▼がらんどう

意識が外界に接触できなかっただけで、これまで何が起きていたのかは、ずっと見ていた。
自来也様の忍術で私は木ノ葉に戻ってきた。
そして今、奇襲したペインによって、いま木ノ葉の里は跡形もなく消し去った。
もう壊すものはどこにも残ってない――――ああ、愛する里が地獄に変わっている。

この辺りは大きな木造の建物がいくつも建ちならんでいたはずなのに、目に見えるものは粉々になった。その欠片は私たちの生活を形づくっていたものたちだ。どれも散らばってる。誰かの服や家具、大切にしていた人形。家族写真の入ったフレームは、歪んでいる。みんな呻き声を上げている。剥き出しの大地で、この瞬間にひとりまたひとりと、家族や愛する人を想いながら 誰かが死んでゆく。
尊敬する先輩も。
そして、先生までもが。
駆け付けたシカマルやおじさま、仲間たち。このままでは、私はシカマルたちを殺し、“他の”ペインと合流して破壊の限りを尽くすのだろう。

「………シ…カ、…マル」

シカマルはすぐそばにいた。

「シズクか!?オレがわかるか!!」

シカマルは足を怪我して、立てなくなっているようだ。私の足もあらぬ方向に折れている。繋がった影真似で、同じように怪我をしたのだ。
しかし私の足だけは、治癒能力でだんだんと治っていく。再び立てるようになったら、今度こそ私はシカマルを殺してしまう。

「………は…やく…影首縛りの術を…かけて」

「!?」

「わ…たしを…このまま……締め殺して…」

「何わけわかんねーこと言ってんだ!!」

「ここに、…あいつがいる……あの人は…ペインの正体は……私の……父親」

「……は?」

シカマルは私の瞳を覗き込む。にわかに信じがたいのはわかる。これが夢なら、私も覚めてほしい。血の繋がった父親によって大好きな里を奪われたなんて、あんまりだ。

「チャクラを通して伝わってくるの。すべてを狂わせた木ノ葉が、忍の世界が憎い………いたい 悲しい くるしい……憎い」

チャクラはあの男から半分受け継いだもの。体に流れるあの人の、行き場のない感情が、吼えてる。叫んでる。苦しいって、絶え間なく悲鳴をあげていた。

「お前、」

「いやだ、やだよ。こんなの……」

なぜ戦うの。
相手の幸せを奪ってまで自分の世界を広げて、手に入れたものを幸福かなにかと思い込んで、とうとうこんなとこまで来てしまった。
戦いに勝利するのは正義じゃなかった。掲げた正義と正義とを擦り合わせても、パズルのピースのように合わさることはない。たがいに罪を擦り付けることなく、騙し合うことなく、誰の上に立つことなく 理想ではそうあろうとも、現実では認め合うことも、許し合うこともできてはこなかった。

「……まだ…おわらない………やだ……カカシ先生も……シズネ様も…死んじゃった……のに……」

「何だと……!?」

言うまでもなく二人を殺めたのも私の父だ。シズネ様の魂が引き抜かれたことも、カカシ先生のチャクラが感じられなくなってしまったことも。“ペイン”を通じて感じる。

「おねがいシカマル……私が誰かを殺してしまう前に殺して!」

「……」

「お願い…殺してぇえ……!!」

影首縛りの術で酸素が回らなくなれば体の動きも鈍くなる。その拍子に首をはねてしまえばいい。たとえ治癒能力があっても胴と頭を遠く離してしまえば蘇生は不可能だから。
私は覚悟して目を瞑った。
まっさらになってしまったこの里で、シカマルに最後まで面倒を掛けることを、すまないと感じた。

別の運命のもとに生まれたら、あなたの隣に居られたのだろうか。祈り続けたら、またあなたの隣に生まれ変わることが出来るだろうか――――しかし私の懇願とは裏腹に、シカマルは影首縛りを使わなかった。

ドッ。
拳を握り、真っ直ぐ私の頬に叩き付けたのだ。
痛みの感覚は僅かだが、起き上がっていた上半身が地面に倒れていく。


「―――聞いてりゃお前 いつまで甘ったれてンだ!!!」

シカマルの拳は真っ赤になっていた。
殴られた私の頬も、きっと同じ色に染まってる。
出会って十年、私は生まれて始めてシカマルに殴られたのだった。

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