▼愛する人を守るため

忍連合大連隊 その数八万。ひとつの意志の下に五大国中の忍が集まった。
しかし、集結の時点ではただの寄せ集め集団に他ならなかった。長きに渡る因縁により、忍たちは自里への帰属意識を払拭できずにいるのだ。装束や顔立ちの違いで相手を判断し、そちこちで口論が勃発している。
あちらでは 間近に迫る戦いに恐怖を募らせる者。こちらでは 相見えた他里へ憎しみをちらつかせる者。
シズクの周囲でも不安はそこかしこに募っていた。

士気の乱れを悟り このたび忍連合連隊長に就任した五代目風影・砂漠の我愛羅がいさかいの仲裁に入る。

「自国自里の利益のため 第一次から第三次の長きに渡り、忍はお互いを傷付け憎しみ合ってきた」

我愛羅は高みから、ゆっくりと 忍一人一人に話し掛けるように語り出した。

「その憎しみが力を欲し、オレが生まれた。かつてオレも憎しみであり、力であり人柱力であった。そしてこの世界と人間を憎み 滅ぼそうと考えた。今”暁”が成そうとしてる事と同じだ」


「自分の為だけに戦い自分だけを愛して生きる。この世でオレに生きている喜びを実感させてくれる…殺すべき他者が存在し続ける限り…オレの存在は消えない」


シズクは中忍試験当時の我愛羅を想起していた。八万の軍勢を統率する目の前の彼は、あの頃の少年とは別人のようだった。我愛羅は自らを悔い改め、今の彼に変わる努力を重ねたのだろう。額に刻まれた一文字の本当の意味を 彼は知ったのだ。

「そのオレを…木ノ葉の一人の忍が止めてくれた」

彼の人生を変えた出会い。
その人物こそがこの戦争で守る“玉”。

「その者は敵であるオレのために泣いてくれた!傷付けたオレを友と言ってくれた!!彼はオレを救った。敵同士だったが 彼はオレと同じ人柱力だった」

同じ痛みを理解し合った者同士わだかまりはない。あるのはただ”忍”。
胸に押し当てられた拳の男は静寂に響き渡った。
もしそれでも砂が許せないなら この戦争が終わった後にオレの首をはねればいい。我愛羅の言葉を聞き、小競り合いを起こしていた忍たちの顔つきが明らかに変わる。
我愛羅の心が皆の心を揺さぶり、隅々にまで伝染していく。

「オレを救ってくれた友を 今敵が狙っている。彼が敵に渡れば世界は終わる。オレは友を守りたい!そしてこの世界を守りたい。だが世界を守るにはオレは若すぎる 浅すぎる!だから皆の力を貸してくれ!!」


大義を謳う口上ではなく、ひとりの人としての懇願に、つんざくような歓声が沸き起こった。

「もちろんだ我愛羅様ァァ!!」

「オオオ!」

「我愛羅様…!」

「同意する者はオレに続け!!」


生まれ育った里の標ではなく 忍の一文字が刻まれた額あてが殊更強く仲間たちを結び付ける。
刃の下に心あり。
否、心に刃を乗せ 忍になる。
愛する人たちを守るため、忍大連合の忍たちはこのとき 志を一つに誓い合った。

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