▼ペイン
「いずれ木ノ葉へ迎えに行くつもりだったが、まさかお前の方から帰ってくるとは。実に運命的な再会だ」
視線を その男の螺旋の目玉へと滑らせた。この男は私のことを我が娘と言った。混乱がよりいっそう酷くなる。悪い冗談は止めて。
今度という今度は、自来也様も訝しげに私を見る。
「さっきから次から次へと…シズク!一体どういうことだァ!」
「狂言です!信じないでください!」
「狂言ではない。シズク お前は正真正銘オレの娘だ」
「ふざけるなっ!!…、私の父親は…!」
と叫んで、そこで言葉がつっかえた。
私は父の顔を知らない。
「そんな…そんなの信じない!その目で幻術か何かをかけてるんだろう!!」
「納得できないなら教えてやろう。お前の母は雨月チセ。お前を産み落とした直後に火の国の国境へ運んだ女だ」
息が止まるかと思った。私の母の名前どころか、雨月の姓まで言い当てた。
木ノ葉隠れの里でも真実を知っている人はいなかったのに。どうして。どうして。
「焦らずともお前にはじっくり話をしてやる。……まずは自来也先生だ」
男は口寄せの術を使い、大型の動物を出現させた。蟹や海老を思わせる生物の吹いた泡によって、小南を拘束していた蝦蟇油は洗い流されてしまった。
自来也様は手綱のように変化させた髪で男を拘束するも、奴は抵抗すら見せない。
「その件もひっかかるがのォ……長門、お前にいくつか聞きたいことがある。弥彦はどうした?」
“弥彦”…それは新しく聞く名前だ。
先の会話から察するに、その弥彦と小南、そして長門と呼ばれるこの男が、自来也様の弟子だったということか。
「ああ…いたな そんな奴も」
「!?」
「とっくに死んだよ」
「長門…お前、一体何があった?昔のお前は…」
依然として拘束されながら、その男は語り始めた。
戦いの痛みがオレを成長させた、と。
その男が話すことは、実に理解しがたい内容だった。
友への想いも所詮は人のもの。無限の痛みの中で自分は人から神へと成長したのだと。
「無知で愚かな子供も、痛みを知ることで人へと成長する」
無茶苦茶だ。自分を神と自称するなんて、幻想にすがってるとしか言いようがない。
「神となれば言うことも考えることも神のそれになる。先生……アナタはまだ人のまま。オレの言うことが分からないのは仕方ない」
「お前は一体何をする気だ?」
「この戦いだらけの下らない世の中に終止符を打つ。それが神の御業だ」
「それが目的なら何故“尾獣”を集める!」
自来也様の問いに、あろうことかその男は“尾獣”を使って新しい禁術兵器を造ると答えた。
「禁術兵器…?」
私はナルトを思い浮かべた。尾獣化してチャクラの制御が効かなくなったナルトは、たった一度の咆哮で大地を抉り、痛々しい爪痕を残していた。
あれを人為的に起こそうとしてる人が、目の前にいる。
「そんなものを造って争いにどう終止符を打つ?ますます争いが大きくなるだけだろうがのォ」
「争う国々にその禁術兵器を渡すのだ。兵器を持てば必ず人はその力を使う。億単位の数の人間が一瞬で死に絶える。そして人々は恐怖する!」
他里からの襲撃で木ノ葉の里が破壊され、みんなが折り重なるように地に伏している―――想像した絶望的な光景に 肩が震えた。
激しい怒りが沸き上がってくる。
「私の仲間はお前の組織に殺された!あとに残ったのは平和なんかじゃない、悲しみと憎しみだった!!」
「そうだ。人々が、国が、世界が、痛みを知るのだ!その恐怖心が抑止力を生み、争いは無くなる…世界はまだ子供なのだ」
「世界の成長のために痛みを教えてやる…それがお前の役目ということか?長門」
「そうだ。オレは平和主義者の神だからな」
「冗談を言うようになったのォ…」
なぜ私の出生の秘密を知り得たかは分からない。この狂人の話を信じるものか。
忍をこの里の外へ出してはならない。私たちがここで、確実に止めなくてはならない。
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