▼未来に花束を
里の住民が起き出すまであと数時間 そんな時分。オレのもとにある知らせが入り、すぐにシズクと共に家を出だ。道途中に摘んでコスモスで慣れねェ花束をつくり、木ノ葉病院に向かう。
「ねえシカマル、戦争終わったら何がしたい?」
シズクの問いはいつも唐突だ。
「昼寝」
「えー」
「将棋」
「他には」
「読書」
「いつも指してるじゃん」
「いいだろ何だって。お前はどーなんだよ」
「私はねー サクラたちと新装開店の甘栗甘行きたいかな。あと、風雲姫の映画を見に行くでしょ。それから…温泉!温泉行きたい!」
「あー……温泉か。ちょっと足伸ばしてのんびり数日ってのはいいかもしんねェな」
「ほんと?じゃあ行こうよ!みんなで慰安旅行」
「……いや……まあ、お前が賑やかに行きてーんならそれでもいいけどよ」
せっかくだし二人っきりでもっつー意味だったってのに。この鈍感。ナルトたちと騒々しく風呂なんてもう勘弁だぜ。まあ、親父や母ちゃんと四人で行くのは悪くねェかもな。親孝行ってのもたまには必要だ。
明け方なのもあって、他の奴らはまだ木ノ葉病院に到着してなかった。
病室の扉を開ける。光は夜から朝の色に変わり、室内を そこに眠る二人の寝顔を照らしていた。
「さっき眠りについたって 担当の先生が」
「起こしちゃ悪ィし改めるか」
「顔だけでも見てこうよ」
「そうだな」
そうだよな。せっかく予定日より早く オレらがまだ里に居る日に生まれてきてくれたんだし。
眠りを妨げないよう 会話は小声で。オレとシズクはベッドに忍び足で近づいた。紅先生の横顔は穏やかで、産後の疲れはあんまり感じさせねェな。
その隣に、その子はいた。
やわらかそうな黒髪。握りしめた小せえ掌。すうすうと、胸のあたりが上下している。
ほんとに小せえんだな 触れたら壊れちまいそうだ。
「わあ……、」
シズクがそう、オレの袖を掴むのもよく分かる。言葉にならねえ感情だ。
「目元んとこ、アスマそっくりだな」
「紅先生にも似てるね」
「お、動いた」
赤ん坊は足を何度かばたつかせて、また深い眠りについた。その些細な動作ひとつで 胸のあたりをあったけェもんが満たすようだった。オレは親じゃねーけど、コイツのためなら何だってやってやりてえと、心からそう思えた。
アスマと紅先生の子は、女の子。
きっと紅先生みたいな美人に育つだろう。本人が望むなら、猿飛一族だし 優秀な忍になるだろうな。
言葉を話すようになったら、それこそ限りなく、話そう。
オレの師匠のこと。
お前の父親のこと。
でかくて、逞しくて、しょっちゅう煙草をふかしていて、将棋はてんでダメで。おおらかでカッコいい忍だったことを。
お前が生まれるのを あの人も、誰しもが、ずっと待ち望んでたと。
「やっと会えたな…… ミライ」
未来。
それがお前に託された名前だ。
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