▼後悔しないで
忍連合軍 倒れた忍の数、8万の内約4万。
一方“暁”勢、10万の内5万。
1日で両陣営とも半数の戦力を失った。
戦いは日の暮れ後も続いたが、日付が変わると共に嵐の前のような静けさが訪れた。
第4次忍界大戦は第2の激動に向けうねり出す。
怪しく輝く月の下、暗躍する忍が二人。
ペイン長門は 傍らで自分を支えながら歩を進めるうちはイタチに語りかけた。
「結局、オレもアンタも人に利用される忍だ。この強すぎる瞳力のおかげで……今回も…術者に後回しで動かされてる」
イタチもそれに同意する。
「お前の六道の力・輪廻眼と、オレの万華鏡写輪眼…二つの瞳力さえあればほぼ何でもできると言っていい。術者はこのタイミングでオレの幻術の力を利用するつもりだろう」
輪廻眼と写輪眼。
術者カブトによる人柱力捕獲の思惑のもと、二対の瞳はゆっくりと しかし確実に、目標へ近づいていた。
―――――その遥か遠方で、月浦シズクは彼らの気配を察知した。
「……!?」
前例のない予感に、はじめはシズク自身も自らの感覚を疑った。
夜になり“暁”側の侵攻が弱まったところで、医療忍者としての救急。後方の医療部隊本部では20体に及ぶ影分身も同時に働いている。
ただの疲労からくる勘違いか?
しかしシズクは、自分が捉えた気配の持ち主に、徐々に確信を募らせていく。
「……輪廻眼」
ついに看過出来なくなったところで、シズクは第3部隊隊長カカシのもとへ駆け出した。
*
「何!?ペインまで穢土転生されてるだと!?」
監視の最前線をガイに任せ、カカシは山中サンタと連れだってシズクの呼出に応じていた。
「でも何故シズクがそれを?感知タイプではないだろう」
「はい。でも、自分が治療した忍の気配を追ったりすることはできます。なんでかわからないけど。長門の場合は 何らかのリンクができてるのかもしれない」
気配を感じ取れた理由は、実のところ、本人も知り得ぬ能力が影響していた。
長門はうずまき一族の末裔にあたる。実子のシズクもまた、その血を受け継いでいる。
うずまき一族が得意とする神楽心眼が、大蛇丸一派の香燐ほど完全とはいえないものの ほんの僅かに身に付いていることを シズク本人が知る由はなかった。
シズクは指で地面に地図を描き、自分たちの地点と長門がいると思われる地点、そして彼の動線を矢印で引いた。
「正確な場所までは把握できてないけど、彼の行く先はきっと……」
「八尾と九尾か」
敵の向かう先は、この世界を守る鍵の在処だ。
「なるほどね 戦場の混乱に乗じて人柱力に接触される危険は高いな。サンタ、至急本部に報告を」
「ハイ!」
「オレたちの隊が動くには遠すぎる。この戦場は一掃まで半日かかるだろうしな。あとは本部の判断に委ねよう。ナルトたちにも護衛隊がついてる。」
「……」
シズクは眉間に皺を刻み、俯いていた。
彼女の杞憂がナルトの安否だけでないとカカシも気付いていたが、敢えて口に出しはしなかった。
「報告ごくろう。さてと 前線に戻るぞ」
木陰から退こうと立ち上がったカカシとサンタ。
二人の目の前には、部隊の後方で警備に当たっているはずのサイが佇んでいた。
「サイ 盗み聞きとは感心しないな」
「すみません」
カカシに一言侘びるも、サイの瞳はシズクを見据えている。
「シズク、キミは行きたいんだろう?」
「!」
「里で事情も聞いていたし、何よりキミの顔を見ればわかる。ペイン長門に……父親に会いたいんだろう?」
「それは……」
「ダメだ。単独行動はさせられない。こっちの戦場も制圧にはまだ時間がかかる」
隊長のカカシが告げるも、思案に耽るように目を細め、筆を握り締めたサイ。
彼は巻物を広げると、流れるような動作で筆を進めた。
《忍法・超獣偽画!》
現れた大きな鳥は、シズクだけを摘まんで背に乗せると、地を軽く弾いた。
「わっ!」
「勝手な行動をとるな、サイ!」
「すみません カカシさん」
サイは身勝手を詫びると、鳥の背に掴まったシズクへ振り向いた。
「ボクは奇襲部隊の前線で 穢土転生で蘇った兄さんに再会した」
「お兄さんって、前に話してたあの?」
「そうだよ。約束の絵も伝えたかった思いも、今日果たすことができた。死人を操るこの術に良いことがひとつあるとしたら、それは大切な人に……言えなかった思いを伝えられることだ。だからキミも後悔しないで」
「……うん!ありがと、サイ!」
心から笑ってみせたサイに、シズクも大きく頷いて答えた。
カカシが引き留める暇もなく、サイの墨鳥は大きく翼を羽ばたかせる。
「ごめんカカシ先生っ!すぐ戻るから!」
シズクの姿はまもなく、夜空の彼方へと溶けていった。
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