▼諦めろ
引力や斥力をペインが発動する際、私は自分のチャクラをそれらの力と逆方向に放出し、なんとか身を留めていた。
幾度か刃を交えたが、想像の範疇を超えた技相手にこんな近距離戦剣術は不利だ。
それも、カツユ様でチャクラを大量に併用している。
チャクラが分散されているなら、チャクラの開放自体をより広げるまで。
私はチャクラ刀を鞘に納め、目を固く閉じて感覚を研ぎ澄ませた。
「八門遁甲第五 杜門 開!」
体内門を開放し、戦闘能力を飛躍的に向上できる八門遁甲で短期戦で臨む。
開門によって身体スピードは以前と比較出来ない速さになり、私は不規則な動きでペインの読みを惑わす。敵のインターバルの合間に火遁で円状の火柱を放つも、岩を自在に操られではね除けられてしまう。
「ハァ、ハァ」
「ただの忍術がオレに効くと思うな。オレに対抗したくば、オレのように輪廻眼を発動しろ」
“お前もいずれこの眼を開眼するのだ”
雨隠れで長門から伝えられた真実が反射的に脳裏を過る。
「私には……大切な師匠たちから教わった忍術がある」
ハァ、ハァ、浅い息を深い呼吸に変えながら、私はペインに正面から向き合う。
「お前の運命をねじ曲げた木ノ葉の忍術をか」
「……アナタから境遇を聞いて自分の気持ちに気づいた。どこのどんな存在になっても……私はやっぱり木ノ葉にいたい」
「その里は滅びた」
「滅んじゃいない。生きてる限り火の意志は芽吹く!」
もう二度と本心を手放しはしまい。
「痛みは永遠じゃない。乗り越えられればいつかは癒える。お前たちとの地獄じゃなくて、私たちはその先の未来を選ぶ……!!」
「それがお前の答えか」
蹴りや拳は当たるがペインを再帰不能にするまでには至らない。
もっと破壊力のある術でないと。考えを巡らせていると、不意にナルトの咆哮が鎮まった。
「ヴゥ……」
様子が一変した。獣の形をしたナルトはピクピクと震えている。体も先程までの隆起が止まり、むしろ力無く萎んでいくようだ。
「ナル…っ!?」
私が目をそらした一瞬をペインは見逃さなかった。ペインは引力で私を引き寄せ、黒い刃で私の肩を貫いた。
「うぐっ!」
血が噴き出す。ペインのチャクラが体内に流れ込み、体に悪寒が走った。ペインのもう片腕が私の首を掴んでいるため、拘束から逃げ出せない。身体の自由が効かず、段々と麻痺してきた。
操られている時と似た感覚だ。
危ない。
もがいているとペインが宙の塊に視線を注いだ。
目を見開き、ペインに一瞬の隙が生まれた。
「九尾が……消えた」
私は反撃してペインから離れ、再び空へと顔を向けた。そこにあったのは九尾の姿なく、岩に二本足で立つナルトの姿だった。
身体へのダメージは見られない。ナルトがいつもと変わらぬ姿でいることが、奇跡のように思えた。
「ナルト!!」
ナルトの九尾化が止まったことと関係してなのかはわからないが、岩の塊は原型を留めきれず、破片が次々に落下し始めた。
ペインの術が解けてく。ナルトもそれに従うように地面に降りてきた。私はナルトが着陸するであろう地点に向かった。
「ナルト!良かった!」
「シズクも無事だったんだな!!」
縮んでナルトの服に隠れていたカツユ様がひょっこり顔を覗かせた。ナルトは周囲を見渡し、未だ煙の途切れない里の方角を見ては胸元を握り締める。
「ヒナタは無事だよ。致命傷を避けてる。必ず治る」
「あっちは里の方……アレは…」
「心配しました。でも九尾化したナルト君の攻撃で木ノ葉の人々に被害は出ていません。運良くですが」
「……よかった…よかったってばよ…」
ナルトは肩を震わせ、堪えることなく涙を流した。
やがて袖口で涙を拭い取り再び前を向いた。ナルトの目の周りには奇妙な隈取りができていて、今までのチャクラとは流れが全く違ってた。
「それ…」
「オレの新しい術だってばよ!」
「そろそろ決着をつけよう」
ペインがナルトに呼び掛ける。
ナルトは私の方を向き耳打ちした。
「今のオレは仙術を使ってるから一緒に戦うのは危ねェ。シズクはここで待っててくれってばよ」
今しがた八門遁甲の術も切れ、私も戦うには足手まといになってしまう。
「……わかった」
ナルトは岩陰から飛び出し、ペインと向き合った。
「少しは痛みを理解できたか?同じ痛みを知らなければ他人を本当には理解できない。そして理解したところで分かり合えるわけでもない。それが道理だ」
「お前の本体の所へオレを連れていけ!」
「!」
「直接話してェ事がある」
本体と接触しなければ戦いが終わらないことをナルトも理解しているようだった。ペインは無駄だと言い伏せるが、尚もナルトは屈しない。
「なら仕方ねェ……本体は自分で捜す!」
再びナルトとペインとの戦いが始まった。ペインが問い掛ける痛みの連鎖にも、もうナルトに迷いはないように私には見えた。ナルトはペインの斥力で術ごと振り払われるも、たくさんの影分身が本体を支えていた。その志を、その背中を押すように。
「答えを持たぬお前如きが!……諦めろ!!」
ナルトがペインに放った言葉は師匠の書き綴った強い意志だった。
「オレが諦めるのを諦めろ!!!!」
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