▼その名は
螺旋丸を受けたペインは回転しながら吹き飛んでいった。ナルトも疲労の末か真っ直ぐ地面に落ちていく。
「ナルト!」
私はすぐさま駆け寄り、落ちてきたナルトを受け止めた。
「サンキュ、シズク。……ペインはどこだ?」
「……向こうだよ」
私はナルトを立ち上がらせ、共にペインの傍らへ向かった。ナルトがペインの最後の一体“天道”を倒した。これで残るは、本体である長門だけだ。
「ペインはこいつでチャクラを受け取って動いてた。抜き取っちまえばこれでもう動けねえはずだ」
ナルトはペインの側にしゃがみ、その体に打たれた黒い杭をひとつずつ外していく。ナルトは自分も同じ痛みを味わっているかのように、つらい表情を浮かべていた。
「場所がわかったってばよ」
「ナルト君、行くんですか?なら今度は増援を……」
「いやダメだ!一人で行く!」
「私も行く」
私の声にナルトは眉間にシワを寄せ、俯いてペインの体に視線を落とした。
「九尾化する前にコイツから聞いたんだ。……コイツはシズクの父ちゃんだって」
胸が痛んだ。その発言は気紛れなのか、本体を悟られないための解釈なのか、それとも本体の長門の、本心なのか。
「ホントなんだな」
「正確に言えば……私はペインを操っている本体の 雨隠れの里の“長門”の娘」
「“長門”?」
名前を告げるとナルトの表情がハッと驚きに変わる。
「ソイツってば、長門って名前なのか!?」
「名前がどうかしたの?」
ナルトはおもむろに立ち上がり、忍服の中に手を突っ込むと、そこから一冊の本を取り出した。
“ド根性忍伝”―――自来也様の遺した物語だ。
かつて私が忍を辞めたいと思っていたとき、里外に出ていたナルトが送って寄越した小説だった。
“バーカバーカ、見そこなったってばよ”
ナルトからの叱咤が添えられてあったのを今でも覚えている。
「シズク、巻末の作者んとこ開いてみてくれってば」
ナルトが促すまま、私は本を捲る。
自来也様の顔写真に胸が痛む。私はこの人を、救えなかった。
末尾の自来也様の文章に目を落とすと、私は咄嗟に口を手で覆った。
胸と目頭が同時にかっと熱くなり、涙が止まらなくなる。
見つけてしまった。
「行こうぜ。シズク」
涙を必死に拭き取る私に、ナルトは掌を差し出した。私が自来也様を救えず、操られていたこと、長門の娘であることをナルトは知っている。それでも手を差し伸べてくれる。
私は頷いて、その手を取った。
*
「どうした?」
白眼が読み取ったのはナルトとシズクだった。速度を上げてシカク達は二人に接触した。名を呼ぶと、まだ若い、けれどもしっかりと忍の顔をした二人が振り返る。
「おじさま!」
シカマルの元を離れていったシズクの姿がそこにはあった。もうペインに操られてはいない。自分の意志で行動する彼女がいた。
今回木ノ葉を壊滅の危機に陥れた首謀、シズクがその娘であるという事実を、隣にいるいのいちはまだ知らない。
「お前がここに居るって事は、六人目のペインに勝ったって事か!?」
「勝ったとか負けたとか そんなのカンケーねーよ……」
いのいちの発言にナルトもシズクも目を伏せる。
「何があった?」
「これは……今までの戦争とはちがうんです」
「口ではうまく言えねェ。とにかくオレ達はこれからペインの本体のところへ行く。皆は来ないでくれ。オレ達二人だけで行きてぇ。ペイン本体と話がしたい」
シカクは黙って二人の言葉に耳を澄ませていた。
一方でいのいちは激しい剣幕で言い寄る。
「何を勝手な事を言ってるんだ!!お前がペインを倒した事には感謝してるが、今さら話し合いでどうこう済む問題ではないぞ!!」
「だったら!ペイン本体もその部下も敵の里も全て潰しちまえばそれで丸く治まんのか!?」
「話し合ってどうすると言うんだ!?奴は木ノ葉に仇なす敵だぞ!許す訳にはいかない!!」
「オレだって!オレだってそうだってばよ!!師を、里を、皆をむちゃくちゃにした奴なんか許せねーよ!!」
「……」
いのいちとナルトが言い争いに激しい火花を散らす中、シズクは無言で握り拳をつくって震えていた。
シカマルとシズクとの会話を聞いていたシカクには彼女が胸に抱える罪悪感を察していた。
だったら、と反駁するいのいちを制止し、シカクは目を閉じて言った。
「いのいち ここはナルトの言う通りこいつらだけで行かせてやろう……」
「シカク お前」
「ペインを止めたのはこの子だ。ナルトなりの考えがあっての事だろう」
シカクは自分の息子が以前話していた言葉を思い出す。
ナルトは木ノ葉の里にとって大切な忍になる、あいつと一緒に歩きたい、そう思わされる存在だと、シカマルは逞しくなった背中を向けて語った。
シカクはナルトに託す決意をした。
「……しかし…」
「いいから行かせてやれ」
「ありがとう シカクのおっちゃん」
ナルトはきびすを返し、急いで森の奥へと消えていく。その後を追おうとするシズクもまた、振り向いてシカクに頭を下げた。
「おじさま ありがとう」
これはシカクの、娘とも言えるほどに近しい存在だった。シカクが一時的に引き取って、奈良家で面倒を見たことがあった。保護者であり、父親同然。
シズクは今ではもう幼いこどもではなくなっていた。ありがとうと感謝を述べるシズクの横顔から、シカクは深く刻まれた悲しみを感じ取った。
自分のあの、しょうもない息子がこの彼女の姿をみたら、引き留めるだろうか。
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