▼君のいる世界をもう一度

カカシ達がいる中で告げても構わなかったが、輪廻眼を突然変異と抜かす輩に話の腰を折られるのも煩わしい。
まだ話は終わっていない。
喧騒も何も無い神威間には、雨月シズクが腕を組み、半ば仁王立ちしている。表情は苛立ちといったものに近かった。ここに連れて来られてその眼に動揺の色を見せないとは、なかなか大した娘だ。

「やけにご立腹だな」

「私だけ引き離して何の用?アンタは本当にマダラなの?」

「オレが何者かはさほど問題じゃない」

彼女が勘繰っている通りだ。オレはうちはマダラではない。
しかしマダラと名乗っても誰も完全に否定しえないのだ。彼ほどの忍なら生き永らえても復活しても不自然ではない。
その上に、オレはとうの昔に 自分という存在を捨てた身だ。

「それよりお前に別のことを教えてやろう。お前自身のことについて」

「……」

こちらを睨み続けていた雨月シズクの目つきが、僅かに緩んだ。
カカシ達四人の中で、オレが教えたイタチの真実について最も肯定感を示していたのは彼女だけ。イタチから何か吹聴されていたのか、オレの情報が机上の空想だと決めつけられなくなっているのだろう。

「私は雨月の子孫で、アンタが長門を利用した。それ以上に聞くべきことがあるの」

「ああ、大有りだ。お前は内心恐れているだろうが、その目が輪廻眼を開眼することはない。生涯絶対にな」

「……!?」

彼女の顔が一瞬にして驚愕に包まれた。大方、長門や小南が事実と盲信している内容を鵜呑みにしてきたのだろう。

「でもあの人は、いずれ私が輪廻眼を開眼するって言ってた」

「それは長門の思い込みだ。長門は輪廻眼の正統な所有者ではない。奴の目は かつてオレが秘密裏に移植したものだ。無論、本人にも周囲にも気付かれずにな」

「移植!?」

「雨隠れの奴等は真実もしらず、長門の眼は神から遣わされた宝だと自負していたな。哀れなものだ」

刀を再び構えた雨月シズクの目には涙が伝っていた。オレの首を落とすため刀を振りかざす行為も、ことさら虚しく思える。

「無意味だ。何度やっても学ばない」

「…ッ……よくも……!!人でなし!!」

そうだ オレは人ではない。
あの任務でオレは半身を失い、リンの死で、人の心を捨てた。形骸化したこの体は新しい世界を構築するためだけに存在するもの。オレがどんな存在かなど、真の世界では何も意味を成さない。

「輪廻眼は突然変異などではなく、ある条件下で発動する力だ。長門はその条件を満たしていただけに過ぎない。長門の血を継ぐお前にも、可能ではあるがな」

思い返せば、数奇な運命下にある彼女は、長門同様、忍界に巣食う憎しみの皺寄せに生まれたようなものだ。
万華鏡写輪眼の先にある輪廻眼。発動には千手、うちは、雨月のチャクラの全てを兼ねることにある。
うずまき一族の末裔である長門には、そもそも千手の要素があった。そして運命の巡り合わせか、その隣には雨月一族の生き残りがいた。
雨月一族の用いた治癒の力は言わば、己のチャクラを相手の体内に送ること。雨月の遺伝子は相手のチャクラの一部に変換された形で永劫とどまり続ける。長門が雨月の末裔に治療を施されたことによって、全てが完璧になったのだ。

雨月シズクは雨月一族の末裔であり、千手に近しいうずまき一族の血も混じっている。
彼女の白炎はうちは一族の黒炎を打ち消すこともできる。この器に輪廻眼をはめ込めば、新たな六道を作り出せ、オレの保険にも成りうる。

この娘はオレにも必要な資材。
真の輪廻眼の使い手になるために小娘のチャクラか肉体の一部を獲得するだけで良い。

この娘を踏み台に、オレはリンが存在する世界をもう一度創るのだ。


しかし引き入れるとはいえ、長門を利用されたと知った雨月シズクがオレに素直に従うことはまずあり得ないだろう。
この娘にもまた、千手の火の意志が根付いている。そして浅はかにも、長門の長年の行いすら覆してしまう夢だの理想だのを抱いている。

その考えの甘さと愚かさを利用させてもらおう。


「お前に語る真実はもう一つある。それは――」

オレは片手で面に触れ、それまでひた隠し通していた素顔を、小娘の前に晒した。

「――かつてのオレについてだ」

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