▼その背中を見てたから

穢土転生に苦戦を強いられていたのは第3部隊だけではなかった。
どの戦場においても各国の名だたる忍たちが蘇っていた。かつての仲間、父、母、兄弟、愛する人は、今や敵。
二度は死なず 守るべき命はない。
彼らを攻撃することは、自分たちの心を斬りつけているのと同じようなものだった。


同刻・戦場A地点

忍連合本部参謀・奈良シカクの機転により、“琥珀の浄瓶”封印作戦は無事遂行された。
伝説と称される金角・銀角兄弟への勝利の喜びに浸かる暇もなく、若き猪鹿蝶たちは戦場の奥地へと足を進める。

「あ……あいつは!」

「久しぶりだな、猪鹿蝶のガキ共」

偶然か必然か、そこにいたのは“暁”角都であった。忘れもしない 熾烈な戦いの記憶が、いの、チョウジ、シカマルに脳裏に蘇る。

「角都と言ったっけか アンタ。“金”は取った。“角”のアンタの動きも手の内も知ってる。こっからはこっちが攻め倒す!!」

シカマルは鋭い眼光を角都に向けるが、角都は余裕の笑みを三人に向けていた。

「影を使うガキ……お前がここにいるという事は 飛段は止めたのだな。また祈りの最中に首でもハネられたか。あいつがここに居ないのはまだ死んでないという事か?」

「あいつの腐れ期限なんて知るか!!」

いのが激昂した。
知る者は限られていたが、飛段は今も尚 奈良家の森の地中ふかくに埋められたままだ。神への祈り――生け贄の死を捧げることもできず、分解してゆく体で、時が過ぎるのをただもて余している。

「飛車もなく金銀取られて防戦一方とはな。ならば…そろそろ“角”成りといくか」

その最中、角都によって捕らえられていた忍の体から心臓が抉りとられ、彼を構成する五つの要素全てが揃った。四つの性質を持つ分離体がそれぞれ自立している。

「こちらも“金銀”の手ゴマを取っててな。そいつらはどんな奴か気にならないか?」

三人は指さされた方向に顔を向けると、そこには木の葉マークを背負う中に忍ベストの忍が、二人。

「!?」

師の姿を三人が見紛う筈はなかった。
穢土転生で蘇った金角たちを目撃し、もしかしたら、とシカマルは密かに思っていた。
そうなって欲しくないと考えながら、心の片隅ではどこかで願ってもいた。

「猿飛アスマ。三代目火影の子 お前らの師だ」

「アスマ…先生!!」

たとえ敵として現れても こうして会えていることは奇跡のようだった。
あれ以来 その背中を繰り返し思い出してきたのだから。

「相手の手ゴマを取ったのはお前達ばかりではない。他にもまだ何人かいる。皮肉だな」

加藤ダンの前には倍化したチョウザが立ちはだかり、イズモとコテツが角都を双刀で捉えている。
アスマとの邂逅に 猪鹿蝶は動揺を隠せずにいたが、五人で角都を封印するというイズモの提案でそれを払拭しようとしていた。

しかし 本部のシカクより下された指示は、猪鹿蝶をこそ師と戦わせるという命令で。
長年 師弟を結んだからこそ手の内を知り得るという、軍師としての判断だった。


「でも…そんなァ…ボク……」

三人は足を止める。
シカマルの隣で、チョウジは小さく泣き言をたれていた。
薬師カブトの戦略は、忍たちの心を逆手にとった 巧妙な戦略。大切な者が敵陣にいては、チョウジのような心根の優しすぎる忍はいっそう耐え難い。


シカマルは押し黙った。

(アンタ なんでそっち側にいんだよ。なあアスマ)

自分だってチョウジと心は同じ。
そのときシカマルの胸中に思い出されたのは、父シカクの言葉だった。


「本当に仲間を大切に思うなら、逃げる事を考える前に自分がより優秀になる事を考えやがれ、この腰抜けが」


初隊長となった任務、父の言葉によりシカマルは己の責任を自覚した。まだ大人になりきれなくとも、仲間のためにシカマルは強がることを選んだ。歳相応とはいえない背伸びで、シカマルは同期の誰よりも早く責任を受け入れた。
師アスマの死の際も、それは同じで。


「……頼んだぞ…シカマル…」


アスマから背を向けて逃げることは出来る。
しかし逃げたところで、その先は知れている。
投了の次に待ち受けるは死だ。
己の師にチョウジやいの、多くの仲間を殺させる非道を選ぶということ。
アスマから託されたものを アスマに壊させるということ。

今こうして迷ってるうちにも、アスマは誰かの命を奪っていく。
師が残そうとした幸福な未来を潰すわけにはいかない。

「オレは行くぞ」

「シカマル……」

「チョウジ!周りの仲間をちゃんと見ろ!!」

チョウザの声の先には、血を流しながらも懸命に敵に立ち向かっていく仲間たちの姿があった。
生唾を飲んだチョウジに、いのが語りかける。

「チョウジ…アスマ先生の最期の言葉 覚えてる?」

「チョウジ…お前は…仲間想いの優しい男だ。だからこそ 誰よりも強い忍になる…自分にもっと…自信を持て…」


ここで逃げては、師匠の最期の言葉を 信頼を、裏切ることになる。たどたどしくも揺らぎながらも、チョウジにも火の意志は受け継がれていた。

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