▼腐敗した世界に

「平和がノコノコやってきたか」

長門はたった六体のペインで里を壊滅に追いやった。しかし辺りに散った血痕をみるからに、長門自身も致命的な負傷を受けているように見えた。
長門の半身は雨の里で見たものとは変わり果て、衰弱がさらに進行していた。この戦いのうちに数十年分の寿命が代償になったのだ。
弱っている。

「オレが憎いか?仇を目の前にし 復讐を成し遂げたいだろう?」

ナルトの憎しみを誘う声。
ナルトに対し、お前は平和の犠牲となるのだと断言した。長門の装置から放たれた杭は真っ直ぐナルトの腹部に突き刺さる。

「ナルト!?」

なぜ。避けることはできたはずなのに。

「お前と話をするつもりでここへ来た。……けど他に確かめたい事もあった」

「確かめたい事だと?」

「自分の気持ちを確かめたかった。仇を目の前にしたら……オレがどうするのか 自分でもわかんなかったからだ」

ナルトの怒りや憎しみが、そのチャクラを伝導して私の肌をも波立たせた。
気持ちが痛いほどわかる。
自来也様を守れなかった。
カカシ先生やシズネ様、たくさんの仲間が長門によって殺された。私もそれに加担した者の一人だ。憎い、でも。

「やっぱてめェは許せねェ!今にも殺したくて……震えが止まらねェ!」

「ナルト……」

気づけば勝手に体が動いていた。
長門へ駆け出し、拳を向けたナルトの目の前へ。小南が立ち塞がるよりも早く私は長門の前に背を向け、ナルトの両肩を自分の腕で押さえていた。ペインの呪縛ではなく、私自身の意思だ。

“どっち”側なのか、もう自分ですら分からなくなっていた。

ナルト自身もピタリと体を止め、その拳はダラリと地面に向かって垂れ下がっていく。

「エロ仙人は本当の意味で理解し合える時代が来るのを信じてるって言ってた」

幼い時には分からなかったその意味。しかし失って、奪われた今になってようやく自来也様の言葉の意味がわかったとナルトは呟いた。
長門は自来也様を理想主義と言う。
ナルトは体勢を直し、再び長門に向き合う。

「エロ仙人の弟子だったお前達がどうしてこうなっちまったのか……お前達は今までの“暁”の奴らみたいにただ殺戮を楽しむ奴らじゃねーのは分かった」

ナルトの問いかけは、仲間を奪った仇に対して投げ掛けられるものではなかった。

「オレはお前達の事を何も知らねェ。話を聞いて……それから答えを出したい」

仲間を手にかけ里を潰した、憎くてしょうがない相手の話を聞く忍が、木ノ葉にいるだろうか?

長門はそれをどう思ったのか、ナルトの提案を受け入れる。

「いいだろう……オレ達の痛みを教えてやる」

「長門、時間のムダだ!今すぐこいつを」

「待て小南 オレはこいつの答を知りたい」



そして長門は人生を語りだした。
私の知らない過去を。
木ノ葉の忍による誤解で両親を殺害され、戦争孤児としてさ迷った日々。
そこで出会った小南と弥彦というかけがえのない存在。
師匠自来也様の導き。
臆病者の彼を強く成長させた穏やかな暮らし。

しかし彼らの夢は雨隠れの長半蔵、並びに木ノ葉隠れ暗部のダンゾウによって無惨にも打ち砕かれ、大切な仲間は目の前で、他でもない自分の刃で失ったのだった。
大国の平和の皺寄せだった。
理想を追い求めていた光はやがて潰えて、その腐敗した世界で痛み続ける傷を抱えて生きてきた。

それが私の父の物語。


「人は生きているだけで気付かぬ内に他人を傷つけている。人が存在し続ける限り同時に憎しみが存在する。この呪われた世界に本当の平和など存在しない。自来也先生の言っていた事は全て虚構でしかない」

ナルトは俯いたままだ。

「オレの話を聞かせてやった。答えを聞こう」


ナルトはどうするんだろうか。
もし彼が長門を殺す道を選んだら、私はどうする。
先程のようにナルトの前に立ち塞がり制止するのか?
それともナルトと共に長門を殺し、戦いに力で決着をつけるのか?
私にどちらかの判断を下せるのか。


ナルトが動き出し、服を捲って一冊の本を取り出した。最後のペインを倒した時に私に差し出したものだった。

「確かにそうかもしんねェ……オレもアンタの言ってた通りそう思う」

「……そうか」

「アンタ達の事は理解した。それでもやっぱりお前らは許せねェ。やっぱり憎い」

「……!」

歯を食いしばって、憎いと告げた。表情に浮かぶ怒り、憎しみ、哀れみ、共感、葛藤。

それがナルトの答え?。

「なら決着をつけると?」

「でも、エロ仙人はオレの事を信じて託してくれた……ならオレは エロ仙人の信じた事を信じてみる。それがオレの答えだ。だから」

再び開かれた瞳は青く、晴れ渡った紺碧の空のように澄んでいた。

「お前達は殺さねェ」

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