▼かつては太陽の名前

写輪眼を囲う右半分はおよそ人と思えぬ容貌ゆえ、シズクは目を見開き、オレの顔を凝視していた。

「カカシに聞いていないようだな。その昔 オレは木ノ葉隠れでカカシとスリーマンセルを組んでいた」

「え……!?」

「うちは一族ではないカカシがなぜ写輪眼を宿しているのか 考えたことはなかったのか?あの眼こそこのオレが与えたものだよ」

「!!」

「カカシはお前やナルトにはいい顔をしてるだろうが、奴はその昔、小隊の仲間を自らの手にかけた」

情に脆く他を切り捨てられない小娘よ。お前に最後の話してやろう、オレの人生についてを。オレの師・四代目火影の無力を。お前の師・はたけカカシの過去を。そしてオレが最も大切に想っていた人物のことを。
全ての境となった、あの呪われた日を。

「うちはオビト。それがオレの捨てた名だ。仲間が仲間の手で殺められたあの日から、それまでのオレの夢は塵と化した。戦争のない平和な未来を築くため、仲間を守るため火影になりたいという夢がな」

長門と同じく感化されやすい小娘だ。やはり脆い。
膝をつき、瞳はいままでのような困惑へと一変させている。

「火影に憧れた?」

「そうだ。お前たちが全服の信頼を寄せる、うずまきナルトのようにな」

「……」

「オレとナルトは似ている。そしてオレは、ナルトの将来の姿でもあるのだ!長門は歩む道をオレと同じ方向へ切り替えた。ナルトが同じ轍を辿らないとそう断言出来るか?ナルトが長門やオレと同じ道を歩むとは思わないか?その時世界は反転するぞ」

月に投影する大幻術・無限月読。
地上に存在する全ての人間は幻術の中でコントロールされ、世界は一つになる。
月の眼計画を、この娘に説いてやった。

さあ。この手を取れ。

「この世は愛憎渦巻く地獄。真の平和などありはしない。ならば理想の世界で望みを叶えればいい。さあ、今のうちにお前もこちらへ来い。オレの創りし世界にはお前の肉親も育ての親も、誰もがそばにいる」

堕ちる。
そう確信した刹那、彼女の口元は緩かに弧を描いた。オレに投げられた眼差しは降伏した者の目ではなかった。

「……もしもあなたが生きてることを知ったら、カカシ先生はきっとあなたに怒るだろうなぁ」


シズクは足にぐっと力を込めて立ち上がった。

「私はあなたの言いなりにはならない。ねえ、あなたの帰りを待っている人がいたのに、どうして里へ戻らなかったの……オビト」

己の眼を見開いた。
シズクが自分の以前の名を呼び そしてこちらに踏み出し、ゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。
この写輪眼を恐れぬのか 両の目でしっかりとオレを捉えながら。

「たしかにあなたはナルトに似てるかもしれない。でも今あなたが違う道にいるのは、引き留めてくれる人が居なかったからなんだね。……その計画は救済にはならない。ほんとうに世界が変わるわけじゃない」

「わかったような口ぶりだな。お前たちは仮初めの正義に立ち、自分たちに都合のいい平和にしがみついているだけだ。これからオレはサスケとダンゾウを引き合わせる。サスケは間違いなくダンゾウを殺す それがまごうことなき現実だ」

「サスケを手駒にしてまた戦いを起こすつもり?」

「そうだ。仮初めの平和を終わらせるための戦争をな」

「仮初め……それは、今はまだ、仮初めかもしれない。何も解決出来てないし、忍界の因果は深すぎる。でも……いつまでかかるかわからないけど、その絡まった紐を解いてみせるって、ナルトはそう言った。ナルトは諦めない。挫けそうになっても、みんながあいつのことを 隣でちゃんと見てるから」

体の芯がぐらりと揺さぶられるような感覚に思わず身震いした。
その言葉は、その眼差しは。
この小娘、カカシからリンのことを伝え聞いていない筈。なのになぜリンと全く同じ言葉を唱える。

「強がって傷を隠してもダメ……ちゃんと見てんだから」


この手を握ったぬくもりを 何故今になって思い出す。




「……お前に最後の話をしたのは 間違いだった」

この小娘もまた、生温い木ノ葉の忍。本当の地獄を味合わなければ気が済まないのか。
ならば教えてやろう。忍の世界に太陽などありはしない。夢を与え続ける赤い月だけ。

「オレに手を貸さないなら力を奪うまでだ。ゼツ、その小娘を肉体ごと吸収しろ」

「!?」

現れたゼツによって背後から体を羽交い締めにされ、人の形をした人ではない生き物に、シズクは息を飲む。

「残念だけどそれはできないみたいだよ。この子、分身だ」

「……ほう?特殊分身か」

このオレを騙していたとは、大した小娘だ。

「ならば小娘が分身を解く前にこの場の記憶を消しておけ。必要のない話だからな」

「は〜い」

オレは再び仮面で素顔を覆い、マダラを演じる。
せいぜい余生を楽しめ。
お前と次に会うのは戦場だ。

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