▼チョウジの誓い

決意とは裏腹に、身体は本心に従って躊躇してしまうもの。
猪鹿蝶の息の合ったフォーメーションは標的を捕らえる好機をつくりつつも、肝心の一撃が決まらない――否 決められない。
倍化したチョウジの拳はアスマの目前で止まり、戦いは難航を極めていた。

「何してるチョウジ!しっかりしろ!覚悟決めたんじゃねーのか!」

「やっぱボクには無理だ!!先生を殴り倒すなんて事できっこないよ!!」

チョウジの心が弱いわけではない。
猪鹿蝶の連携においては いのとシカマルは前座。己の身体を武器に敵に直接ぶつかるのはいつもチョウジだ。三人の中でも一際心根の優しい忍に、前線の負担が集中する。

「チョウジ!よけろ!!」

《風遁・風塵の術!》

蹴りを入れられ受身を取れないチョウジの真正面から、風塵の術が迫る。咄嗟の判断でいのがチョウジをつれて逃れたことにより、間一髪 風塵の軌道から避けることができた。

「大丈夫か!?」

「どうにかギリね…」

チョウジは両目を固く閉じ、歯を食い縛っている。

「何で…何でこんな事になっちゃったんだよ!?」

「今さら泣き事言うな!!オレ達でアスマを止めるって覚悟を決めたろ!!」

「何て顔してやがるチョウジ!今のオレは敵でしかない!死んだ人間だ!容赦はいらん!!」

「分かってる 分かってるけど!」

「……いいかげんにしろデブ!!」

「!」

生前に聞いたことのない挑発を師がけしかけている。
シカマルといのは耳を疑った。

「オレをやってみろチョウジ!!」

「ウ…ウォォォ!!」

チョウジは禁句に反応し、一度は拳をアスマに向けるも、脳裏を過るのは 第十班の四人で過ごしたかけがえのない日々。
またもチョウジは動きを止めてしまった。

「どうしてだ チョウジ!!」

シカマルは援護するも、アスマのクナイによって容易く弾き飛ばされてしまう。チョウジにアスマのクナイが襲いかかる。が、いのの心転身の術により、チョウジの身体は応戦した。

≪チョウジ≫

精神世界で いのは友に語りかけた。

≪私達はアスマ先生と一緒に十班として多くの任務をこなしてきた。アンタの気持ちも分かる。シカマルだって私だってこんな戦いイヤに決まってる!でも、そんなアスマ先生を知り尽くしてる私達だからこそ忍連合のリスクを最小限にして止められるの!≫

≪…≫

≪チョウジ……アンタさ…この耳のピアスの意味忘れた訳じゃないでしょ≫

三人の耳に光るピアス。それはアスマから贈られた第十班の証。そして、耳飾りのしきたりは古くから続く一族の後継を示していた。

精神世界で苦悩するチョウジ。一方現実の世界では、父であるチョウザがその身を盾にして、アスマの灰積焼からチョウジの体を守っていた。

「チョウザさん!!」

「くっ…」

「チョウジいい加減にしろ!!オレ達ゃもう守られるガキじゃねーハズだろ!今は守る側だ!!アスマに己の子供を殺させる気か!!」

声を大にし、親友に向かってシカマルは叫んだ。

「やさしさを履き違えるなっ!!!」

≪シカマルの言う通り!何のためにそのピアスを付けてんの!!≫

「甘えるな!!!チョウジ!!お前は秋道一族16代目だぞ!!」

シカマル。いの。そして父チョウザ。
3人の声は、まるで背中を押すように チョウジの耳元に響いてきた。


周りのこどもたちはチョウジをデブでトロいと言うが、優しい父は そんなことは言わない。
幼いチョウジは いつも父のそばにぴったりとくっついていた。

「あの三つのマークのいちばん右、秋道一族のマークでしょ?他のは…えっと」

「中央が奈良一族で 左が山中一族だ」

木ノ葉の里が興る前から、チョウジの一族はとある二つの一族と代々手を組み戦ってきた。
猿飛一族から託されたピアスは、三つの一族の結束を約束するもの。 父に肩車され チョウジは目の前にある父の耳に触れ、痛そう、と思った。

「お前もいずれピアス穴をあけるんだぞ」

「え〜 何でェ?」

「己の誓いを子の耳に留めさせる習わしだ。自分の子供が下忍になった時、その子供が中忍になるまでの間 自分のピアスを渡すんだ」

「ボク痛いのヤダなぁ…」

優しくもあり、痛みに敏感で、臆病な子でもあった。

いつしか下忍となり、耳に触れるリングピアスの冷たい感触は、チョウジの誇りとなった。
自分が認められたこと。しかしそれは覚悟とはまだ無縁で。

「今日からお前も一人前だ。今度はお前がその新しいピアスに誓いを宣言し、子供へあずけ守り育てる番になる。さあチョウジ!宣言の時だ!」

(あのときも ボクは不安がってた)

大人になれば自然と心も強くなっていく そう自分に言い聞かせていたが、ただの言い訳。現にチョウジは今もシカマルやいのや父に守られている。

図体ばかりの跡取りと、そう言われてきた。
しかし師であるアスマは、父と同じで、誰かの言葉を鵜呑みにすることなく、本人を見据え手を貸した。自分で自分を信じられないチョウジを、アスマは信じていた。
自分を信じてくれた師匠の最期の言葉を。
父に宣言した一族の誓いを。
破るわけにはいかない。

(いのは気が強くてワガママで、でも女だからって一度も逃げたりしなかった)

(シカマルはボクに足りないものがわかってても、それでもずっと親友でいてくれた)

フォーメーション猪鹿蝶は、チョウジが決め手を打たなければ“完璧”になれない。

≪いの ごめんよ…ボクはもう大丈夫。替わってくれ!≫


「変わんなきゃいけないんだ!!」


「我秋道チョウジは山中・奈良両一族を守るため いざ蛹から蝶へと翔かん!!!」


チョウジの背からは極限まで凝縮されたチャクラが脊髄を抜けていく。まるてそれは一対の蝶の羽のように広がり、辺り一面に衝撃波が走った。

「蛹のカラが思ったより硬かったか?チョウジ…さて こっからは翔べるな?」

アスマの一言は、その時を信じ待ちわびていたかのようなものだった。

「もちろん!!」

*


「シカマル背中!!」

「オウ!行けいの!」

いのが心転身の術で白ゼツを乗っ取り、アスマと応戦する。次にシカマルが影縫いの術でアスマをポイントへ誘導した。
これではかわしようがない。
笑みを浮かべたその瞬間、過去最大の拳がアスマの眼前に広がる。
岩壁をも砕く一撃。
そして最後に、シカマルの術を帯びたチャクラ刀がターゲットの影へと弾き飛ばされ、アスマは動きを完全に封じられた。

「オレの形見で片をつけてくれるとはな。感動で動けねーよ…」

「影真似手裏剣の術ってんだ。動けねーのはそのせいだ」

フォーメーション猪鹿蝶、成功。
封印班が辿り着くと、ちょっと待てくれと アスマは少しの間 制した。

「最後の言葉は一回聞いてる。二回も言われっと興醒めだぜ」

「……なら…あの時は言えなかった一言を付け加えさせてくれ」

アスマは最期、一人前になった教え子たちに向かって満面の笑みを見せた。
弟子の目に涙はなく、瞳には受け継いだ意志が深く刻まれていた。

「お前らにはもう何も言う事がない。まさに完璧な猪鹿蝶だった!」



――バサ、バサ。

「何だ…!?」

一帯に響き渡る羽音のようなチャクラの波打ちに、周囲の忍たちは空を見上げた。

「ボクがこの戦場を終わらせる!!だからシカマル、いの、協力頼むよ!!」

チョウジの覚醒により、A地点のその後の形勢は一気に忍連合側へと傾いていくことになる。

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