▼雨が降る

指先に触れた紙は自我を持ち、瞬く間に一枚の切れ端から白き花へ変わる。紙片の先は人の皮膚を裂きもするが、わずかな水分を含めば絹のようにやわらかく、本物の花びらのようになめらかで。

それを供えて次の花を編む。


外は雨が降っている。

雨を操る神様はもういない。でも長門はここにいる。私達は三人で雨隠れの里に帰ってきた。


神聖な間として、あらかじめ用意していた塔の最上階の祭壇。床には里の宝、輪廻眼の波紋が描かれている。ここを墓に決めた。
二人の体を寝かせ、私はもう一つ棺を運んできた。チセを長門の隣に埋葬するために。


「わっ!すごい、紙が動いてる…!長門、これはなんという忍術ですか?」


はじめて会ったとき、彼女は私の式紙の術を見て長門に問うていた。
記憶を編み込むように花弁を開かせていく。この花はチセのそばに。



記憶に指を取られて、やがて花を編む手は止まる。
弥彦の遺体に目をやる。脳裏に遠く霞む幼い彼の姿は、ぼやけて曖昧になればなる程鮮やかになる。素直で時折わがままな性格が尚更愛しい。

長門の最期をあの日の奇跡を、弥彦は見ていただろうか。



新しい私達の里。
私は傘がなくてもいい。いつか私の命も尽きる。もう痛みを重ねなくとももう一度彼らに会える。

それまで私は二人を守り、そして待っている。
覚えているだろうか、私たちが育ったあの家で、お祝いしようと誓った。弥彦と長門、私と。自来也先生も呼ばなくてはと笑い合ったこと。
もう少し待っていて。
役目を果たしたら私もそちらへ帰る。
涙の故郷へ。


この雨の向こうには見たこともない世界が広がってると、あの頃、自来也先生が言っていた。

本当だった。

やがて来る最後の戦いを乗り越えて、私達の新しい道しるべを待とう。後は信じればいい。



夜明けにはもう雨は小降りになる。

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