▼by my side

ナルトが何度となく胴上げをされている最中、シズクがオレの背中を引っ張った。俯いていて顔は見えなかったが。

―――シカマル、うちに帰りたい。

オレには掠れた声が、このにぎやかな場から離れたところに行きたい、ここから逃げたい と言ってるように聞こえた。

*

里のだだ広い中心部、剥き出しの地面にありったけの布を敷き、怪我人のための緊急時用のテントが張られていく。夜が暮れてく。
照らされる里の姿はねェけれど、こんな日でも月はいつも通りなんだな。

オレはシズクをおぶり、中心部を離れていく。足はやや痛むが歩ける。この治療も シズクが五代目の蛞蝓様で間接的に施した。

人は治しておきながら、シズク自身はひでェ有り様だった。
カカシ先生と一緒に、ナルトとシズクを迎えに出、二人を発見したとき。呼吸が止まるかと思った。こいつが老人みてえに真っ白になってて、顔は痩け、ひどく窶れてたから。
憔悴しきったシズクに何があったのか問い質すこともできず、黙って足を進めて。本来なら今も、こいつをすぐさま救急医療のテントに連れていったほうがいいんじゃねえかと――――……くそ。何でオレがショック受けてんだよ。しっかりしやがれ。

砂利と瓦礫を静かに踏みしめる。
いったい自分がどこを歩いてんのか、不思議とわかる。今、アカデミーを通り過ぎたな。看板がぐねりと曲がって土に隠れていた。しばらく歩いた。里の端っこの森を守るためのオレの一族の、オレんち。脇にあった離れがシズクの住まい。
良し、奈良家は中心部からかなり離れてて、すっからかんになくなったわけじゃねェらしい。
ここらか。
目星をつけて、瓦礫をどかす。うまく力が入らねェな。仕方ねえか 今日はいろいろありすぎた。
汗をにじませて残骸を退かして、細かな破片のあいまを見逃さないよう入念に探る。土埃を息ではらい丁寧に指でなぜると、だんだんくっきりしだした。ボロボロになって、少し破れているが。

「あったぞ」

切れ端をシズクに手渡す。口を大きくあけて笑うシズクの育ての親と、おなじく笑うちいさなシズク。

「………由楽さん…」


シカマルありがとう
呟いて、シズクは写真を胸にあてた。握り締める強さはもう ねェ。その場にへたりと座り込んでいる。
オレも、部屋にゃくだらねえもんばかりだったけど、写真位見つけてえな。できたら第十班で撮ったヤツ。形に縋るわけではないが、無性に会いたかった。アスマ先生とオレたちが写ってる写真見たらまた、しっかりしなくてはと思える気がして。
なぁセンセイ、オレは怖えよ。
誰かを支えるほど強くねえよ。


白にかわったシズクの髪が 月に照らされてた。
ぼんやり明るい月の下、まるで小雨が降りだす瞬間のように、音もなくシズクの瞳から涙が流れ落ちた。
里を救ったのはナルトだった。
あいつがいなきゃ、カカシ先生やシズネ先輩は死んじまったまま。オレたちも殺されてたかもしれねェ。そのあとに続くのは血みどろの戦争だ。
オレたちじゃあ、きっと出来なかった。
ナルトは英雄だ。
じゃあシズクは何者だ?

シズクは本当にペインの娘だった。
木ノ葉の里の皆はら今まで通りコイツに接することが出来んのか?無意識のうちに、事実が浮き出ちまうんじゃねえか。それに最も耐えられなくなるのは、シズク自身だろう。

自分の両親を見つけて、会いに行く。自分が捨てられた真実を直接本人たちから聞き、和解する。それがきっと、コイツの密かな夢だった。一緒に暮らしてェという願望だってあった筈だ。
それが散り散りに潰えた。今後叶うことはない。
願望に、代わりはつとまらねェ。

これが現実。
でもよ、それを誰が判ったってんだ。

よくよく考えりゃお前と出会ったことも、こうして今一緒に居ることだってよ。

いくらでもやり直せんだろ。
何もかも変わっちまう前にオレは切り札を出す。
お前がオレに言った言葉、忘れたとは言わせねェよ。

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