▼この迷路をほどいて
「オレ達にお前が平和にするのを信じて待てとでも言うのか!?ふざけるな!今さら自来也の言ったことなど信じられるか!」
本当の平和。私も考えたことがある。
刃を交えずして、殺し会わずして敵と和解し合うことができれば、それが“八重”との約束を果たすことになるんじゃないかって。
シカマルが奈良家の森に埋めた飛段という男は殺戮に身を委ねた忍だったと聞くし、イタチが例外的に私を助けたことがあるだけで“暁”は戦いを好む人間が集まっているのかと思ってた。
この人も…
「ならオレがその呪いを解いてやる。平和ってのがあるならオレがそれを掴み取ってやる。オレは諦めねェ!」
長門の顔から途端に怒りが消えていく。
「……お前…それは」
と、微かな呟きだけが残った。
「?長門 どうしたの」
「その言葉は……」
「そうだってばよ。今のは全部この本の中のセリフだ。エロ仙人の書いた最初の本だ。本の最後にこの本を書くヒントをくれた弟子の事が書いてあった。アンタの名前だ、長門」
「!」
「私も希望を打ち砕かれたとき、この本を読んだの。この主人公の言葉が私に勇気をくれた」
「そしてこの本の主人公の名前 それが――――――」
「オレが諦めるのを……諦めろ」
その世界では別の《ナルト》が生きていた。
大国間の争いので小さな国の忍たちは翻弄され、平和はハリボテだった。
「くっ……オレを倒してもまた次の刺客がこの里を襲う。オレ達が呪われた忍の世界に生きているかぎり平穏はない」
「ならオレがその呪いを解いてやる。平和ってのがあるならオレがそれを掴み取ってやる!オレは諦めない!」
大国の中でぬくぬく暮らしている者に小国の苦しみが理解できるはずは無い、と登場人物が言う。その言葉が私の中で現実世界に重なった。
“痛み”の抑止力ではない本当の平和を主人公は追い求めるのだ。物語だからって、そのおはなしは易々とハッピーエンドに終わらない。結末はぐっと胸を鷲掴みにする。
“この主人公のモデルとなった忍だ、きっと最後の最後まで理想の世界を求めたに違いないよ!”
この本を読んだ人はきっとそう思うんだ。
生きる道を照らしてくれたのはアナタだったんだね。
「…き…貴様は?」
「オレの名は…」
「――――――ナルトだ!!」
現実の、私たちの仲間の《ナルト》はどんな結末を迎えるのか、まだ知らない。
「だからオレの名前はエロ仙人からもらった大切な形見だ!オレが諦めて師匠の形見に傷をつける訳にはいかねェ!」
ナルトの眼差しは強く、そこに一点の曇りも見当たらない。
「オレは火影になる!そんでもって雨隠れも平和にしてみせる!オレを信じてくれ!」
「……なぜだ…お前はどうして自分が変わらないと言い切れる?これからどれほどの痛みがお前を襲うことになっても変わらないと 自分を信じたままでいられるか?そう言い切れるのか?」
自分自身を信じきれるのか。
それは長門がかつての自分に投げ掛けているようだった。
昔の長門はナルトと夢を同じくする忍だった。その自分が苦しみの中で見失われてしまったことを思って。
ナルトは悩んだ末に答えを導きだした。
「主人公が変わっちまったら別の物語になっちまう。師匠の残したもんとは別の本なっちまう。それじゃナルトじゃねェ!」
その昔、忍は生き様ではなく死に様の世界だった。忍の人生は死ぬまでに何をしたかで価値が決まっていた。これからナルトが歩むのは、どうやって生きてきたか、そんな新しい世界だ。
「だから 続編はオレ自身の歩く生き様だ。どんなに痛てー事があっても歩いていく、それがナルトだ」
それがナルトの答えだった。
俯いた長門がほんの一瞬笑ったように見えた。
「オレは兄弟子 同じ師を仰いだ者同士理解し合えるハズだと前に言ったな。アレは冗談のつもりだったんだがな……
お前は不思議な奴だ。昔のオレを思い出させる」
「長門……」
「オレは自来也を信じる事ができなかった。イヤ…自分自身をも。だがお前はオレとは違った道を歩く未来を予感させてくれる」
「!」
長門は装置と融合していた両手を引きずり出し、印を組んだ。
「お前を………信じてみよう。うずまきナルト」
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