▼夢のような人
「外道・輪廻天生の術」
「長門……アナタ!!」
「小南 もういい。オレに新たな選択肢ができた…諦めていた選択肢が」
長門がチャクラを術に変換し始めた。
カツユ様の無数の分裂体と繋がっている今、私には木ノ葉の里で何が起きているのかが、感知できる。
空を飛び交う螢のような光、それらが向かうは 元の場所。
無数の魂が体に帰っていく。
「そんな まさか!」
「何だ?何の術だってばよ!?」
「輪廻眼を持つ者はペイン六人全ての術を扱え、生と死の存在する世界の外に居ると言われている。長門の瞳力は生死を司る術、七人目のペイン。外道」
私は装置を踏み台にして、長門の真っ正面に向き合った。
術はすでに発動している。決して止まることはできない。
私は歯を食い縛り涙を堪えた。
そして、印で結ばれた長門の両手に自分の両手を重ねた。はじめて、その手に触れた。父親の手とは、大きくてごつごつとして、力強いものだと思っていた。その予想に反して、この手はあまりにほそく、弱く、固く、繊細だった。
そして、微かに暖かかった。
「シズク!いけない 離れろ!」
「今さら命令しないで……うぅっ!」
体の奥からチャクラが引きずり出されるような感覚に陥る。私の意図を察知しても、長門は印を解くことはできない。
私が長門の娘で、彼がその半分の血で私を支配していたのなら、彼のチャクラに私のチャクラを組み込むことは不可能じゃない。
長門の赤い髪が白髪に変わり、人体も干からびた屍のように変わった。私も、自分の体がみるみるうちに憔悴していくのを感じる。
「オレを……憎んでいるか」
「……もちろん」
違う未来があったらと これからも絶えず願うでしょう。
それでもずっと待っていてくれた。
憎しみに押し潰されてしまう前に触れられたんだから。
長門は私の目を見つめ、すまなかったと、私だけに聞こえるような声で囁いた。
「何だってばよ?何が起こったんだってばよ!?」
「里の人達がどんどん生き返ってます」
「!?それって……!」
「木ノ葉へ来て殺めた者達ならまだ間に合う これがせめてもの償いだ」
私のチャクラが尽き、カツユ様との術の接続が自然と切れた。直後に輪廻天生の術が完了し、長門もやがて印をほどいた。体勢を保つことが出来なくなり、私の体は傾いてゆく。
「シズクっ!」
ずるりと落ちた私をナルトが受け止める。
「しっかりしろ、シズク!!」
「安心しろ……チャクラがほぼ失われているが シズクにオレほどの負担はない」
「お前……」
「……戦いとは双方に死と…傷と痛みを伴わせるものだ…」
彼の声がだんだん遠くなる。
「大切なヒトの死ほど受け入れられず 死ぬはずがないと都合よく思い込む……特に…戦争を知らないお前達の世代は…仕方無い」
視界が朦朧としてきていた。今すぐにでも意識を失いそうだった。長門の掠れて小さい声に、なんとか耳を傾けていた。
「死に意味を見出だそうとするが……あるのは痛みと……どこにぶつけていいか分からない憎しみだけ……」
ゴミのような死と、永久に続く憎しみと、癒えない痛み。それが戦争だと 私たちがこれから立ち向かうものだと、長門は声を絞り出して語る。
聞いていたい。
聞かなきゃ。
だってこれが最期の言葉だから。
「フッ……本といい…お前達といい…誰かが全て仕組んだ事のように…思える イヤ…これこそが本当の神の仕業なのか……」
どうしても最後に言いたかった。
「もう いいよ」
覚えてるから。
あなたの痛みも、
萎びた指先も、
たしかな温もりも。
長門と目があった。波紋に揺れるその目が私を捉え、弓のような弧を描いていた。
「オレの役目はここまでのようだ……ナルト…シズク…お前たちだったら…本当に……」
ねえもし死んだときにひとつ、いちばん大切な思い出だけを胸に眠りにつけるとしたら、アナタはいつを選んだの。
両親と幼い自分?
仲間と師匠との思い出?
自分が守ろうとした里?
わたしの母との時間?
そこに 私はいる?
最初から夢のようだったその人は、まるで本当に夢のように 散っていった。
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