▼サテライト
目を開けたら黒い長髪が視界に飛び込んできて、渾身のグーパンを鳩尾に決めたら、相手は大蛇丸じゃなく 木ノ葉の下忍・日向ネジさんでした。
「恩を仇で返すとはまさにこの事だな」
「ほんとサイテーよね」
「ごめんなさいごめんなさい!助けてもらったとは露知らず」
「てゆーか何で元気なの?ネジに休止の点穴突かれたら1日は身動き取れないハズなのに」
日向ネジさんと、テンテンさん。
ふたりの名前もたった今聞いたばかり。
平謝りしつつ、ふたりに状況を教えてもらいながら頭の中を整理する。わたしは大蛇丸を追跡して手傷を負って、ネジさんに出くわしたらしい……
「い、いま試験何日目ですか!?」
「二日目の日が昇ったとこよ」
「二日目の朝!?そんなに時間が!?」
サクラに“すぐ戻る”って言ったのに。どうしよう、三人とも大丈夫かな。
それにしても妙だ。大蛇丸との遭遇を報告しようと急ぎ文をしたためたのが一日目の夕暮れ。式はもうとっくに三代目様のもとに届いてるはず。読まれているのなら、危険人物の襲来を受けて里に戒厳令がしかれていてもおかしくない。でもまだ中忍試験は中止になってないみたいだ。
なぜ?連絡が行き渡らなかっただけなの?
とにもかくにも、まずはサクラたちに合流しなきゃ。
「ふたりとも助けてくれてありがとう!」
「待て。お前仲間がどこにいるか把握しているのか?」
「……それは…」
忍カラスのカンスケは三代目様のところへお使いに出しているし、確実な追跡手段は実はない。
言葉を濁しているあいだに、ふと、彼の顔を見て気がついた。
日向ネジ。ヒナタと同じ白眼の使い手。
ともすれば、彼はわたしの知りたい情報を既に握っている。
「ついてこい。どうやらオレの仲間とお前の仲間は同じ場所に居るようだからな」
*
木立から周囲を見渡すと、ボロボロになったサクラ、倒れてるナルトと、ネジたちのチームメイトのリーさん。そして、人相に見覚えのない三人の忍。
額宛ては音隠れのものだった。
そして。
禍々しくて、はじめはわからなかった。
「……サスケ…?」
目を覚ました瞬間から、サスケはいつもと様子が違っていた。写輪眼の赤い瞳に、殺気。身体に浮かびあがる、勾玉を模したような奇妙な文様。チャクラも異常なほど荒れ狂っている。
「いの!そのカッコじゃ巻き添えだぞ!元の体へ戻れ!チョウジもこっち来い!」
何故か居合わせていたシカマルやチョウジくん、いのが、サスケの異変を感じ取り、ちょうど茂みに身を隠したところ。
シカマルたちの判断は懸命だった。サスケは音忍に目をつけると、圧倒的なスピードで彼らを追いつめていく。ただただ非情に、自らの力を楽しんでいるような姿は、まるで大蛇丸に乗り移られたみたいで。
これが大蛇丸の呪印の対価なの?
「クク…お前…この両腕が自慢なのか」
骨の折れる鈍い音に、響き渡る悲鳴。けれど、敵の腕を破壊しても尚、サスケは止まらなかった。
嫌だ。こんなの。
「やめて!!」
サクラは涙を流しながらサスケに近づくと、静かにそっと、後ろから彼を抱き締めた。
「おねがい……やめて…」
サクラの懇願が届いたのか、身体を取り巻く呪印が徐々に引いていき、サスケはその場に膝をついた。息はまだ荒いけど、チャクラの高ぶりもおさまって、いつものサスケへと戻っていく。
命を拾った音隠れの忍は、これは手打ち料と 懐から“地”の巻物を取り出した。確かめなきゃいけないことができたと 意味深に告げて。
「大蛇丸って一体何者なの?サスケ君に何をしたのよ!なんでサスケくんに!!」
「分からない。ボクらはただ…サスケ君を殺るように命令されただけだ」
「それと、いいこと教えてあげるわ。あなたが知りたい呪印の解き方は、この試験に参加してる私の部下“音隠れ”のスリーマンセルが情報を持ってる」
そうだ。大蛇丸は去り際に、わたしにそう言い残していた。
「待って」
木立から地面に降り立って、わたしも音忍たちに背後から問うた。
「あの呪印の解き方を知ってる?」
「ボクたちは知らない」
「本当に知らないの?あなたたちは大蛇丸の仲間なんじゃないの!?」
班員を抱えた忍は、黙ったまま首を縦にも横にも振らなかった。
踊らされた。
呪印の解き方を知らないというのは真実らしい。否、“サスケを殺れ”と命じられていただけなら、もっと酷い。とどのつまり、彼らは司令塔に弄ばれてるだけなんだ。
ただの手駒をどうにかしたって何も得られない。けど、手駒なのは わたしたちも同じかもしれない。
大蛇丸の襲来を知らせてみたものの、木ノ葉の上層から応答や指令は何もなく、まだこうして死の森で下忍ばかり こうして戸惑ってる。
里で一体何が起きてるのか何も知らずに。
「……こんなもの」
こんなものに、この試験に、どんな意味があるの。
敵の置き土産の巻物を見下ろしながら、気づけばそう、吐き捨てるみたいに呟いていた。
*
「あー!お前ってばゲジマユ!!」
「リーさんに失礼なこと言うんじゃないわよ!!」
「ぐボホッオォ!!」
起き抜けのナルトにサクラの鉄拳制裁。
「シズク ついでにアンタも!」
「ひえっ」
「全っ然戻ってこないんだから!心配かけて この、しゃーんなろー!!」
「ぐグホォ!」
クリーンヒット。流れ弾に当たった感は否めないけど、サクラの言う通りだ。手負いの仲間ふたりをサクラ一人に任せていなくなって、帰ってこなくて。
サクラはこの窮地を、言葉通り身を挺して、仲間を守りぬいたんだ。
また何も できなかった。
「オイ、シズク」
落ち込んでいると、シカマルがわたしの傍らにやって来る。
「なんでお前ひとり別行動してたとか、ネジって奴らと一緒なのかとか……今更聞かねーけどよ、」
「シカマル わたし、何を信じればいいんだろう」
「は?オレの話がまだ途中だろ」
「なんかわかんなくなっちゃった」
「……お前 そんなんで試験続けられんのか?」
「……どうだろう。わかんない」
「…何があったか知らねーけどよ。もうちょい仲間頼ったっていいんじゃねェの?お前、第7班のメンバーなんだろ」
とりあえず宥めてくれる、優しいな。
「……うん。そうだね。ありがと」
今この里で、中忍試験で、何が起こってるのか真実は見えない。サスケにつけられた呪印の解き方も、わからないまま。
でも、呪印を取り除けなくても、サクラの思いがサスケの暴走を止めた。そしてここには、一応試験のライバルだけど、ピンチのときに助けてくれる仲間がいる。
今はそれが何よりの、信じられる指標だった。
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