▼ため息つづきの人生です

朝起きて真っ先に拝んだのが幼なじみの寝顔で、オレはベッドから転がり落ちた。

「いってえ!」

打ち付けた腰をさすりつつ、冷静になってから再度確認。だが目の前の現実はかわらず、オレのベッドつまりは同じ寝床で、寝息をたててるシズクを発見した。

「げ マジかよ」

慌てて自分の体やらベッドの周辺やら、異常がねぇことを確認する。ハア、とひとつため息をついて、オレはベッドを背に座り込んだ。
昨日の夜色々話しこんで……そのあとの記憶がねえ。っつーことは、

「オレ 先に寝ちまったのか……!?」

ちらりと背後を伺うと、シズクはオレの気も知らずにまだぐうぐう寝てやがった。
オレももう12だし、流石に同じ布団で寝ちまったっつーのはヤバいだろ。
これは男として、なんか駄目だ。

いや、待てよ。数年間一緒に暮らしてた居候のコイツを、女と認定するか?今更女として意識しろってのが無理なんじゃねえのか。
今だって豪快にいびきかいてるし、騒がしいし。
眠っている分にはまだ静かだ。掛け布団からのぞく やわらかそうな頬とかはやっぱ女だよな……って、何見てんだオレは。

「ん」

「!」

不意に、固く閉じられたシズクの目から、涙が一筋つうと流れた。

「……」

由楽さんがいなくなって直後のシズクは、オレからみても、喪失感で輪郭がぼやけて滲むようだった。それが、医療忍者になると誓った日を境に 泣き虫なこいつが人前で泣かなくなった。
生き急いでるこいつのブレーキがオレの役目だと思ってたが、まさか昨日はそのオレが心配されるとはな。

「つーか 慰めてくれてんのはいいんだけどよ。人の寝床で勝手に爆睡すんなっての」

*

昨日のシリアスさと今朝がたの涙はどこへやら。
ちょうど数少ない非番だとかなんだで、シズクはその日、なかなか自宅へ帰らなかった。映画の新作DVDを持ち込んでは、母ちゃんがいないのをいいことにテレビの前で呑気に寝ころんでやがる。まあ、怠け者のオレが言えたことじゃねーけど。

ちなみにコイツの最近のお気に入りは目下、“風雲姫の冒険”シリーズ。しぶしぶ付き合って見てるが、こんな王道のストーリーで感動すんのは、コイツやナルトくらいだ。

《私は諦めない。この命ある限り、その全てを力に変え 必ず道を切り開いてみせる!!》

「風雲姫さま かっこよすぎる〜!!」

「うるさくて聞こえねぇよ」

「やっぱり富士風雪絵は火の国いちの女優だよねえ!わたしも風雲姫みたいになりたい」


それよりも、オレにゃ気になってることがあんだけど。
映画がようやくクライマックスからエンドロールへ移った頃に、むこうのペースに引き込まれる前に、オレはさりげなく本題を切り出した。

「なあ」

「ん?なあに?」

「おまえ 今度の中忍試験出んの?」

任務帰り、オレとチョウジ、いのは、アスマに引き留められて中忍選抜試験の話を聞かされた。
推薦だか何だか知らねーが、下忍になりたてのオレらが挑戦したところで受かりっこねーし、そもそも中忍なんてオレはめんどくせー。
だがアスマは口が上手い。チョウジには焼肉、いのには第7班のサスケとサクラの名前を持ち出して、すっかりふたりをその気にさせちまった。

あいにくオレはアスマの口車に乗るほど素直じゃねぇ。だが――この目の前の忍者バカが、いかにも食いついそうな話だとは、思った。

「中忍試験?わたしは受けないよ」

シズクがテレビからオレに視線を移した。
あっけらかんとした答えだった。

「てっきり受けるんだと思ったぜ」

「そりゃあ受けたいけどね。中忍試験って、試験のための救護医療班が編成されてるの。そっちのお手伝いにいこうかなってさ」

「ヘェ…なるほどな」

「みんなと会うの、久しぶりだなぁ〜」

内心ほっとした。他国の忍が集まるめんどくせー試験なんてラクなわけがねェ。もしこいつが受験したらきっとムチャクチャするに決まってるしな。

「シカマルは?」

「めんどくせー。オレが好き好んで出るわけねーだろ、あんなもん」

「言うと思った」

「お前の班はどうするって?」

「サクラは迷ってたけど、ナルトとサスケは出る気満々」

「だろうな。オレらじゃまだ早いっつーのに」

「そうだねえ。あ、でもシカマル向いてそう」

「は?」

「シカマルは頭がいいから、小隊長合ってるよ」

あきらめないで、道を開くのです!
風雲姫の声真似をしてけたけた笑ってるシズクに、またため息をつく。

いつまでもこいつに負けてるようじゃ、単に男女論振りかざしてるだけのイケてねー派だよな。それはポリシーに反する。
しかし……男ってムチャクチャ単純だ。

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