▼消えた彼女

最後まで抵抗していた忍も、終には地面に伏して動かなくなった。
これで敵襲の知らせを出すこともできまい。
ペインを通して長門の瞳に映る木ノ葉隠れの里は、かりそめの平和に浸かって穏やかな日を迎えているようだった。青々とした森、顔岩が見守る賑やかな町並み。陽のあたる人々の暮らし。しかしそれらのすべては、自分たちの血と骨と涙を踏み台に繁栄した偽物。
神は罪を裁くもの。
今日を以て偽物の平和は終止符を告げる。ようやく本当の平和が始まるのだ。

「ここより世界に痛みを」


*

その日非番になった風祭モエギは、木ノ葉病院を訪れていた。医療忍術を教わり、師匠と呼び慕うシズク。しかしその師匠は任務から帰ってきてもモエギの指導を再開することはなかった。
シズクは未だ意識混濁扱。見張りについている忍が休憩を取りに席を離れたため、今部屋にはモエギしかいない。

「はあ………たくさん話したいことあるのに、いつ意識が戻るんだろ〜」

チームメイトの木の葉丸も、目標とするナルトに中々会えないと残念がっていたのを思い出す。自分たちはまだ駆け出しの下忍だ。憧れの先輩は遥か遠くを走っている。

ビー、ビー。

「!」

ぼんやりしていたモエギの耳に、突如として機械音が飛び込んでくる。
ガラスの部屋の中からだ。シズクに繋がれたチャクラ探知機の装置の針が大きく揺れている。

「シズク師匠っ!?」

慌てて入った室内で、先程まで微動だにしなかったシズクが急に動き出したのをモエギは目にした。拘束器具をチャクラで撥ね付けて立ち上がっている。

「師匠!!気がついたんですねっ!」

モエギは喜んでシズクのもとに駆け寄るが、答えないはない。虚ろな目のままだ。

「気分はどうですか!?わたしのことわかります?」

呼び掛けながらも、モエギは感じていた。
違う。いつもの師匠と。

なんか、怖い。

その動作は意識がなかった人間とは思えない程に身軽なもので、モエギはわずかに畏怖の念を覚えた。シズクは弟子に目もくれずにドアの方向へと静かに歩いていく。

「待ってください!どこに行くんですか?安静にしてないと……キャ!!」

モエギが行く手を拒むと、シズクはその手を強い力で振り払った。不意を突かれて部屋の壁にぶつかる。

「いったぁ!………って、シズク師匠!待って!」

窓が開き、シズクの長い髪が風に揺れる。
次の瞬間にはもう姿はなくなっていた。


*


同刻・暗号班会議室

暗号解読を続けていたシカマル・サクラ・シホの足元が突然、地鳴りと共に大きく揺れた。

「何だ!?」

窓の外を見れば、里のあちこちから灰色の煙が猛然と立ちのぼり、その合間を縫うように壊れた建物が目に入った。

「これって……」

事故ではない。敵襲だ。

「行くぞ!」

シカマルは一早く状況を決断し、窓から身を乗り出した。しかし足を離す直前に、背後の呼び止める声で動きを止めた。

「サクラさんっ、シカマルさぁん!!」

血相を変えて部屋に入ってきたのは下忍のくの一だった。エビス班所属、木ノ葉丸と同じ下忍班員のモエギだ。

「モエギ!どうしたの!?」

「大変なんですっ!シズク師匠が……シズク師匠がいなくなっちゃったんですっ!」

「!?」

「どういうことだ!?」

「師匠が急に動き出して、窓から飛び出していってしまったんですっ!」

そう言ってモエギはシズクの去った方角を指さした。不穏の煙が幾つも立ち上っている中心を。どうしてシズクがあの中へ?―――その答えを、できることなら知りたくはない。
まもなくしてシカマルたちは暗号班から外へ出た。色とりどりの建物は、多発的に起きる爆発によって黒い煙の中へ姿を消す。こどもたちの甲高い叫び声、逃げ惑う里の民。脳内に映し出されるのは、木ノ葉崩しの悲劇。

これは戦争だ。

「短時間での大規模な破壊。特徴からしてフカサク様が報告した“ペイン“に相違ないな」

「まさか里に攻め入ってくるなんて!」

「しかし何故敵襲の知らせが回ってこないのでしょうか?ぶっちゃけ、里の一点でも侵入があった時点で、警備部隊の連絡があるハズです!」

「奇襲も得意か……こりゃ敵の大将に先手とられたな」

侵入経路が北か南か東か西か、それすら定かではない。
力量も能力も未知数の相手。“暁”ならば純粋な狙いは人柱力・うずまきナルトのはずだが。

「サクラはモエギと木ノ葉病院に急げ!」

「了解!シカマルは?」

「オレは非常事態マニュアル通り親父と合流してシズクを探す。シホはオレと来い。お前は情報を握ってる。避難小屋に行くにゃ危険過ぎる」

「ハイ!」

別れる間際、サクラが不安な表情でシカマルを見た。

「シカマル もしシズクが操られてるようなことがあれば……その時は」

シカマルは答えなかった。

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