▼幸せ者

「ナルト、シズク、まずオレを引き離せ!オレは機動力が無い――」

言葉と裏腹に、輪廻眼で操られた双頭獣と鳥獣が続々と口寄せされていく。

「――事もないか」

「アンタそんなキャラだったかァああ!!?」

穢土転生された二人の瞳力使いを前に、ナルトたちは苦戦を強いられていた。

「後ろだ」

「わかってる!OK!」

《火遁・鳳仙花爪紅》

優雅に舞う火種をビーは素手で受け止め、イタチの背後、地中からつき出した八尾の足で敵を捕らえる。

「アチチチチ!!捕まえたぜ バカヤローコノヤロー!」

しかし次の瞬間 イタチは無数のカラスとなって忽然と姿を消した。
カラスたちは手裏剣に姿を変える。

「オレの眼を直接見るな!」

ビーは7口のチャクラ刀を取りだし、無数の手裏剣を打ち落としていく。

「ウィー!!”鮫肌”!」

「剣術なら助太刀できます!」

「共闘!OK!!」

シズクも同じくチャクラ刀の鯉口を切り、イタチを前後に囲んだ。
一方、ナルトは長門と応戦していたが、口寄せされた多頭獣の頭はどんどん数を増やすばかりであった。

「うわ!キリがねー!!」

「そいつは殴ると増える いったんオレを倒せ!」

合間を縫ってイタチとビー、シズクの戦いを余所見すると、イタチが二人の剣撃から逃れて長門の前方に移動したところであった。イタチの右目が徐々に変容していくのを、ナルトは見逃さなかった。

「シズク、ビーのおっちゃんも気をつけろ!万華鏡写輪眼だ!くらったら終わりだぞ!!」

しかし、異変を受けたのは注意を促したナルト本人であった。

「ナルト!?まさか"月読"に」

幻術にかけられたかのように思われたナルトだったが、その口からは、写輪眼を秘めたカラスがつきだしていた。

「うっ ヴゥオオエエッ!!」

「カラス!?」

「なっ なんでオレの口からカラスが出てくんだよォ〜…」

「やはり出たか…」

イタチの目からは血が溢れてきている。


「お前にオレの力を分けてやったその力…使う日が来なければいいがな」


「そういや…イタチってばあの時、」

「ナルト!天照だ!」

イタチの術の兆候を感じ取った長門が叫んだが、何故か黒炎は姿を見せない。

「"天照"じゃないのか?」

ナルトの肩に舞い降りたカラスには、左目に万華鏡写輪眼が埋め込まれていた。

「こうなったか」

訳知り顔のイタチは二の句も告げず、万華鏡写輪眼で術を発動した。

《天照!!》

身構えたナルトだったが、黒炎が放たれたのは双頭獣の瞳。何もかもを焼き尽くす黒炎に獣の体はたちまち侵食され、重い音をたてて大地に転がった。

「え?"天照"を外した?」

「あのカラス…お前のだな イタチ。あのカラスで何をしたんだ!?」

イタチは背後から話しかける長門の方に振り向くと、再び術を発動した。

《天照!!》

「ああ…そういう事か」

長門も事の次第を悟ったかのように呟く。
直後、長門の体に黒炎が取り巻き、その体は口寄せの鳥獣からズルリと傾いて落下した。
イタチはナルトとシズクが避難した木の頂付近に瞬身した。

「うわ!来た!!」

「落ちつけ もうオレは操られてはいない。この敵の術の上に新たな幻術をかけた。よって穢土転生の術は打ち消された」

「新たな幻術…?」

「“木ノ葉の里を守れ”という幻術だ」

「!?」

「そのカラスは オレの万華鏡写輪眼に呼応して出て来るように細工しておいたものだ。もしもの時の為にな」

「どういう事だ?」

ビーも駆け寄り、イタチを三人で囲む。

「そのカラスの左眼に仕込んでおいたのだ。うちはシスイの万華鏡写輪眼・最強幻術”別天神”」 

「うちは最強の幻術使い 瞬身のシスイか?」

シスイは木ノ葉暗部において名を馳せた忍。
他国の忍であるビーにもその名を知られている。

「そうだ。シスイの瞳力は、対象者がかけられたと自覚する事なく操る事ができる最強の幻術。“木ノ葉を守れ”という幻術を仕込み、その眼をカラスの左眼に埋め込んで、お前に渡しておいたのだ。ナルト」

シスイの瞳術により、イタチは穢土転生を包括して正気に戻っていた。

「まさか自分自身にかける事になるとは思わなかったがな」

「なんでオレなんかに渡してたんだ?」

写輪眼が発動する危険もなくなった今、イタチはナルトをしっかり見据えて口を開いた。

「シスイは里を守る為に使えと片眼をオレに託し、死んだ。後に眼をめぐる戦いが起きぬよう…己の眼を潰したように見せかけてだ」

自己犠牲。陰から平和を支える名もなき忍。
それがイタチがシスイから学んだ忍の姿だった。

「そんな…あまりに強力な瞳だから…?」

「ああ。オレはその手伝いをした。シスイが最後にオレと会った時は すでにダンゾウに片眼を奪われた後だったが…」

ダンゾウという名に、シズクは黙って目を伏せる。
五影会談時にダンゾウが写輪眼を有していたという報告は、隊長格の上層部にのみ伝えられていた。


「サスケが里の脅威になったとしたら…眼を預かった者として、シスイの意に反する事になる。それを正す事ができる者に…シスイと同じ考えを持っていたに渡すのが相応しい」

「……」

「お前はサスケを兄弟だと言った。だからこそサスケを止められるのはナルト…お前だけだと思った」

ナルトもそらすことなくイタチを見つめ返した。

「永遠の万華鏡写輪眼を手に入れるために、サスケはオレの眼を移植すると想定していた。そうなった時に、移植したオレの眼に呼応し お前からそのカラスが現れ、サスケに“別天神”をかける…“木ノ葉を守れ”…そういう手筈だったが」

「…なぜそのシスイの眼で初めからサスケにその術をしなかった!?」

「しなかったんじゃない できなかった…当時はな。シスイの万華鏡は再発動まで十数年かかる。それにサスケにはオレの死を利用して色々としてやりたいことがあった」

「…」

「でも…サスケを“別天神”で木ノ葉に帰したとしてもそれは術でしかない。サスケが自分の意思で改心したことなはならないでしょう」

「…ああ…そうだな」

微笑んだイタチの表情は少し悲しげであった。

「…イタチ…信頼してくれてありがとう。もう心配ばかりしなくていい アンタは里の為に充分すぎるほどやったじゃねーか。後はオレに任せてくれ」


「木ノ葉は守る!そんでもってサスケも殺さず止める!」


再び笑んだイタチにはもう悲しげな面影はなかった。天照の発動によって瞳から流れた血の跡が、まるで涙のように見えた。

「…弟は…お前たちのような友を持てて幸せ者だ」

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