▼指輪

会うべきときに会うべき人に遭遇するように、世界はできてる。


火影邸。執務室の戸を叩こうとしたけれど、室内からわずかに聞こえた会話に、この手がはたと止まる。

「“暁”のリーダーの居場所を掴んだぞ」

自来也様の声だ。
あの方は里に帰って来るたびに、知らせを運んでくる。大蛇丸が死に その下手人がサスケだという情報も、先日彼によって伝えられたばかり。
“暁”のリーダーの居場所を掴んだ?

「どうだ?久し振りに二人っきりで外で飲まないか?話はそこでしてやる」

悪いとわかってたけれど、私は変化の術を使い、飲み屋での二人の会話に聞き耳をたてた。


“暁”のリーダーは 雨隠れの里にいる。
その里に単独で潜入すると、自来也様はそう話していた。
どくどくと、鼓動の音がやたらに大きく感じる。

どこ行くあてもなく ふらふらと里を歩き回って、結局家に帰ることにした。
帰路のあいだも聞いた会話を反芻する。
暁を相手にして、カカシ先生は重症を負った。
我愛羅は一度敗北し、砂隠れのチヨ様は殉職。
そして先の任務でも アスマ先生が命を落とし、仇討ちをしたシカマルは いつまで続くともしれない役目を背負った。
その“暁”のリーダーに、自来也様はひとりで挑もうとしてる―――


「シズクじゃねーか」

「!」

奈良家までやって来ると、玄関先でちょうどよく、シカマルと鉢合わせした。

「シカマル」

「よォ。どうした」

「えーっと……あの、この前貸した本、ちょっと必要になっちゃって」

「オレの机にあるから あがって取ってってくんねーか」

「うん、わかった。シカマルはこれから任務?」

「イヤ 中忍試験の会議」

「そっか……ごくろうさま」

「おう」

シカマルの部屋に足を踏み入れて、ぐるっと見回す。
机の上に山積みされた本のなかに貸した本を見つけて、何の気なしに手に取る。すると、ページの間に何かが挟んであることに気付いた。

「?」

見覚えのない、栞よりも厚みのある小さな紙袋。
確認しようと中身を覗いてみると、包みの底に キラリと光る、なにか。
息を飲む。
これって、まさか。
窓の方に駆け寄って、勢いよく開け放つ。空は雲ひとつない晴天。身を乗り出して シカマルの背中を探した。

「シカマル!」

大きな声で名前を呼ぶと、ひょろりとした後ろ姿が振り返る。

「ねえ!本に挟んであった包みって……!」

問いかけると、

「しまった」

シカマルは口を開き、目元を手で覆った。

「挟んだままにしちまってたか」

「シカマル、」

「めんどくせー。……あー……安物だけどよ、その……予約っつー意味でならいいだろ」


おじさまからアスマ先生へ。
アスマ先生からシカマルへ。
そしてシカマルはいつか、アスマ先生のお子さんへ。火の意志は途絶えることなく明日も燃え続けていく。

あなたはその役目を引き受け、木ノ葉のひとりの忍として苦難を堪え忍び、里のためにこれからを生きていくと決めた。ゆるぎない火の意志を。

私もまた、私の役目を果たそう。
私にもあなたと同じものがこの胸にあると そう信じたい。


「シカマル!木ノ葉の“玉”とはちょっと違うけど!!私自身にとっての“玉”は、シカマルだからね!!」

声を大に叫ぶと、シカマルはますます顔を赤く染め、

「こんなトコで言うことじゃねぇよバカ!」

と怒鳴った。
でも本気で怒ってるわけじゃない。だって踵を返したシカマルの口元は、ちょっと弧を描いていたから。
あなたは私のヤワな心に 愛を注いでくれた。
百年先まで愛してなんて言わない。けど せめてもう少し、私のためにたくさん溜め息をついていて。

包みから取り出したそれを、空にかざしてみた。
おひさまに照らされ きらきらと光る輪。
シカマルと私の今を結ぶ約束。

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