▼バカヤロー

夜に五代目の式が飛んできた。
めんどくせーが、元々五代目には用事があったし丁度良い。そんくらいの気持ちで火影邸に向かった。火影室には、いつになくやつれた顔をした五代目が、待ってた。


告げられた言葉の意味が飲み込めない。

「なんすかそれ」

聞き返すも、五代目は俯いてる。

「自来也様とシズクが暁のアジトに出向いて、自来也様は殉職して シズクは消息不明って どういうことスか」

傍らにはサクラも控えていたが、涙目を堪えて立ち尽くしてる。
オイ誰か、何か言えよ。

「自来也を援護した蝦蟇様の報告だ。自来也が深手を負い、瀕死だったとの証言から、殉職と判断した。シズクは……その当時まだ戦闘可能の状態だったらしいが」

仮定の話を聞きたいんじゃねえ。オレが聞きてェのはシズクの行方だ。大体、“暁”の首領と接触しただと?最後に会ったとき、シズクはそんな任務の話は一言もしていなかったじゃねェか

「アイツが 自分で任務に志願したんすか」

「……イヤ、自来也と共に任務に出動するよう 私が命令した」

五代目が指示した?んなヤバイ任務にアイツを?

「遺体は確認されてないんスね」

「ああ」

「じゃあ 雨隠れの里に拘束されてるって可能性も無くはない」

「可能性は限りなくゼロに近いだろう……“暁”相手に単身逃げ遂せると考えにくい。……自来也と同じく 殉職したとみている」

耳元がクリアで、頭ん中は妙に冴えていた。いつものように何百通りの選択肢じゃなく、ただ一本道だけ探して。
オレは無言で五代目に背を向け、足早にドアの方へ歩いていく。が、声を大にして引き留められた。

「シカマル、どこへ行く!話はまだ……」

「雨隠れの里に向かいます」

「!?」

「出来たら奪還任務の小隊を編成したいんで、今里にいる忍のリストをください。居るならカカシ先生と―――」

「ちょっとシカマル!アンタ、」

「サクラ、お前も来てくれ。医療忍者も必要だ」

刹那、五代目の血走った瞳と目があったかと思うと、腹部と腰に重い衝撃を感じた。

「っ!」

ドアを下敷きに倒れている自分の体を見て、殴り飛ばされたことに気付く。口の中いっぱいに広がる血を吐き出して、体に力を入れて立ち上がる。五代目、殺す気かよ。

埃の立ち上がる中から五代目が俺の胸ぐらを掴み引きずり出すと、吼えるように叫んだ。

「ガキが粋がるな!!敵の正体も分からない今、お前に何ができる?無駄に死んで犠牲を増やすだけだ!!」

「1%でも望みが残ってんならオレは、」

「自来也はハナから命を懸ける覚悟で里を離れた。シズクもそれを承知の上でついて行った。里に波風立たぬよう二人だけでな!」

「……!」

「急ごしらえの小隊を引き連れてノコノコと敵陣に乗り込んでみろ。あいつらのバカな意地が、本当の意味で無駄になる!!」

「それならなんでアイツを行かせたんすか!!」

答えないかわりに五代目は目語りかけてくる。

“冷静に考えろ”
“普通に考えて自来也とシズクはもう死んでるに決まってる”
“私もお前と同じさ”

“あとを追って死にたいんじゃないのか?“


オレと五代目は長い間睨み合っていた。やがて手を緩めてオレを離すと、力無い足取りでデスクに戻り、ガタンと乱暴に座り込んだ。俯いてる、髪に隠れて表情が見えねェ。
いつも豪快に笑い、鬼のように怒りを燃やす火影が、はじめて弱った姿を見せたように思えた。
この人と自来也様は伝説の三忍。旧知の仲だ。

「自来也は捕虜と、ダイイングメッセージの暗号を残した。解析すれば敵の手掛かりを掴めるだろう。そうすれば……こちらから討伐隊も送り込める」

手渡されたのは一枚の写真。手掛かりとなるそれは数字が連なった暗号で、ぱっと見どの暗号式もあてはまらない。オレには解読できなかった。

「それを持って今すぐ暗号部に行って来い」

暗号解読班はこんな時間まで仕事してないっすけど。しかし五代目は立ち上がり、自分からの命令と言って召集しろと答えるばかりだった。五代目は詳しい説明もなく、オレの脇を通りすぎて出ていった。
紙ぺら1枚の手掛かりだけ握り締めて、火影室をあとにした。
掛け軸が並ぶ螺旋の廊下、来た道を辿ると、目の前に“賭”の一文字。力なく壁に凭れた彼女の肩が震え、消え入るような呟きがシカマルの耳に届いた。

「……バカヤロー………!」


五代目が賭けに負けた。
どうしても一番負けたくない勝負に。


「大丈夫。私は最後までシカマルのそばにいる」



お前、嘘ばっかじゃねーか この超バカが。

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