▼空蝉

フカサク様が帰還して丸2日。新たな忍術会得のため、ナルトは妙木山へ向かうことになった。

「仙術の修行は想像以上に厳しいぞ!やるかえ?」

「エロ仙人にもできたことだろ?だったらオレだって負けねェ!やってやる!!」

「よう言うた!」

未知の敵に立ち向かうには、攻略の糸口は勿論のこと、戦力が必要不可欠。圧倒的なパワーを有する“仙術”――――かつて自来也様が受けた修行を、ナルトは己に課す。

再び前を向き 踏み出したナルトのその背中に、内心オレは歯痒さを感じてた。
あいつの安否を確かめに一刻も早く暁のアジトへ潜入してェ。だが、手がかりになりそうな肝心な情報がまだだ。“本物葉意無椅“の暗号解読に、それきり進展はなし。検死の結果を待って情報を照らし合わせる必要もある。今は可能な限り推測を並べるしかねえ。

想像するな。
一触即発の不安は消し去れ。
とっくの昔に手遅れになっているかもしれねェ、なんて。


五代目、フカサク様、サクラ、そして出発前のナルトで 思案を繰り広げている、その最中。

「五代目様、報告です!」

結界班の忍がノック無しに火影室に乗り込み、間髪入れずに声を張り上げた。

「里の敷地内にて口寄せ蝦蟇と月浦シズクを確認。現在木の葉病院に搬送中とのことです!!」

「何!?本当か!!」

「シズクが!?」

「ハイ、生きています……っ!!」

シズクの帰還を知らされた瞬間、室内は安堵に包まれた。
アイツが帰ってきた。――――生きて。

溢れる涙を拭うサクラ。歓声をあげてガッツポーズをとるナルト。カカシ先生は静かに頷いて瞼を閉じていた。
うまく表現できねェ。
声や涙は出なかったが、冷えきってた胸のあたりに 何かがふつふつと沸いてくる。男なら殴りてえくらいだが、今はアイツが帰ってきたって実感が少しでも欲しい。この手に。

「容態は?」

胸を撫で下ろした五代目が結界班の忍者に問い掛けた。

「目立った外傷はないようですが……少し気にかかることが」

「?」

「様子がおかしいんです」

*

駆け付けた木ノ葉病院。
オレたちが通されたのは、隔離部屋だった。

拘束器具に縛られたシズクと、ガラス越しに対面した。

「おい、なんだよこれ」

オレたちが来たってのに、シズクはこっちを見向きもしないどころか、瞳が虚ろに開かれたまま何の反応もねェ。
全く生気を感じられなかった。

「なんでシズクが縛られてんだってばよ」

ナルトが真っ先に怒りを露にし、周囲の忍に訴える。

「何か異常な行動を示したのか?」

「いえ……発見当時、月浦シズクは水面に立っていましたが 私達が近づいて声をかけてもこのように何の反応も示さず」

「それでも ただの意識混濁じゃなくて、アイツが敵の術中……幻術か何かにかかってる恐れがあるってことッスか」

「そうです。念のためこのような処置をとりました」

「でもどーやって帰ってきたんだってば?」

「……自来也は移動に蝦蟇を使う。中には時限式で発動したり、効力が遅れて現れるよう術式を施してあるものもあった」

目を伏せた五代目に、カカシ先生が推測を続ける。

「つまり自来也様は逆口寄せか何かを予めシズクの使う蝦蟇に術式として仕込んでいた……木ノ葉に戻る策を講じていたと?」

「なら……シズクはエロ仙人の最後の術で帰って来たんだな」

ナルトは黙って聞きながら、悲しみが少し混じった笑顔を見せた。

外傷はすべて治癒してて脈拍も正常。身体機能に異常はない。サクラがガラスに指を添えた。

「一体何があったのかは分からないけど……人形みたい」

その言葉にいてもたってもいられなくなった。

「五代目様、接触しちゃ駄目ッスか」

「危険だ。罠かもしれん」

「不審な動きがあったら影真似で止めます。様子窺ってるだけじゃラチがあかねーっすよ」

「たしかに。シカマルの言い分、一理あるね」

すかさずカカシ先生がオレの肩を軽く叩き、フォローを入れる。

「ま!後ろにはオレ達もついてますし援護しますよ」

「……わかった。いいだろう」


五代目の懸念は杞憂に終わった。
オレはシズクと触れる距離まで近づいたが、シズクには何の変化もねえ。

「おい、シズク」

呼んでも反応はなくて。
右手を伸ばし、髪にそっと触れた。いつものボサボサ頭だけは相変わらずだ。
いつもの。
いつものコイツのはずなんだ。

「ここがどこだかわかるよな?木ノ葉の里だ。お前 帰ってこれたんだぜ」

思い付く限りを声にする。

「お前のことだ。どーせまたムチャしたんだろ……この超バカ」

オレが知るシズクは、顔を合わせればニッと笑って、怒ると手がつけられねェ般若になって、結構なブサイク面で泣いて、泣き止めばまた大口開けて笑い出す そういうころころ表情が天気みてェに変わるヤツだ。
こいつは幼なじみで。
オレの彼女で。
こんな人形みてえな存在じゃねェ。

「……めんどくせーやつ」

オレは腹立ててんだ。説教は山程あんだぞ。それこそ数限りなく。
聞けよ。

言ってやりてえんだからよ。お前が帰ってきてすげー嬉しいってよ。


「安心しろ。必ず治してやっから」

オレは脱け殻になっちまったシズクに向かって呟き、くしゃくしゃと頭を撫でた。
オレに今出来んのは、暗号の謎を解き、敵の手懸かりを掴むこと。そうすればコイツに起きた異変も解決できるかもしれねェ。
シズクは生きてる。
生きて帰ってきたなら、今はただそれだけでいい。

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