▼みんなで半分こ

「ねえ 敵はどんなだった?」

こどもたちの問いに、ナルトはなんて答えたんだろう。
私はあの人のこと、敵ともお父さんとも、呼べなかったな。

*
シカマルは家の瓦礫を慎重に退かして何かを探し続けていた。愚痴ひとつ溢さずに。
口癖のめんどくせーが減ったのは、三年前 サスケの奪還任務のときから。アスマ先生の一件から、それはますます姿を消した。シカマルは優しいし、当たり前に臆する心も持っているし、大変じゃないことを好む。けど、変わった。大人になると決めたのだ。
それなのに、私はこどものまま。
長門の術を半分抱えたとき、目の前の彼が弱っていくのを見守りながら、自分自身にもその衰えが訪れるのを感じた。髪は真っ白。経絡系が絶望的に損傷し、チャクラの流れが滞ってしまった。

「私、牢に入るよ」

「……」

「ナルトがあの人を説得しなかったら、みんな死んだままだった。もっと被害が出てた。たとえ操られてても、シカマルやみんなを傷つけた事実はかわらない。償いきれないけど 罪と向き合うよ」

シカマルは相槌を打たなかった。こういうときに黙る癖は、変わんないな。カカシ先生と一緒にナルトと私を迎えに来たときすら、何一つ問い質さなかったし。
もう少ししたら、ここを離れて 皆の元へ行こう。洗いざらい打ち明けよう。

――ガシャァン!

不意に大きな音がして、シカマルの姿が砂煙に消えた。

「シカマル!?」

慌てた私は咄嗟に足に力を入れ、立ち上がろうとしたが、すぐにバランスを崩して頭から転んだ。

「あいたっ」

「バーカ」

正面には彼がしゃがみこんでいて、笑いながら私の皺だらけの手を取り、起き上がらせる。

「び、びっくりさせないでよ」

「責任転嫁すんな」

「でも、……!」

つい意地を張ってしまいそうになったけど、自分の手にシカマルの指とは違う何かが触れたことに気付いて、言葉が途切れる。
握らされたのは、すっかりボロボロになった巻物。
由楽さんが私のチャクラを抑圧するために使った術式だ。アスマ先生が長年持っていて、鬼哭事件で所在がわかって以来はシカマルに託していたもの。

「これってまさか……私の“封印の鍵”の巻物……?」

「見つかんねーかと思って焦ったぜ」

シカマルはさっきから この封印の巻物を探してたんだ。
たしかにこの封印を解けば、リミッターが外れ、膨大な量のチャクラが溢れ出す。老人のようになったこの体も元に戻るだろうし、私は以前のように、忍の力を使えるまでに回復するかもしれない。

「封印解けよ。そしたら元通りだろ」

「……無理だよ。その九字解印は、九人でいっせいに印を組まなきゃ解けない仕組みになってるんだよ」

「それがどーした」

「いまの私に……協力してくれる人なんていないよ」

「そう言うと思ったぜ。だからもう呼んである」

「え?」

クイ。シカマルが親指を向けた先には、仲間の姿があった。

「シズク!待たせて悪いっばよ!」

「アンタが遅刻の原因でしょ ナルト!あとキバも!」

「オレの新術を聞きてえって列ができてんだぜ?そりゃしょうがねえだろ」

「キバ あまり尾ひれを付けるものではない。何故なら皆はナルトのことをお前に聞きたがっていただけに過ぎない」

「てめーシノ!みなまで言うなよ!」

ナルト、サクラ、サイ。キバにシノ、後ろにはいのとチョウジ君に、そしてヒナタ。

「……どうして?」

「ナルトから聞いたよ。シズクのこと。あと“封印の鍵”のことはシカマルからね」 

「詳しい話はアンタが治ったら直接聞くからね。封印解いた後に!」

「チョウジ君、いの」

「私ももう平気だよ。シズクちゃん」

「……ヒナタ……みんな……」

「これで九人だな」

シカマルはしゅるるる、と巻物の紐を解いて、私に手渡した。

「償いてェならエンスイさんたちんとこに謝りに回りゃきゃいい。そんだけだろ」

さっきの砂埃か、シカマルの鼻は煤で黒く汚れていた。

「オレだって全部は抱えてやれねェよ。めんどくせーし。だからお前も考えろよな」

かさついた紙を伸ばし、墨で描かれた術式の中央に私は右手で触れた。
指先のあたり、ざらついた表面に書かれた文字が明るい光を放ち始める。

力が戻ったら戦いの日々に明け暮れるかもしれない。でも逃げるのは今日でやめると、決めるんだ。理想通りにいかなくても、罪のない人間になれなくても、過去も今もひっくるめて 私は私になりたい。
忍として、またこの里に生きたい。

あなたたちは私に立てと、生きろと言う。

臆病な私は道に迷い志すらなくしてしまった。
でも、みんなの声がする。ぶっきらぼうな笑顔が、眉を寄せて怒る顔が、優しい笑顔が、ぜんぶが私を歩かせる。
こんなにつらいのに、この人たちを愛してる。

治ったら、いつものようにバカにしてね。そしたら私は泣き止んで、大切な人たちを守るから。


「封印解除」

私の涙は零れ、土に消えていった。

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