▼シカクの助言

むかしむかし、千手柱間とうちはマダラの両名が手を取り、木ノ葉の里を創設した。
雨月一族のシズクもまた、それに加わった。うちはマダラの里抜けを期に彼女も木ノ葉を離れると、隣の小国で出会った者と添い遂げ、その地で密かに人生を終えた。
彼女の一人娘は雨隠れの里で長門という忍と廻り会い、彼との間に産まれた赤ん坊を木ノ葉へと送り出した。赤子は木ノ葉のくの一に育てられ、さらに夢は引き継がれていく。
そうして月浦シズクはここにいる。
この里に居続けるために、シズクはナルトたちの手を借りたのだった。

封印の術式を結んだのち、シズクの身体機能は瞬く間に蘇生した。
肌は滑らかになり、髪が元の色にまで染まりきると、シズクはそのまま意識を失った。緊張が途切れたのだろう。
シズクをおぶり、シカマルが医療班のテントへ行き着いたときのことだった。外套を来たシカクがシカマルのもとに瞬身してきたのは。

「親父」

「俺ァ少しの間留守にする。大名方に呼び出されてるんでな」

「緊急召集ってやつか」

上忍班長の父が首都に召集される理由を、シカマルもそれとなく推測できていた。里長が眠り続けていては、木ノ葉の今後もよるべない。暫定的にあらたな影を立てるための会議が開かれるのだ。

「こういうときは悪いことが重なる。五代目の意識が戻らん内に情勢が荒れるかもな」

先を見据えるシカクには、シズクの保身も憂いのひとつだ。
木ノ葉を襲い壊滅的被害を与えた忍――それがどこの国の者なのかを、大名が詰問しないわけがない。その者の遺志を継ぐ忍がいるかについても当然追及するだろう。
幸いシズクとペインの関係は、シカクやシカマル、同期の仲間たちとごく一部の人間しか知らないが、真実が表立って里の民に知れ渡れば、シズクを引き金に里内で混乱が生じるかもしれない。

「シカマル、お前はシズクのそばから離れるな。どんなに重くても好きな女の涙は抱えてやれよ」

「……んなこと判ってるっての」

シカマルの背ですやすやと寝息をたてるシズクを見、シカクは少し困惑気味のシカマルの肩を叩き、里を離れたのだった。


ペイン襲撃から数日。
五大国の均衡を保つためにも 里の復旧作業と里外任務は平行して行われている。
民家の修繕を手伝いながら、シカマルは父と交わした会話について考えていた。綱手の後任問題もあるし、今回の大名との会談はそうそう簡単に行くわけないだろう――そう考えていた矢先、シカマルの上空には一羽の式が飛んできた。
シカクからの急ぎの文を見、シカマルは「マジかよ」と思わず呟いた。

*

医療班の仮設テントでは忍たちが忙しく動き回り、怪我人の治療に当たっている。
シズクは重症の忍の治療を受け持ち、掌仙術で内臓の損傷を回復させていた。

「痛みはどうですか?」

「ありがとう。すっかり引いたよ」

「よかった。今週は安静にしてくださいね」

男の忍は嬉しそうな笑顔を見せ、動けるようになったらすぐにでも復興の手伝いをしたいと話して帰っていった。

シズクの元にシカマルが訪ねてきたのは、それからすぐのこと。

「シズクいるか」

「シカマル!どうしたの?」

「急用だ。今すぐ影分身とこの場を変わって本体はオレについてこい」

「何かあったの?」

「話は後だ。急げ」

シカマルはシズクの腕を引っ張ると、足早にテントの陰に連れ出した。

「ねぇ 何が、」

「親父から連絡があった。後任の火影がダンゾウってヤツに決まった」

「ダンゾウが火影!?」

「もっとひどいニュースもあるぜ」

やや躊躇しながらも、シカマルはありのままを伝えた。

「今回の襲撃の暗躍者として お前にゃ捕獲命令が出された。直にダンゾウの手下が来る」

「…!」

シカマルの言葉に、シズクはぴたりと足を止める。

「それがあたらしい火影の方針なんだね」

「だろうな。だがそう思い通りにゃさせねェよ」

シカマルは小さく呟き、シズクの手を引いて強引にその場を離れた。


奈良家の森。里の外周に広がるこの森は、中心部を根こそぎひっくり返した被害を免れたために、いつも変わらずに穏やかな緑が広がっている。
森には奈良一族しか把握していない幾つかの薬草の倉庫があり、さらに隠し戸で地下へと繋がっている。シカマルはそこを一時的な避難場所とするべく、シズクを連れてきた。

「多少の時間は稼げんだろ。こっちも急ぎ策を講じねーとな」

「シカマル、私 ダンゾウに会いにいくよ」

「は?」

薄暗い地下の室内で、蝋燭の明かりで半分照らされたシカマルは険しい表情を見せた。

「何バカ言ってんだ。一番危ねェ橋だろ、それ。テントに残した影分身体に何も反応がねェうちに闇雲に動く訳にはいかねえ」

「でもここに長くはいられない。ダンゾウの部下が私の行方を炙り出そうと誰かに接触するかもしれない。前にそうしたように。私がシカマルと親しいことも奴は掌握してる」

「火影になるっつっても、ダンゾウには信任投票が控えてんだろ。里の民相手にンな横暴はしねェはずだ」

「あいつは忍世界の闇だよ。人の弱みを決して見逃さない。忍の失踪事件の一つや二つ、混乱に乗じて簡単に握り潰せる」

「んなこと言ってノコノコ現れたらそれこそお前に命は無ェだろうよ」

「判ってる。でもいつかは対峙しなくちゃいけない。あのね 以前ダンゾウと鉢合わせしたとき、私は無意識にチャクラ刀を握り締めてた。由楽さんを殺した張本人が憎くて憎くて仕方なかった」

「……」

「でもナルトは、自分の仇を前にして仇討ちよりも木ノ葉の未来を選んだ。ナルトがどうして強いのかあのとき判った気がした。私も仲間と同じでありたいの。ダンゾウと直接話して、真意を確かめ合いたい」

シズクが自らの誇りに従うなら、今すぐ里の中心に赴き、帰還したダンゾウと対面することを選ぶ。
自らの命を優先するならば、いま里に留まることは叶わない。里を密かに抜けたら、それこそダンゾウの発言が真実となる恐れがある。
もはや選択の余地もなく、シズクの選択次第だった。

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