▼非情な再会

戦いの幕は切って落とされた。
空に立ち昇る赤いのろしは奇襲部隊の合図。はたけカカシを隊長とした近中距離戦闘・第3部隊が奇襲部隊のもとに駆けつけると、敵が今まさに 連合の忍たち目掛けて突進している最中。
シズクはチャクラ刀の鯉口を切り、相手の刃物に沿わせた。
相手の隠し道具はクナイではなく、千本だった。

「……そんな」

相見えた敵の 霧隠れの額当てに長い黒髪。美しい顔立ちは数年を経て何も変わっていない。シズクは心臓が奇妙に揺れるような感覚をおぼえた。

「お久しぶりですね」

「白……!」

他でもない彼本人から その名を教えてもらったのだから、忘れるはずはない。

*

霧隠れの鬼人・桃地再不斬と拮抗し、カカシが握るクナイの先はカ小刻みに震えていた。

「戦う事になるのは分かってたが まさかお前だとはな カカシ」

二人の最後の対峙は 三年以上も前に遡る。
カカシ率いる第七班は、要人護衛の任で波の国に赴いた。しかし、現地で待ち受けていたのは新米下忍班には到底太刀打ちできない抜け忍の霧隠れの怪人・桃地再不斬と白。
死闘の果てに、現なると大橋の元で再不斬と白は息絶えた―――カカシはその瞬間を看取っていた。
だが彼らはカブトの穢土転生によって再びこの世の土を踏み、解放されたはずの戦いに身を投じている。
そして図ったように、最後の戦いの相手であるカカシの目の前に立ち塞がる。
これ偶然と言えようか。

「あの橋の上で お前らに止めてられてオレは地獄に行く筈だった。だが、気がつくと白と同じ場所に居た。おかしいとは思ったが ここはどうやら地獄でも天国でもないらしい」

「そうだ。ここは現実の世界……もうお前達の来る場所じゃないのさ」

カカシの背後に見知った顔を見つけ、再不斬はサクラに向けて声を発する。

「ほう あの時のカカシの部下か。小僧は元気にしてるか?」

「え!?ナルトのこと?う…うん」

「オレたちを負かしやがったんだ。今頃はでかくなりやがってるだろ?名前も」

「ああ」

カカシがサクラの代わりに頷いてみせる。

「あの橋はナルト大橋って名が付いたし、今じゃあいつは里の皆に英雄・奇跡の少年なんて呼ばれてるよ」

その名に懐かしさを覚えたのか、シズクと対峙していた白も小さく微笑んでいた。
そして チャクラ刀を扱う目前のシズクへ さらに瞳の弧を描いた。

「アナタも立派な忍になりましたね」

「あれから色々あったからね」

オレの里で一番の忍者になるため!みんなにオレの力を認めさせてやんだよ!

思えばあの波の国の任務は始まりであった。
忍の道理を知らない下忍たちに突き付けられた、世界の真実。
忍は道具。殺しの道具として白は散った。
しかし鬼人の心中では、白は無二の存在であった。
再不斬の死に際を目にし、忍とは その本当の強さとは何かを、下忍たちは問うたのだった。


「お前らのおかげでナルトは己の忍道を見つける事ができた。そしてそれをお前らの墓の前で誓ったんだ。あの時からブレない立派な忍に成長した」

「なら 彼はもっと強くなる」

穢土転生の忍が目を見開く。
再不斬の身体には般若の如きチャクラが取り巻いている。
危険を察知した第4部隊は奇襲部隊の隊員を抱えて後退。後方に控える忍者たちの中には、死者たちの覇気に身震いする者もいた。

「あ……あいつら!」

「間違いない!鬼人・桃地再不斬!そして氷遁の呪わしき雪一族の子!」

穢土転生の術が強化されているのか 再不斬たち死者は生前の力を取り戻していく。
忍連合側も異変を察知し、各々の武器を持つ手に力が入った。


「構えろ!」

隊長のカカシの声に隊員たちは陣を固める。

「気を抜くなよガイ。無音殺人術でこいつの右に出る者はない」

「ああ!」

完全に魂を束縛される前に、白もまた嘆願を口にした。

「お願いします もう一度私達を……止めて下さい」

「白!」

「ボクの夢は 再不斬さんの道具として彼を守り 死ぬ事だった。こうして再不斬さんもこの術にかけられているということは、あの時ボクがアナタから 再不斬さんを守りきれなかったということ」

白の瞳は深い悲しみに満ちていた。

「そしてまた 再不斬さんを守るどころか 今は再不斬さんの道具にもなれない」

「いや 君は再不斬を守った。彼が死んだのはもっと別の理由がある。それに……再不斬は君の事を道具だなんて思っちゃいなかった」

「そうだよ、白。再不斬はあなたを失って涙を流した。あなたのとなりで、寄り添うようにして逝ったの」

「……!!」

真相を告げられた白は、胸を詰まらせる。

「ナルトが再不斬の心の奥を浮き彫りにしたのさ」

「お前…ら………余計な事をベラベラと…」

「ホントに ホントにお前は何とも思わねーのかよォ!!?あいつはお前の為に命を捨てたんだぞ!!自分の夢もみれねーで道具として死ぬなんて、そんなの、」

「小僧…それ以上は…何も言うな……」


「フッ…あの時オレは、初めて負けた……」

「忍も人間だ……感情のない道具にはなれないのかもな。……オレの負けだ」

「カ…カシ……容赦するな。オレをどんな手を使っても止めろ…オレはもう死んだ……人間として死んだんだ」

「ああ 分かってるよ」

カカシは額当てを親指で押し上げて写輪眼を露にする。
白もまた 涙を拭い取って再び目を開いたときにはもう、瞳に光は宿っていなかった。
穢土転生とは、死者を操り人形とする術。聞く限りでは、亡者たちは身体が傷ついても再生して立ち上がり、何度でも傀儡となり戦い続けるという。
再不斬と白 彼らは忍が殺しの道具ではないと悟り去っていったというのに、その魂は安らかな眠りから引き摺り出され、今まさに道具と化している。

悲しい怒りを抱きながら、シズクは複雑な心境でもあった。

- 264 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -