできないの?」

「オレの力では抑え込むので精一杯だ。アンコが未だに大蛇丸の影響に縛られてるのがその証拠だ」

サスケの声が、武器の鳴る音が、二人の密談に水を差す。呪印が痛むのか、手裏剣を弾いた反動でサスケは力なく倒れてしまった。常のサスケならば、あのようなことは絶対に生まれない。

「今からでも棄権したほうがいいんじゃ……」

「大人しくギブアップするあいつじゃないでしょ」

「でも」

「オレたちには手出しできないこともある…むしろこういう逆境でこそ、あいつ自身の意思が問われるときだ」

ここまで来て引き返すようなこどもたちではないとは、火を見るより明らかだった。数ヶ月の付き合いとはいえ カカシにはそれがよくわかる。
その証拠に、風向きは変わった。
チャクラを吸引する相手に苦戦を強いられていたが、ナルトの声援をきっかけに、サスケが何か閃いたようだった。
繰り出されたのは影舞葉。あっという間に攻防は逆転し、今や勝機はサスケの方に傾いている。

「まったく いつの間に会得したんだか」

苦しみながらも、サスケは笑みさえ浮かべていた。
呪印を自身の力ずくで抑え込み、サスケは空中で重い打撃を畳み掛ける。それをまともに食らった対戦相手は、リングに叩き付けられてピクリとも動かない。サスケもまた地面に落下したが、やがて体を起こした。

《うちはサスケ、予選通過です!》


「……だから写輪眼なんだ」

会場の歓声によって、近くにいるナルトやサクラには聞こえなかっただろう。しかし、カカシは隣に立つシズクの呟く声を、はっきりと聞いていた。
手すりをぎゅっと握り締め、物憂げにサスケを見ている姿は、どこか所在なげだった。
そう。その未知数の能力故に、写輪眼が狙われてるんだ。目をつけられてしまったんだ。かつて秘密裏に禁術を追究し、木ノ葉を恐怖に陥れた狂人に。

*

封印のため場所を変えようと カカシがサスケに声をかけにいくタイミングで、シズクも観覧席から降りてカカシを追いかけてきた。

「わたしもついてっていい?」

「だーめ。お前これから予選待ちでしょうよ」

「影分身を会場に残してく。今の試合でサスケにも負担が増えてるし、治療しなくちゃ。ね?」

「……まったく、ウチの班はどうしてこう頑固者ばっかなのかね」

今は一刻も早く、安全に、サスケの呪印を抑えることが最優先。カカシは溜め息こそついたが、無駄な抵抗はしないことにした。

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