▼ペイン侵攻

木ノ葉大通りを南に曲がれば武器町通り。
そのまた東は花札通り。
しかしこの瞬間も、目抜通りには地響きと爆発音が鳴り止まない。瓦礫と化した建物の跡を、シズクは歩いてゆく。
砂煙に混じる火薬と血の匂いも、それが意味するものがまるきり思考できない。

―――今のシズクは“ペイン”の一部であった。

通りを抜ける角。シズクは自分の足元へ迫り来る何かを察知して傾いた建物へと飛び上がった。地面を這う黒く長い影の、伸びた先には忍がいる。膝をついて印を組んでいた。
タン、タン。シズクは地を蹴り、着地しては別の場所に次々と飛び移る。羽のように軽く。しかし幾つもの影による複雑な陽動で追い込まれ、遂には一本の影に自身の影を絡め取られた。

「フー……流石に手こずるな」

シズクの首は強制的に向きを変え、影の使い手の方へと“向かされた”。今のシズクには、奈良シカクが自分の恩人であることもわからない。

「話にゃ聞いてたが、反応がねェってのは悲しいな」

捕獲成功。
影真似の術で陽動を補佐していた、奈良エンスイとシカマルの両名も 姿を現す。シズクの前方と後方に陣を取り、同班の山中サンタ、そしてもう一小隊が全方角を取り囲んだ。シホは、やや離れた物陰で様子を伺っていた。

「君はペインに操られているのか?」

サンタの問いにもシズクは黙するのみ。

「何故答えな――」

その時だった。
シカクの背後にシズクの影分身が現れ、拳を空に振り上げたのだ。かわしたシカクだったが、影真似の術は断たれ、解放されたシズクは間髪いれずに印を結ぶ。

火遁・灰積焼
広範囲に蒔かれた火薬に炎が伝わり、カチリ、シズクが奥歯を擦ったと同時に一気に燃え盛った。

「うわぁっ!」

煙が消えた跡には小隊の何名かが倒れていた。

「仲間に向かって術を……!」

火傷を負った忍のひとりが声を震わせる。隠れていたシホも、シカマルたちの身を案じて飛び出してこようとした。

「シカマルさん!」

「下がれシホ!他も死にたくねェなら下がってろ!!」

シカマルの怒声に、周囲の忍は口を真一文字に結んだ。

「こいつはオレが相手する。エンスイさんたちは負傷者を連れてここから離れてください」

「だが……!」

「お願いします。あいつは数で敵う相手じゃねェ」

エンスイはシズクを見た。病院の寝間着、拘束具のベルトの端切れ。虚ろな表情。彼女と接触する前にシカマルが言っていた“最悪の事態”が今まさに繰り広げられている。
仲間であれ操られている身であれ、里に危害を加える者を拘束できない場合、打てる対処はひとつだ。

「シカマル シズクをよく知るお前には――」

「オレも残る。他班と合流してくれ、エンスイ」

「シカクさん……」

シズクはチャクラ刀を鞘から引き抜き、鋭利なチャクラの刃をシカマルとシカクに向ける。この三人が一対二に別れる日が来ようとは、おそらく誰もが予想だにしなかった。
一呼吸置いてエンスイは頷き、他小隊の忍は負傷者を担いで去っていった。

「行くぜ 親父」

「ああ」


木ノ葉崩しの時分、シカマルはまだ新米の下忍だった。三代目火影が大蛇丸と対峙し、里の至るところで、木ノ葉の忍が命がけで戦った。
シカマルは里を離れていた。あの時追い忍から助けに来てくれた師はもういない。今はもう守られる側から守る側へ、託される側から託す側へと襷を受け取ったのだ。
託された玉のために戦う。
たとえ相手が――――大切な人間であっても。

「影真似の術!!」

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