▼最後の敵

いずれナルト大橋と名付けられるその場所をあとにした、その帰り道。

「またAランク任務やってやるってばよ!」

「何言ってんの。ダメダメ」

「ええ〜っ、なんでなんで!!」

「再不斬と白…あれほどの強い忍相手に皆無事だったのが信じられないくらいだよ」

ナルトを嗜めるカカシに、傍らにいたシズクも相槌を打っていた。

「そーだよ。カカシ先生がいたから良かったけど、わたしたちだけじゃ全滅してた!」

「ま もっと術覚えて強くなってからだよ。Aランクなんてのは」

「んー……それもそうだけどさァ」

「どうしたのナルト?考え込んで」

「いやさ、守りたいもんもっといっぱいみつけねェとなーって!」

「?」

どこかさっぱりした表情のナルトに、カカシとシズクは顔を見合わせていた。

「あの白の兄ちゃんが言ってた。人ってのは大切な何かを守りたいと思ったときに本当に強くなれるってよ!」

「じゃあ、お前もそう思うのか?」

「うん!」

ナルトの答えはすぐに返ってきた。

「白の兄ちゃんと再不斬見て そう思ったんだってばよ」


カカシの脳裏に、第7班で過ごした日々が過った。
あのときナルトが見せた笑顔は、眩しく ただただ純粋だった。太陽そのもののように、カカシの瞳に映っていた。

「お前達がナルトの最初の敵でよかった」

白の半身が鈍い音を立てて地に落ち、再不斬の首切り包丁は、カカシの血を吸ったことで完全なる刃を取り戻した。

「これは……」

その場に到着したシズクは、一目見てその状況を理解する。

「マキ、指示するまでオレの後ろで布縛りの術の準備をしておけ!」

「ハイ!」

微笑みはすぐに忍の顔へと戻り、腹部を横切る傷に構いもせず カカシは戦闘体制に入って再び雷切を放出する。
操り人形と化したの再不斬も、今度こそカカシを仕留めようと駆け出している。

「再不斬……お前はあの時 白を斬るのをためらった。お前の内心は白の死による動揺を隠しきれなかった……だが 今は違う!今のお前は感情のない道具ってやつだ。もう こんな戦いは無しにしよう!」

カカシは声をあげ、渾身の雷切を叩き込んだ。

「あのさあのさー カカシ先生ってばよ。じゃあコレってどう思う?」

「何が?」

「あいつら敵だったけど、なんかさ、なんかさ オレ、あいつら好きだった。これっておかしいかなぁ?」

「……!」

「わかる!私もっ!」

「フフ……いや オレもだよ」


間に割って入る者はもう居ない。カカシの雷切は再不斬の体を真っ直ぐに貫いた。
宿る思い出をその手に秘めながら。


「エンスイ縛れ!!」

カカシが遂に再不斬の影を踏み締めると、敵は硬直したかのように動きを止めた。

「オレにも忍として守るべきものが色々ある」

佇むカカシが、静かに怒りを奮わせる。
首切り斬り包丁から零れる血は 白の涙。
氷の鏡を伝う血は 再不斬の涙であった。

「再不斬と白 こいつらの死に様もその一つだ。こいつらの最後の敵はオレだったんだからな……」

ナルト お前はどう思う?
空を仰ぐカカシの気持ちが、シズクには痛いほど伝わった。
再不斬と白との出会いは、ナルトやサスケ、サクラにとって、起点だった。
彼らの最後の敵がカカシなら、彼らは第七班の下忍たちの、最初の敵だった。彼らから忍道という決意を知り、受け取ったのだ。
彼らの最期を無下にする術に、カカシは心中穏やかではなかった。

「マキ、やれ」

「はい!!」

布縛りで厳重に包まれたそれは まるで本物の遺体のようで。
マキが最後に封印の札を貼り終え、拘束は完了した。

「この札があるかぎり口寄せはできません。この二体は私が監視しておきます!」

再不斬が戦線から退けられたことにより、忍連合の陣地は視界がクリアになっていく。

「霧が晴れていく!」

「よし!これで敵を目視できるぞ!」

残された敵の形見・首切り包丁を手に取り、カカシはそれを宙に振りかざす。

「穢土転生 この術は許せない!サイ 次はお前の“根”の封印術を使う!オレに続け!」

「ですが……あの術はボクにはまだ」

「ダンゾウがお前を買っていたのは確かだろう!?もう感情を抑える必要はない!!」

狼狽えるサイに対し、カカシは珍しく語を荒くした。

「オレも熱くなるまで時間のかかるほうだが、今回は久しぶりに沸点が低かった。千の術をコピーしたコピー忍者のカカシ!これより通り名通り暴れる!!」


首切り包丁片手に踏み出したカカシの行く手を、仲間のシズクが遮る。

「ちょい待ち!暴れる前に応急処置を受けてください!」

「まだ動ける。今は穢土転生たちを止めるのが先だ」

「ダラダラ血流しながら次は誰捕まえるっていうんですか!」

シズクは素早くカカシの懐に回り込み、腹部の傷に手をかざした。治癒のチャクラによりカカシの傷の出血が止まり、次第に癒えていく。

「“忍刀”あと9人も全部自分でやるって言うんじゃないでしょうね?」

「……」

「隊長が先陣切ってくれるのはもうみんなわかってる。だから少しは部隊にも任せてよ。今度は私、補佐につきますからね」

シズクは鋭い眼差しでカカシの写輪眼を捉えた。
有無を言わせない目付きだが、その奥に彼女の、仲間の身を案じる心があることもカカシはわかっていた。これはサバイバル演習ではなく、生きるか死ぬかの戦場。それでも大事なことは変わらない。

「約束したでしょ?カカシ先生を守るって」

「……わかった。処置を頼むよ」

“医療忍者は決して小隊の中で最後まで死んではならない“

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