▼愚か者

夜明け間近。日の入りと同時に、他の受験生も動き出す時間だ。偵察の最中に 日向ネジは白んできた空を見上げた。
どうも今年のルーキーは世間知らずが多いようだった。つい先刻会ったゴキブリみたいな班もそうだ。見たところ山中、奈良、秋道一族の下忍のようだったが、名門の出身でも 鍛練を怠れば弱体化する。自分達の力量も推し量れず、のこのこ試験に出向いてきた愚か者だった。
後輩で相手になりそうなのは 精々うちはサスケぐらいだろうか。今回の試験中で手合わせする機会を密かに伺っている。

偵察もあと数十分で切り上げというところで、ネジは白眼で忍をひとり、見つけた。

「……!」

ぎこちない足取りで近付いてくる気配を ネジは木陰から待ち伏せした。白眼で観察した限りでは、その者はチャクラが乱れ、毒に侵された後のように衰弱している様子だった。
巻物は持っていない。戦闘に敗れた残党らしい。どの里のだれか程度は確認するか――しかし、残り40mを切った地点で、向こうは突如として姿を消した。

「!!」

鋭い目が光る。瞬身したくのいちは ネジの背後、偶然にも唯一の死角に入り、柔拳での反撃を逃れた。
ネジは振り返って受け身をとる。不覚にも背をとられたのだから少しは骨のある相手かもしれないと期待したものの、クナイを構えた右手は、容易に捕らえることが出来た。
目の前の額宛ては木ノ葉のそれ。さっきの下忍と同じく新人のひとりか。拳を振り切ろうとするくのいちを固定したまま、ネジは端的に言い放った。

「敗者を相手にしてるほど――――」

「なんだ」

話の途中で、くのいちが声を重ねてくる。

「てっきり…大蛇丸かと…思った」

大蛇丸?何の話だ。敵の区別もつかないほど憔悴していながら、くのいちはヘラリと力なく笑って、やおらネジのほうへと倒れ込んできた。

「!?」

数秒前の殺気立った眼孔はどこへやら、力が抜けたくのいちはそのまま崩れそうになり、ネジはとっさにその体を受け止めてしまった。短い髪がネジの肩に触れる。

「ごめん、なさい……ありがと……」

ゼエゼエと荒い呼吸の合間で なぜか礼を言うと、くのいちは体を元通りに起こして再び樹木伝いに進み出した。案の定、何メートルか先で地面に崩れる。しかしそれでも動きは止まらない。起伏の多い地面を這うようにして進もうとしていた。
ネジは女の行く手に腕を組み立ち塞がり、見下した。

「とんだ愚か者だな。それではヒルの餌食にしかならん。そもそも何故独りでこんなところにいる」

「仲間が…合流しなくちゃ」

「その仲間に見限られたとは思わないのか?」

「いかなきゃ……ナルトもサクラも…サスケも…きっとどこかで……しっかりしなきゃいけなかったのに…わたし…なにも 知らない ままで………」

譫言のように呟き、くのいちはまた動き出そうとしたが、再び倒れ込んだ。
現状を冷静に見極められない忍に、中忍試験どころか この先の未来はない。同じ里の忍だからといって、助ける義理もない。頭ではそう思っていても、点穴の位置はわかっていても、何故かネジはくのいちを仕留めることはできなかった。


*

「ちょっとネジ なにそれ」

開口一番、テンテンはネジの肩に担がれている人物を指差していった。連れてきた己の理解に苦しみ、ネジは素っ気なく返す。

「拾った」

「拾った!?」

待たされて不機嫌だったテンテンは、ネジの意外な笑い出す。

「私知ってる。その子、一期下の月浦シズクよ。問題児だってくのいちクラスじゃ結構有名だったの」

ネジは結局、シズクの“休止”の点穴をついて気を失わせただけだった。疲弊していたシズクにとっては、柔拳を受けてチャクラの流れがフリーズしたのは好都合で、いまはただぐっすり眠っている。

「で?巻物は?」

「……」

「ウソ、巻物も持ってないのに連れてきたの!?ますます珍しい〜ッ」

「コイツがうちはサスケと同じ班員のようだから、引き連れていれば接触しやすいと思っただけだ」

「ふーん…」

ネジが格下相手に人質をとって巻物交渉するタイプではないと、一年同じ班で過ごしたテンテンは気づいていたが、それ以上は口にしなかった。
集合場所に印したクナイに目を落とす。

「それにしても遅いわね〜ッ、リーったら。いつも時間だけは正確なのに。敵に出くわしたのかな。……まさか」

「まぁそれはないだろう。とりあえずリーを捜すぞ」

ネジはそう言い、シズクを肩に担いだまま移動を始めた。

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