▼モニュメント

「自来也様」

歴代の火影様を納めた墓と 炎を象ったモニュメント。共同墓地に佇むド派手な忍に 声をかけた。

「お墓参り中にすみません」

「なあに、ただ寄っただけだ。ワシは墓の前で黄昏るタイプじゃねえ。アイツのことはとうの昔に割りきってたが 三代目のジジイはそうでもなかったからのォ」

自来也様はそう言って、私のほうへ振り向いた。
抜け忍といえど、共に育ち 共に戦火を潜り抜けてきた間柄。大蛇丸の末路を 彼は師匠に報告していたのかもしれない。

「それよりシズク、酒酒屋でワシの真後ろに座ってた黒髪のねーちゃん お前の変化だな?」

「お気づきでしたか」

「エラいべっぴんだったから気を取られてのォ。酔った綱手はお前だとわからなかったようだが」

それはちがう。綱手様は私に気づけないくらい動揺していたんだ。
大蛇丸がこの世にいないと知り これから自来也様を失うと考えて あの方が穏やかに酒を煽っていられるわけがない。

「ワシに用か?」

「はい。自来也様にお見せしたいものがあって来ました」

私は忍具ポーチから包みを出し、自来也様に向けて開く。中央に大きく“三”の文字が入れられた指輪―――奈良家の森で拾ったものだ。

「“暁”の飛段なる忍の所持品です。検死に回されてる暁も 同様の指輪をしていました。書かれてる文字は違いましたが」

自来也様は指輪を手に取り ゆっくりとそれを手の内で転がす。

「これまでの目撃情報によれば、鬼鮫の指輪は“南”、イタチのは“朱”……三、北、南、朱 どれも九字の頭文字ですよね?」

青龍、白虎、朱雀、玄武、玉女、三台、北斗、南斗、空陳。
古につたわる九字を用いての封印術は 強者が扱ってその効果を発揮し、結果的にあらゆる力を意のままに操ることができる。
九と聞いて連想するものは、そう、例えば九尾の妖狐。
または九匹いるとされる尾獣。
“暁”が各里の尾獣を集めていることは以前から自来也様に警告されていた。しかし 暁が尾獣を集めていったい何をするつもりなのか その理由は 大人たちは問わない。
その答えを私も考えてみた。

「過去の忍界大戦では尾獣が勝利の鍵だったんですよね?いま 9体の尾獣がひとつの組織の下に集まったら……世界はひっくり返る」

「察しがいいのォ……。この指輪は綱手にでも預けておけ。お前の手には余る代物だ」

自来也様は私に指輪を返し、火の意志のモニュメントを見上げた。
ふたたび戦争が起こるかもしれない、その予感を里の人々に悟られないよう この人は のらりくらりとお調子者を気取っててくれたのだ。

「雨隠れへ 私もお供させてください」

自来也様は眉を潜め、真剣な眼差しで私を見据えた。

「ダメだ。お前は綱手のそばにいろ」

「綱手様のお気持ちは自来也様が一番よくお分かりでしょう」

「それを言うならお前もその一人だろ。弟子を失う師匠の身にもなってみろのォ。師より先に死ぬバカは地獄に落ちるってもんだ」

「私は簡単には死にません。それに……これは私自身のためなんです」

これから起きることが分かっていたら、はたして私は彼についていくと志願していただろうか。
いつだってその時のことはその時しか判らない。

「自来也様、私はおそらく、雨隠れで生まれた捨て子なんです」

「何?」

「以前、いのいちさんの術で私は頭の中に入ったことがあります。そこには雨隠れの母の記憶の断片が残されていました。眺めた記憶の中に、“暁”によく似た装束のくのいちが映っていました」

「それは確かか?」

「絶対とは言い切れません。黒装束に、赤い雲の柄はなかったから……けれど無関係と思えないのです。私は確かめたい。お願いします、雨隠れへ連れて行ってください」

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