▼お前は今どこに

開戦から一夜明けて、朝。
忍連合の戦地では、暁側の策略により各地で混乱が生じていた。誰が本当の仲間で誰が敵のダミーなのか、判明するまで迂闊に相手に近づくこともできないのだ。

妙案浮かばず。腕を組み、シカマルは途方に暮れて空を仰いだ。
他の部隊に散り散りになってる仲間たちが―――自分の腐れ縁が今頃どうしてるのかと頭を過ったのだ。


里で予め大連隊の配属部隊別の陣形に並ぶ前までは、シカマルは父親とシズクと共にいた。
隊列の前方に向かうため、シカクとまず別れた。

「戦争ってのは、命なんてあってねえようなモンだ。生き延びる覚悟を持て。常に冷静でいろ。仲間の生きる道をお前が導け」

「ああ」

肩を叩かれ、手を組み合う。自分の手だというのに、実感がない。勝手に動いてるようだ。影真似でもないのに。

「それとな、シカマル」

シカクがシカマルだけに聞こえるように囁いた。

「戦いの最中じゃ大事な人間がどこでどうしてるかわかりゃしねェ。だが万が一シズクの身に何があっても、」

「物騒なこと言うんじゃねーよ」

「良いから聞け。たとえ何があっても必ず連れて帰って来い。あの子の一番居てえ場所がどこだか判らねェわけねえだろ」

「……わかってるっつの」

もう一度、今度は柄になく優しく確かめるようにシカクの手がシカマルの肩に触れて。

「お前もちったぁ男になったじゃねえか」

振り返ると、もう父の姿はなかった。



「私もそろそろ行くね」

「……なあ、」

「ん?」

シカマルが口下手ゆえに視界を泳がせていると、恋人同士なのだろう 派手に抱擁をかわす忍たちを目撃してしまった。戦争前だから仕方ないのだが、はたから見ているこちらが恥ずかしくなるような光景だった。

「私たち、ああいうのガラじゃないもんねぇ」

シズクは照れ笑いをして、手を振った。

「あー……シカマル、怪我なく無理なく、ね」

「……お前も 無茶すんなよ」

たったそれだけの言葉を交わして、二人は群衆の中にわかれていった。


二日目の朝が来て、第4部隊から第1部隊の増援に向かった先では、既に多くの忍が地に伏していた。その数は目視して把握できる数ではなく、忍連合の半分に及ぶのではないかとシカマルは推測していた。敵の大将が唐突に自分達の前に現れ、宝具を持ち去ったのも、悪い予感がしてならない。

あのとき、恥ずかしいとかカッコ悪いとか言い訳せず素直に肩を引き寄せられていたら。

信じてないわけじゃない。
しかしシズクの無鉄砲な性格で、彼女が無傷でいるとシカマルには到底思えなかった。


*

激痛に耐えきれずシズクはしばらく両膝をついていた。視神経を取り巻く筋肉、皮膚に至るすべてが悲鳴をあげていた。
まるで涙のように血が頬を伝い、地面に小さな染みを作る。
そういえば、涙は世界で一番ちいさな海だと、昔読んだ絵本に書いてあったなあ。シズクは場違いにも思い出していた。
右目を開いたとき、そこには波紋の瞳が渦を巻いていた。


「シズク 大丈夫かァ!?」

「うん。大丈夫」

「……」

ナルトは複雑な心境で輪廻眼を見つめていた。

「能力を持ったものには責任があるんだってさ。あの人がこの目でできなかったことを、私も背負うよ」

友がそれだけの覚悟をしたなら。
頬を伝う血を手の甲で拭い去ったシズクに、ナルトはそれなら自分の役目を果たしてやると奮起した。

「このエドテンとかいう術、気に食わねェ!戦いたくねェ人と戦わされてる!早く止めねーと」

ナルトの言葉にイタチが進言する。

「穢土転生はオレが止める。マダラはお前達に任せる」

「ここへ来る途中にエドテンセイの奴と戦った砂の忍がそいつを封印したが どうやら殺せはしないヨウだOK?この術は弱点の無い完璧な術だそうだOK?」

「さっき言ったハズだ。どんな術にも弱点となる穴が必ずあると」

「イヤ、オレが止める!さっきオレも言ったはずだ。後はオレに任せてくれって!」

影分身の術!

ナルトは印を結んだが、その際に九尾モードが限界に達し、途絶えてしまった。影分身でさえ一体作るのがやっとで、その分身すらすぐに解けてしまう。

「九尾チャクラモードの使いすぎだ。それ以上分身はするなナルト!」

「くっ…ちくしょー!こんなときに!シズク、回復させてくれってばよ!」

「治療ならいくらでもするけどさ、ナルト、今必要なのは温存することだよ。ペース飛ばしすぎ」

「そうだ。一人で無理をしようとするな。穢土転生を止めるためにはオレが打ってつけだ。考えがある」

「でも、やっぱオレがやる!この戦争は全部オレが引き受ける。それがオレの役目なんだ!!」

「お前は確かに前とは違い強くなった。だがそのせいで大事な事を見失いかけているようだな……」

「!」

「いいか、よく覚えておけ。お前を嫌っていた里の皆がお前を慕い始め…仲間だと思ってくれるようになったのは、お前が他人の存在を意識し認められたいと願い、一途に頑張ったからだ」

「……」

「お前は”皆のお陰でここまでこれた”と言ったな。力をつけた今、他人の存在を忘れ奢り”個”に執着すればいずれ マダラの様になっていくぞ」

一人きりで背負おうとしている彼を見るイタチの目は、まるでナルトに生前の自分を重ねているかのようであった。

「どんなに強くなろうとも全てを一人で背負おうとすれば必ず失敗する。お前の父ミナトが火影としてあったのは、母クシナや仲間の存在があったからこそだ。お前の夢は確か父と同じだったな……なら覚えておけ。”火影になった者”が皆から認められるんじゃない、皆から認められた者”が火影になるんだ。仲間を忘れるな」


「……確かに…オレが何とかしなきゃダメなんだって、思い込みすぎてたかもしんねェ」

自らの言葉がナルトに届いたことを確かめると、イタチはカラスに託していたシスイの眼を、黒炎で燃やしつくした。
強力な写輪眼を未練なく焼き払ったイタチに対し、ナルトはそれをサスケに使わなくて良かったのかと詰問しかけたが、皆まで言わなかった。


「今ならアンタもサスケに会えるもんな!今度こそ、」

「イヤ……今度はそれこそ仲間に頼るさ。サスケのことは お前に任せる」


そう言うと、イタチはほんの少しだけ笑った。
人生のほとんどを仮面で隠し続けてきた彼の、それが本来の姿だった。

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