▼七色の橋を渡り、家路につく

雨ばかり降るこの里は弱虫だと、昔 弥彦は言っていた。
薄暗い灰色の世界で、彼はまるでおひさまのようだった。彼を失って もう二度と出会えないと思っていた。
同じ光を、私は見つけた。

ひらりひらり。
常にこの身を覆っていた神の使者の術が解け、生身の体が姿を現す。私の持ちうる術の全てを使い果たした。

「これでマダラは……確実に…」

「死んだかな?」

「!?」

腹部に激痛が走りほどなくして口に血が溢れてきた。マダラに背後から刺された。生身に戻ったのが禍したのだ。

「どうして……確実に死んだはず。何度もシミュレーションして この手順ならアナタを倒せたはずなのに」

「イザナギだ。光を失う事と引き換えに幻と現実を繋げる事のできるうちはの禁術」

うちはと千手と雨月の両方の力を持つ者だけが許される瞳術だてマダラは言い切る。

「うちはと千手…両方の力……?…それは…六道の力…アナタにはそんな力は……」

イザナギ。マダラはまるで無知の稚児に話して聞かせるように語り出す。精神エネルギーを元とする陰遁の力。無から形を造り生命を司る身体エネルギーを元とする陽遁の力。

「アナタは…一体何者……なの…?」

六道は長門の秘めしこの里の宝。そう信じてやまなかった。しかし、私たちはこの男の手中で踊らされていたのだ。この男が長門に声をかけた瞬間から怪しいとは思っていたが、まさかこのような終局を迎えるとは。
二人目の六道にして今は唯一の存在。マダラは嬉々として高らかに宣言した。

「くっ……!」

もはや視界は朦朧とし、足取りも不確かだ。僅かな力を振り絞ってマダラの刃から自身の身を引き抜いて解放する。

「そろそろ長門に会えそうだな。向こうに行ったら二人で後悔するといい。ナルトの戯れ言に乗せられた事を」

傷口から、口内から血がどっと吹き出す。体が冷たくなってきているのがわかる。

「本当の平和など無い。希望など有りはしない!長門はナルトを信じる事で哀れだった自分を慰めたかっただけだ」

雨ばかり降る泣き虫な里。
最後に瞳に映る光景も 遠く煙る町並みだと思っていた。
しかし、ふ、とぼやけた視界が明るくなっていく。

「!」

あれはまさか。

「長門は……あいつは平和への懸け橋になる男だ。オレの役目はその橋を支える柱になる事だ」

「平和への懸け橋は彼だよ。彼の意志そのものがね」

まっすぐで歪みのない光。

「オレの役目はここまでのようだ…ナルト…シズク…お前だったら…本当に」


「止む事のない雨隠れの雨が……どういう事だ」

弥彦、長門、見えている?

空が泣き止んだわ。

まだ終わっていない。
暁は七色の橋を照らし始めたのだから。
私は両手を空にかざし、再び力を込めた。

「弥彦 長門 彼らの意志は消えない!私もナルトを信じてる!今度は彼が平和の懸け橋になる男だと!!そして私はそのための柱となる!!」


ありがとう長門 死して尚 私に希望を見せてくれて。
今、私は二人の意思を受け継ぐ者たちへと繋ごう。


「……私、彼やあなたたちの育った場所を見てみたい。もし叶うなら、力になりたい」

「待っている」

待っていると約束したのだから。
随分長いことかかったが、私もようやく、四人で暮らしたあの家に帰れる。

お帰りなさい。


ただいま。


「あっ」

「?どーしたよ、急に立ち止まって」

「あれ?見間違いかな。向こうに虹が見えた気がして」

「どこだよ?見えねーけど」

「西のほう」

木ノ葉隠れの里では、長門の娘 シズクが、空を見上げていた。

*

花は枯れた。オレがやった。全て。オレは闇であろうと何であろうと構わないが、七色に輝く虹の懸け橋とやらは月の世界に必要ない。闇の中に消した。

「ここか」

神殿の周囲には無数の花が飾られていた。その中央に輪廻眼がいる。生前接触した長門とは随分形相が変わっていた。若かりし長門の鮮やかな赤髪は失われていた。うずまき一族末裔の証である赤い髪が白に変色するほど力を使い、死んだ、三人目の六道。
しかし穏やかな顔つきはあのときのままだった。

「裏切ってなおオレを笑うか」

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